ひとつ屋根の下〜エピソードゼロ〜

世界三大〇〇

秋田編①

 秋田港に着いたのは、未明のことだった。この日は新月で、郁弥はまだ暗い空を見ながら、どんな温泉に巡り会えるのかと考えていた。温泉や大浴場が好きなのだ。それも秘湯と呼ばれる温泉には目がない。秋田には、少し足を伸ばせば、様々な秘湯がある。全てを1日で巡ることはできないほどだ。だから、どこへ行こうかと考えるだけで楽しいのだ。秋田駅まで歩くのも最初は苦にはならなかった。

(星が綺麗だな)

 足取りも軽く大都会では見えない景色を楽しみながら歩いた。


 だが、そんな浮かれた気持ちでいられたのも、はじめのうちだけだった。海沿いとはいえ、未明の寒さは厳しく、郁弥を苦しめた。さらに、秋田駅周辺まで出てきたものの、寒さをしのぐ場所もないのだ。ゆっくりと休めそうな店はどこにもなかった。ようやく白くなり始めたばかりの山の稜線を、恨めしそうに眺めた。人影もほとんどなかった。

(あぁー、早く温泉に入りたい!)

 郁弥は叫ぶように言った。叫んだところで、誰に迷惑をかけるでもないのだろうと思ったのだ。それに、寒くて叫ばないと辛いのだ。


「おい、小僧。だったら良いのがあるぞ。付いてきな」

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