宗也さんの推測は的を射ていたのかもしれない。資料館の主自身が、忌まわしい伝承でんしょう祭祀さいしの記録を隠す側の人間だったとしたら。


 館長のつぶやきは、何者かに許しをうているようにも聞こえるが、その対象がわたしなら冗談じゃない。許してほしいのはこっちのほうだ。無駄だと思いつつも、必死に首を振り拒絶の意を表す。


「……おゆるしくださいくとぅるふふたぐんわたしのかみるるいえふんぐるい……」


 ひたりひたりと裸足の足音が近づく。

 無防備に開かれた脚を閉じようとあらがうも、こすれた革ベルトで自らの肌を傷付けるだけに終わる。


 わたしの視線は、見たくもないのに老人のせた足の間で屹立きつりつする物にいつけられる。館長の息遣いが荒くなり手の動きが激しさを増す。


 ちょっとまって、やめて! まさか――

 気味の悪い呻き声とともに、館長の吐き出した白濁液はくだくえきは、私の太ももを汚した。


「――――――ッ!?」


 嫌悪感で半狂乱になるも、今のわたしにできるのは、金具を鳴らしわずかにテーブルを揺らし擦り傷を増やすことだけだった。

 暴れ疲れて体力を使い、ほんの少し冷静な思考が戻ってくる。

 わたしが小学生の頃から老人だった館長に、若者のような精力があるはずがない。これで満足してくれれば、抜け出す隙もできるかも。


 半開きの口から荒い息と唾液の糸を漏らしていた館長は、かたわらに置かれていたベルトをわたしの膝に巻きつけると、両足を繋ぐバーを持ち上げ、鎖で両膝とビスチェの首輪部分を繋ぎとめた。


 恥ずかしい部分が己の目の前に晒される。わたしは恥ずかしさのあまり固く目をつぶった。


「……もうしわけありませんもうしわけありませんくとぃるふおゆるしくださいうけいれてくださいわたしのかみ……」


 脚に触れられる感触にびくりと反応し、薄く目を開けおそるおそる確認する。老人は震える指でわたしの太ももに精液を塗り込め、おぞましいことにすくい取ったそれを秘所にまで塗り付け始めた。


「――――ッ!?」


 節くれ立った指が丹念に秘裂を往復する。そればかりか、包皮ほうひき敏感な突起にまで精液を塗り込み続ける。


「――――ッ!! ン――――ッ!!」


 無理矢理与えられる刺激は苦痛しか生まない。淫猥いんわいな攻めから逃れようと腰を揺らすも、陵辱者の目には扇情的な動きにしか映らないだろう。

 脚を開いて固定されているため、充血してほころんでいる秘裂がいやでも目に入る。執拗に割れ目をなぞっていた館長は、潤滑剤代わりに塗り込めていた精液を一点に掻き集め始めた。


「ン……? ンンッ……!」


 館長の意図に気付き慄然りつぜんとする。わたしの涙を溜めた哀願あいがんも、獣欲じゅうよくに捕らわれた狂人に伝わるはずもなく。

 老人は精液塗れの指をわたしのなかに入れ、入り口あたりを浅く上下させる。


 精液のついた指でいじられた程度では、妊娠するはずはない。

 ささやかな性知識で繋ぎ止めた理性も、テーブルに上ってきた老人が、股間にそびえる肉槍で割れ目をなぞり始めた瞬間、跡形もなく消し飛んだ。


 いや! それだけは駄目! 止めて!!


「……おゆるしくださいふんぐるいむぐるうなふわたしのふくいんおゆるしをくとぅ

るふるるいえおゆるしをうがふなぐるふたぐん……」


 穴開きの猿轡さるぐつわからこぼれ、わたしの首元に溜まっていた唾液だえきすくい取ると、老人の指は両の乳輪をなぞり、恥ずかしくもしこり立った先端をしごき始めた。

 腰の動きだけで陰唇を弄っていた肉茎が、探り当てた入り口に押し当てられる。

 無駄だとは知りつつも、わたしははただ泣きながら首を振り否やを繰り返す。


「……よろしいですか? わたしのわたしのかみくてぃらよろしいです……」


 法悦の表情で涙と唾液を垂れ流し、祈りのような呟きを漏らし続ける狂人は、筋張った手でわたしの両方の乳房を鷲づかみにすると、一気に腰を――


         §


 生臭い。

 身体が薄汚い血で汚れてしまった。

 低脳な魚どもは、血の匂いまで不快で我慢ならない。吐き気がする。


 だらしなく口腔こうこうから舌をはみ出させた、眷属けんぞくとも言えぬほど血の薄い成り損ないの頭を投げ捨てた。

 食い込ませていた指にこびり付いた血と脳漿のうしょうを振り払う。


「生意気に。脳みそ入ってたんだ」


 部屋に差し込む月影が、何かに遮られ翳る。

 割れた窓の外、巨大な存在がひざまづく気配が伝わってきた。


『おむかえにあがりました』


 出来損ないの魚どもに、これの半分でも知性と忠誠心があれば。

 外がどうにも騒がしい。心得違いをした眷属けんぞくが、手前勝手な祭りを始めたか。

 おかあさんはどうしてあんな眷属を作ったのか。ため息が出る。


 えることと殺すこと。快楽を貪るのに頭がいっぱいの、くだらない存在に付き合う義理は無いけれど。

 明かりの落ちた町。伝わってくる恐怖と苦痛の渦のなかに、懐かしい波動を感じる。


「そこで待っててって言ったのに、またふらふらと出歩いちゃったの?」

『ゆきますか』


 赤い大きな眼を光らせ、わたしの騎士が問う。


「そうだね。目が覚めちゃったから、ちょっとだけ遊んでいこうか」


 少しだけなら、おかあさんにも叱られないだろう。

 窓の外に見える、空に向かいそびえ立つ虹色の光柱に、わたしは挨拶あいさつ代わりの殺意を放った。


END.6



https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884676949

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