友人
「最近どうしたのさ」
「え」
昼休みの食事中、テツが唐突に切り出した。ダイは何のことか分からず、目を白黒させる。
「ええ、自覚無いの?」
「うん、なんだよ」
「凄く必死というか……、焦ってるでしょ」
「それは」
無自覚だった。と言うよりは、意識している暇がなかった、の方が正しいだろう。本当に強い存在というものを目にし、自分の弱さを自覚してからというもの、がむしゃらに力を求め訓練に明け暮れていた。それは傍目にも明らかで、特に近くで見ていたテツには怖くも映っていた。だからこそ、意を決し尋ねたのである。
「早く、強くなりたいから……。一人前のヒーローに」
「うん。気持ちは分かるよ、けどそれでもすぐにはなれない、だから落ち着いて、今のダイは無理をしていると思う」
「だけど」
「ある時から急にだよ、一週間くらい前」
「……実は――」
ダイはレナードと出会ったた時のことをテツに話して聞かせた。最初は驚いたように見せていたテツだが、次第に表情が変わり、話し終わった頃には心配と怪訝が混ざったような顔になった。
「……それで、ダイはその“断罪人”を見て、どう思ったの」
「尋常じゃなく強い、イービルを三人も相手して一方的に」
「怖いとは思わなかったの、だってそいつもイービルでしょ」
「怖いとは思ったよ、今も思ってる。けどそれと同じくらい、その強さに近づきたいと思ってる」
一呼吸置いて、テツは改まって言葉を紡ぐ。
「ダイは、強くなりたいの? それともヒーローになりたいの」
「そりゃあ、当然ヒーローさ」
「ならやっぱり、そいつには近づかないほうが良いと思う」
テツの真剣な顔を見、心から自分を心配しているというのが分かり、ダイはいい友人を持ったと内心で頷いた。実技では学年の中でも下位にいるテツだが、それでも授業に取り組む姿や、今の心優しい様子を見れば誰よりもヒーローに向いているのだろうと思えたダイ。
「――わーかったよ! お前は俺の母親かっての」
「はは、なんかダイは見ていて心配になるんだよ。危なっかしくて」
「子供扱いすんなー」
指摘を受けて初めて、自分の焦りを自覚したダイ。強さに憧れる気持ちは収まらないものの、落ち着きも必要だと納得した。それでも彼の心に燻る気持ちが消えることはない。
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