そばかすの数
カゲトモ
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「こんばんはー」
どこか呑気な声で店の扉を開けたのは、明るく短い髪と化粧っ気のない女の子だ。
「いらっしゃい、堀川さん」
えへへ、とはにかむ頬には、愛らしいそばかす。自分では全然可愛くないと言うけれど、俺からしてみればとても愛らしいと思う訳で。
「えっとね、この間飲んだやつ。ファニーなんとか」
「ファジーネーブルね」
「そうそれ!」
ビシッと指をさしてスツールに登った。中学生みたいな身長も嫌なんだと、彼女はいつも言っている。
「今日はどうしたんだ? バイトは?」
オレンジ色に満ちたロンググラスを堀川さんに差し出すと、彼女は満面の、いやニンマリとした笑顔で言った。
「辞めたよ」
「えっ辞めた!?」
サラリと言って美味しそうにグラスを傾けた。きっとカウンターの下では足をぶらぶらしているに違いない。
彼女はこの間二十歳になったばかりだ。
「目標まで行けたから」
「そうなんだ、頑張ったんだね」
「当たり前でしょ、自分の夢の為なんだから。私が頑張らなきゃ、誰が頑張ってくれるのさ」
「ま、そりゃそーだ」
堀川さん、と呼んでいるけれど下の名前は知らない。彼女が十八の時から知っているが、外見は二年経った今もあまり変わっていない。いい意味で。
「それに、最近プロダクションの人からも声を掛けてもらえたし」
「え! 凄いじゃん」
「でしょー! えへへ、やっと私の良さに気付き始めって感じよね!」
なんてねー! と言いつつも嬉しさが溢れ出ている彼女は、この二年間ずっと夢の為に生きてきた子だ。
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