経験

「ちっ」


 レナードはシュレインを振り払うと手からワイヤーと伸ばし、天井のシャンデリアに巻きつけ着地した。


「落ち着けよ、俺はもう今日は終業したんだ。帰らせてくれ」

「黙れ!」


 頭に血が上ったシュレインはレナードの言葉を聞かずに攻撃を続ける。だがどれもがレナードに防がれ、距離を取られた。


「……なぜだ!」

「名前は知っているくせに、他は知らねえのかよ。坊主」

「坊主と……、そうか、忌々しい」


 レナードの言葉を受け思い出した、レナードの能力。全ての能力を無効化する、唯一無二の力、悪魔を殺す悪魔の業。


「そんな湿気たパンチじゃ、どうにもならんぞ」

「煩い……!」


 シュレインは図星を突かれたが、否定する。しかし事実、能力の“二つ”を失ったシュレインは劣勢といえる。

 シュレインは世にも珍しい複数能力の保有者で、二つ持っている「ダブル」が殆どの中、更に希少な『トリプル』だった。「強化」「超能力」「磁力」この三つがシュレインの能力であるが、トリプル、ダブル能力者は別れた分一つの能力が減衰する。シュレインも例外ではなく、彼のポテンシャルを持ってしても能力は、一つしか持っていない能力者の三分の一である。身体能力は基礎能力の問題もあって単純には比較できないが、超能力になるとサイコキネシスの力も弱い。最後の磁力は、有機、無機を問わず引き寄せたり離したり出来る。しかし同能力者は複数対象を指定したりも出来るが、シュレインは一つのみしか指定できない。

 彼はこれを組み合わせることによって、並の能力者を凌駕する。体を強化し、物理現象に干渉しながら対象を引き寄せる。こうすると相乗効果で単純な殴る蹴るの攻撃であっても、強化に関しては遥かに劣るゲイルをも圧倒した。更には複数能力があるゆえに対応力も高く、特に一対一においてはどんな能力者にも同等以上に戦える。なのでイービルの対応において、いかにシュレインを強敵と一対一の状況に持ち込むが主眼に置かれる。そうして名づけられたのが彼の二つ名『フィニッシャー』である。


 話を戻すが、その三つの能力であるが能力を無効化するレナード相手では、レナードを対象にしたサイコキネシスと磁力が発動しない。それでも単体で言えば実質無能力者であるレナードの苦手な部類なはずの、強化能力、身体能力で圧すシュレイン。逃げようとして壁際に移動するレナードを追撃する。だが数多の訓練を積んだシュレインの猛攻を、レナードが受け流す。更には。


「なっ……!」

「どうした、よちよち歩きだぞ」

「なにが、触れるだけでも効果があるのか!」


 レナードがガードしたり、攻撃をしたりしてシュレインに触れると、その部位が力を抜かれるような感覚があるシュレイン。強化能力すら、接触によって解除される。それを知ったシュレインには冷や汗が流れる。強力無比な強化能力者であったザ・トップが敵わなかった理由の一端を知った。


「帰るなら今のうちだ」

「そんなこと……、出来るものか!」

「――なら終わりだ」


 レナードがシュレインに向けて銃を構えた、咄嗟に銃口の先から回避するが放たれたのは上方、計三発の銃弾が天井のシャンデリアを打ち抜き落下する。そのまま撤退するレナード。


「逃がすか!」


 背中を向けて逃げ出したレナードを追いかけようとするが、レナードは急に振り返った。


(やられた……!)

「ほらよ」


 レナードの後ろ回し蹴りを腕で防ぐが、そこから全身の力が抜けて、受けきれずに飛ばされる。シャンデリアの真下に転がり降り注いだそれの下敷きになった。

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