脳裏に浮かんだのは、何故かキィの顔だった。

 あの子はちゃんと宗也さんのところへ帰れただろうか。

 海斗が一緒ならきっと無事だろう。昔から約束だけは守る方だったから。

 められた香と塗り込められた香油のせいか、次第に意識が朦朧もうろうとし始める。


 もう良いよね。流されちゃっても。

 目の前に、虹色の光があふれ出す。

 こんなにすごいことになっちゃうんだ。自分でするのとぜんぜん違う。

 とろけ出す意識の端で、伯父達があわてているのを知覚する。


 あれ……違うのかな?

 いぶかしむ私の眼前に、いつかどこかで出会った真っ白な少女の顔が浮かぶ。


『迎えに来たよ。わたしを助けようとしてくれたね』


 そんなの良いよ。それより、遊ぶ約束を――


         §


 しらない浜辺で目が覚めた。

 素足すあしを波が洗っている。

 いつの間にか、海が怖くなくなっていた。

 まだ年若い、優しい顔をした眷属けんぞくが世話をしてくれる。

 懐かしい彼のことを想い出せないまま、わたしはまたまどろみに落ちる。


 近くを泳ぐいるかや海亀があいさつを寄越よこしてくる。


『高貴な方の血を引く姫君。またお会いする日まで』 


 おかあさんに何かを言い含められたのか。

 かしましい小魚たちがその身を捧げに来たりもする。

 わたしはもうすぐ眠るんだ。おなかはすいてない。


 うれしいだとかざんねんだとか。口々にさえずりながら泳ぎ去る。

 また眠る時間が増えた。

 もうほとんど起きていられない。


 本当の眠りに付く間際。

 どこかで会った白い少女が、おやすみのあいさつに来た。


『また遊ぼう。きみが起きるまでにぜんぶ終わらせておくよ』


 空いちめんに虹色の門が開く。

 星の海を渡ってきたときにも、見たことがない綺麗な光景。


『神殺しの連中もここには手を出さないし、

 大いなるものの意思がわからない深みのものどもも、

 そうかんたんには寄り付けない』


『でもあの目つきの悪い、わかい眷属けんぞくはは頑張ってるみたい』


 少しだけいたずらっぽい目付きで、白い少女は付け足した。


『わたしが来なかったら、代わりにあいつが来るかもね』

『おやすみなさい』


END.4



https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884676949

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る