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「はぁ」

 店内に入ると一気に暖かさに包み込まれる。深夜には降り出しそうな空の事を考えて、暖房は少し高めに設定していた。乾燥を防ぐために加湿器は必需品だ。

 加湿器に給水をしてダウンを脱ぐ。ポケットから取り出した小さなチューブを机に置いた。スマートでいて女性らしいデザインのそれはもちろん俺が購入したものじゃない。

『これ良かったら使って』

 そう言ってさっき祥子さんが手渡してくれたものだ。

 無香料で潤うのにさらっとした使い心地で、とても気に入っているものだとか。いつもストックを持って歩いているから一つあげる、と断る俺をやんわり制して握らせてくれた。

「そう言うとこがいいんだよなぁ」

 なんて。多分、祥子さんは誰にでもそうしているのだろうけど。だって人気クラブのママだもの。

 しかも年齢不詳の美女で、俺がこの世界に入って来た時から全く歳を取っていないように見える。まるで祥子さんだけ時間の進みが違うみたいに。もしかして魔女では、と思うくらい。いや、美魔女か。

 どうしたらあんなに若くて美しく居られるのだろう。それなのに、見た目めっちゃ綺麗で若いのに、漂う熟女の色気ときた。さらに所作の美しさ、上品さ、話のセンス、気遣い。全てにおいてパーフェクト。しかも気さく。

 うーん、あのIT社長の常盤さんが気に入っているのもわかる(以前常連さんなんだと祥子さんから聞いた)。

 あんなに完璧な美女にお酌をしてもらいながら過ごす時間は至福に違いない。もちろんそんな特別な美女との時間は、御代金も特別なものになるんだけど。

 俺にはまだまだ祥子さんのお相手は無理そうだ。


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