第五話「神父の嘆き」
銀髪の少女と黒猫、そして金髪の女騎士が通された部屋は神父の執務室だった。
さほど広くない部屋に神父の執務机と客用のテーブルが並ぶ。
二人は見習い青年の入れたお茶で一息つき話を始めた。
「んじゃさー、率直に聞くけど。今回の話本当なのー?」
ソフィアは悪ぶれもせず痛いところを突く。
街の行政機関たる教会の神父に対し、街の噂について真偽が不確かな状況であること。
さらに死者の復活という神の秩序に反する噂が広がり、何かしらの被害者も出ているという事実。
教会の怠慢ではないか?という質問と同義であった。
神父もそれは承知している、その証拠に沈痛な面持ちで話を進めた。
「申し訳ないのですが、噂に関してはあくまで噂とお答えする以外ないのです。私共も信者の助けを借りて墓場の周辺を見回ったりしてみたのですが・・・いるのは野良猫野良犬の類のみで死者などとても……」
「じゃあさーなんで被害者が出続けてるのー?それじゃただの噂だって片付けられないよー?」
「私共も訳が分からず困惑しておるのです、神の秩序が光さす地上において死者が復活するなど……なぜそんな噂が……」
「んー困ったねーアリスたんはどう思う?あ、あと猫ちゃんに何もないのはかわいそうだよー?」
見習いの青年が困惑して黒猫と女騎士を交互に見る。
「猫ちゃんも喉乾いたよねー?」
ソフィアは黒猫に喋る掛けるようにアリスと青年を交互に見る。
「……ミルクを持ってきます……」
見習いの青年は恐らくこの女騎士には抵抗が出来ないことを悟っていた。
アリスは誰にも気づかれることなく小さく震える。
「(猫……猫扱いだ……)」
気を緩めると大笑いしてしまう状況を必死に耐える少女。哀れな獣に身を落とした黒猫は恨みがましい目でそれを見ていた。
しばらくして黒猫にミルクが運ばれてくる。
一瞬アリスがフルフル震えたが、改めて話を戻すことに集中した。
「占い師ごときの身分で申し上げるのは心苦しいのですが、たしか神父様は調査の結果『死者が蘇った形跡はなかった』ということでしたね・・・ですが改めて被害者が出ていることのみに視点を置いた場合……」
ソフィアは手のひらに拳を落とし、なるほどと口を開く。
少しわざとらしく。
「あーそだねー。噂が先行しているからそんなオカルトな話題に行きがちだけど、単なる殺傷事件ということもあるよねー、野盗の類とかさー野生の獣とかさー」
「確かに……でもそれならば心当たりがあります」
神父が静かに口を開く。
「この街はご存知の通り、近隣の街からの流通が一か所に集まる商いの街です、そこには当然いくつかのギルドが集合しているわけですから……」
ソフィアはそこまで聞くと不敵な笑みを浮かべた。
「市場の独占を目論むギルドがいるってことかー」
物が集まる所には金が集まる。すべてを独占しようとするものは必ず存在するのだ。
世界中の秩序を守ってきた騎士団であればこそ、災いの種は所々に落ちていることを知っている。
「それこそ噂と同様、あくまで想像の域を出ない事ではあるのですが……」
「でもあっやしいーよねー。ちょっと調べてみよっかなん。神父さん各ギルドに連れてってもらっていい?」
「かしこまりました、私共教会も神の秩序の元これ以上の犠牲者は出せません。ご協力いたします。」
では、っとソフィアは立ち上がり、
「アリスちゃんありがとー、事件解決に向けて一歩前進だよー」
「いえ、私は余所者ですから客観視した結果で……で、なんで私は体中を触られているのです?」
話の途中にも関わらず、ソフィアはアリスに抱きつき体中をまさぐる。
「ムフー!いやいやご褒美と親愛の証だよー、スキンシップーってやつー?」
表情一つ変えないアリスはご褒美と親愛をされるがまま固まっていたが拳は怒りに震えていた。
「金髪ビッチうぜぇ」
言葉にならない言葉は黒猫にしか届いていない。
『ざまみろアリス』
黒猫は従者に聞こえるように少し大きめに鳴いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます