干物をとめはかく語りき

俤やえの

譲れないもの

 春は昼つ方。ようよう陽、昇り、うたたねするがいとをかし。

 約千年前に書かれた『枕草子』を書いた清少納言にもし会えるのならば、私はこう主張したい。

 九時ごろから正午あたりまでの日差しはいっそ甘美なまでにあたたかく、ふっくらした布団は離しがたい。朝方に布団から剥いでるなど考えるだけでおそろしい。というよりも、寒い。大自然に囲まれた、それこそ山の峰にうっすらと雲がかかる様が見られるような場所に行き、一度だけ早起きしてだんだんと紫がかっていく雲を見られれば満足である。そして陽の匂いのする畳の上で二度寝をするのだ。花粉を吸わないようにマスクは忘れずに。雅からはかなり遠い。

 ストーブはここ数日使っていない。湯たんぽもベランダで乾かし、あとは納戸に仕舞うだけ。しかし、来週また寒くなると言うから、まだ油断はできない。冷え症に花粉症、そしてデリケートすぎる自律神経を抱えた身にとって気温差は命取りだ。去年に比べれば、大分マシになった方だけれども。暑がりな私は、冬に欠かせないヒートテックを最近着ていない。そろそろ半袖ヒートテックにお出ましで願う時季だろうか。なんだかんだユニクロはすばらしい。

 さて、新しい春に向けて雑誌を買った。素敵OLスタイルを研究するためだ。なるほど、今年のトレンドカラーは白……。レース。割と毎年同じような気がしないでもないが、私が一通り目を通してから真っ先に思ったこと。

「脱毛しなきゃなあ」

 そう。秋から冬にむけて大切に育んだ無駄毛処理。お金のない身に永久脱毛は夢のまた夢。これから迎え来る春と夏に向けて、暴れん坊将軍な脛やわきとの戦いのゴングが今年も鳴ったのである。つくづく薄毛体質の方がうらやましくてならない。兎にも角にも母が買ってくる3足1000円の190デニール黒タイツとはおさらばだ。未だに慣れないストッキングよこんにちは。

 しかし、190デニールタイツからカラータイツやストッキングになり、暑さで生足をさらす季節になったとしても、譲れないものが私にはある。

 紺パンないしはお腹まであるスパッツを穿くこと、である。

 これだけは四季を通じて一貫している。ちょっと可愛い下着をつけて気分が弾むのは着替える時に鏡でポーズをとる時だけである。もちろん鏡にうつる自分の顔はその日の気分により堀北真希ちゃんだったりガッキーだったり様々だ。そこのあなた、笑うことなかれ。顔面に自信がもてない乙女のささやかな現実逃避である。

 話がそれた。紺パンやスパッツは、私が物心ついた時からはかされていた。そう、母の手によって私は二十余年間下着だけで出かけると言うスリリングで無防備なことをしたことがない。お洒落な友人からは、「日和、ありえないよ」と言われる。けれど、高校時代に一度スパッツをはかないで登校し、お腹を痛めるという正に痛い目をみたのだ。もう二度と同じ愚は犯さない。

 それに、女の子はお腹を冷やしてはいけないというしね。


                      150318/原稿用紙換算:4枚/1221字

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