吐く息は白く頬は紅く

カゲトモ

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「こんにちは、花菱君」

 冷たい風に吹かれながら看板を磨いていると、後ろから声を掛けられた。振り返るとそこにいたのは黒い着物がよく似合う女性だった。

「あぁ、祥子さん。こんにちは」

「久しぶりね、元気にしてる?」

「おかげさまで。祥子さんは?」

「ふふふ、元気しか取り柄がないの」

 長い睫を振るわせて笑う姿は着物に描かれた真っ白な百合のようだ。

陶器のように白い肌、薄く色づいた頬、紅色の色っぽい唇、細い首、長い指。なんだか作り物みたいで、ガラス容器に入れられた日本人形のようだといつも思う。

「いつにも増してお綺麗ですね」

「ふふ、まぁね。これでもクラブのママだから」

「でも、出合った時から全然変わらないじゃないですか。秘訣とか、あるんですか?」

「え? 秘訣? そうねぇ」

 祥子さんはそう言うと、いたずらに笑って俺の方に手を伸ばす。

「こうやって若い子からパワーを貰っているのよ」

「えぇ~?」

 ぎゅっと握られた手から温かさが広がる。祥子さんの手は細くて白いから、てっきり冷たいと思ったのに、そんなことは全然ない。

「って、花菱君、あなた手が氷みたいに冷たいわよ!?」

「今まで看板拭いていたんで」

「あらあらあら、可哀相に」

 そう言ったかと思うと、祥子さんは握った手を両手で持ち上げて、はぁっ、と息を吐きかけた。

「冷たいわねぇ」

「う」

 不覚にもドキッとして、身体が一瞬熱くなる。ダウンを着ているから暖かい訳ではないのに。

「あ、ありがとうございます」

「バーテンなんだから特に手指には気を遣っておかないと」

 ふふ、と上目使い。可愛いと綺麗が両方あるなんてずるい人だ。

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