粗チン童貞と変態処女だけが世界を救う術を知る。

5A

理想と現実と鞘

八代翔春はちだいかけはる君、あなたのちんちんを見せて欲しいの」


 僕は唖然とした。

 仮にも僕が通っている高校でトップクラスの美少女でアイドル的存在である天原葵あまはらあおいさんの口からそんな言葉が出るなんて全く想像もつかなかった。


「天原さんって、やっぱりヤリマンだったんだ」

「ヤリ・・・・・・何か言った?」

「ごっ、ごめんなさいっ! なんでもない!!」


 クラスの誰かが言ってた。

 天原葵は男漁りが趣味で、体育館裏へ呼び出してはヤリまくっていると。


 そんなのモテない男子が作り出した下卑た妄想か僻んだ女子の戯言だろうと信じてた。

 だって、この高校に入学して1年間、ずっと天原さんは可愛い。いつも笑顔でクラスの皆に優しい。優しさの中にしっかりとした正義感の強さが垣間見えて決して人の悪口も言うこともない。

 可憐で清楚で凛としている、黒髪のストレートヘアーがとても似合う素敵な人なのだから。

 

 だからこそ、天原さんからの手紙が僕の下駄箱に入っていた時は小躍りする程嬉しかったし、偶然にも同じ日に僕も天原さんの下駄箱にラブレターを入れておいたからこれはもう運命じゃないか。と思っていたのに、指定された体育館裏へ来てみればこんな事態になってしまった。僕はとてもショックで悲しくてやりきれなかった。

 普通の男子なら喜んでいるかもしれないけれど、僕の中の天原さんはそんな事を絶対に言わない。そのハズだったんだけど・・・・・・


「どうして僕なんですか?」

「君がこの学校で最後の一人だからよ」

「・・・・・・最後?」

「そう。あなたのちんちんだけまだこの目で確かめていないの。だからはやく見せて頂戴」


 という事は学校の男子全員とHしたということなんだ・・・・・・。

 全身に虚無感と喪失感が襲う。まさかあの噂が本当で天原さんはヤリマンクソビッチだったなんて本当に悪い夢でも見ているかのようだ。

 

 でも、天原さんの眼に厭らしさは無かった。

 雄を誘うような艶めかしさではなく、その眼からはクラスでは誰にも見せた事のない真剣さが伝わってくる。

 

 僕は天原さんがクラスメイトに囲まれて優しく笑っている顔しか見た事がないけど、こっちの方が天原さんにとっては素の表情なのだろうか。新たな発見だった。


「・・・・・・嫌です。見せたくありません」

 僕は僕をいじめているクラスのやつらにでさえ拒否をした事が無かった。

 でも今、この学校に来て初めて他人からの頼み事を拒否した。勝手に作り上げた理想像に裏切られたからという自分勝手ではあるけれど、どうにかして彼女に一矢報いたいと思っているのかもしれない。


「あなたに拒否権は無いのよ。これは世界を救うのに必要な事なの」

「世界を・・・・・・ってうわあっ!!」


 天原さんは僕の目の前にどんどんと近づいてきてどこからか出した手錠を僕の両腕にかけた。天原さんは女子でもかなり身長が高めの174cm。それに比べて僕は男子の中で一番小さい153cm。体力も腕力も天原さんには叶わない。

 そしてシャツを捲って素早くズボンを下げた。この際に要した時間わずか0.6秒。もはや神業である。学校の男子全員の相手をしているのだから手馴れているのかもしれないと瞬時に理解した。

 


「包茎で短小、太さやサイズは合っている・・・・・・これは何かしら? 神代君、この鞘は抜けるの?」

 

 何を聞いているんだこの人は。鞘とはきっとカワのことだろう。

 僕は顔を真っ赤にして自分の陰茎が重度の仮性包茎であり、カワは剥けるけど剥くと痛い事を告白した。


「ふーん。ありがとう。もう行っていいよ」


 天原さんはそう言ってから僕にかけている手錠を解き、僕に背中を向けたまま何かをぶつぶつと言っている。

「やはりこの学校では無い?でも予言が外れる事なんて有り得ないし・・・・・・」


 なんて勝手な人なんだ。僕のアソコを無理矢理見て辱めておきながら何もせず、ありがとうだけだなんて。


「あのっ! 僕の手紙、読んでくれましたか!?」


 様々な感情を抱いていた僕は下駄箱に入れたラブレターの事をぶつけてみた。

 せめてあの一生懸命描いたラブレターの答えを聞かなければならない。

 僕の心臓は、ドキドキという効果音が周囲に響き渡りそうなぐらい高鳴っていた。


「手紙? 申し訳ないけど、そんなもの見てないわ」


 そんな・・・・・・たしかに下駄箱に入れたはずなのに読んでいないなんて絶対嘘だ。

 いや、本当はきっと読んでいるんだろう。でも僕なんか天原さんに値する人間じゃないんだ。門前払いだ。いやいや、下駄箱の時点でもう払い落とされているのだ。


 失恋と言うにはあまりにもショックすぎる出来事に絶望し僕は泣きながらその場を走り去った。

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