私はお姉さん

「私の歳じゃもう子どもは出来ないから」

それは、彼の母に言われたことそのままだったが、自分で口に出すと改めて実感が湧いた。

「別れよう。君は、もっと若くて可愛い子を見つけてね」

彼の前ではサバサバしたお姉さんを最後まで演じることになった。

別れ際までおろおろしている可愛い男で良かった。下手に咄嗟に抱き締められでもしたらぼろ泣きしただろう。

彼の母に交際について難色を示されて以来、ずっと悩んでいた。誰かに祝福されない結婚なんて、幸せになれないよ。

鼻をすすりながら川辺を歩いた。

出会うのがもう少し早ければ……、それはそれで、私が犯罪者になっちゃうな。

私が若かったら? 彼がもっと歳だったら?

老いた彼を想像して、でもそれが本当には目にすることは出来なくなったから、また涙が込み上げてきた。

いい歳して道端で泣いていたくはないな、と足を早める。ハイヒールの爪先を何かにぶつけた。

「?」

ダンボール箱だった。中から、ニィと声がする。箱には子どもが書いたような筆跡で「拾ってください」

あら、今時珍しいオーソドックスな捨て猫!

私はダンボールを持ち上げた。

えーと、今のマンションってペット可だっけ。駄目なら引っ越し先を探さないとな。

猫と、猫を泣く泣く捨てたであろう捨て主に向かって威勢を張る。

「仕方ないなぁ、お姉さんに任せておいて!」

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失・恋・掌・編・集 詩月みれん @shituren

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