正解は創るものです~異世界でよろず屋はじめました~

@yyyuki

第1話

 ―――記憶がない。


 いや、記憶はある。けっして記憶喪失というわけではない。それどころか、ありすぎるほどあると胸を張って言える。記憶がありすぎるってなんだそりゃって思ってると思う。思うが、ここはスルーしてほしい。説明するには今、自分は混乱しているし、長々と説明するのがめんどくさい。何よりこの記憶がありすぎるってことが今の自分に至る状況を引き起こした気がして不吉。話したくない。

 とりあえず、自分の名前、年齢、生年月日すべて言える。楽詩(らくし)大(だい)。16歳。2月14日という不吉なバレンタインデー生まれ。早生まれだから高校2年生。しかし早生まれって遅生まれの間違いだろって言いたいけどベタなので飲みこんで、これだけは言っとく。男の成長において一年の差はデカい。女子との差はもっとデカい。これだけで俺が苦労して育ったってことはわかるだろう?特に身長とか身長とか身長とか。いや、そんなことはもう成長期を迎えた今ではどうでもいいことだが。状況的にもどうでもいい。


 ・・・・・・はぁ。


 ―――寝てもいい?


 いや、だめだろ。わかってる。寝て起きたら夢でした~ていうのを期待したい気持ちはある。あるに決まってるけど、それ以上に寝てなんとかなる状況じゃないってことがわかりすぎてる。というより、ここで寝たら命取りだ。文字通り命取り。無事でいられる保障がない。じゃあ寝てる場合じゃないな。ここまでくれば現実逃避に費やしてる時間すら命取りな気がする。

 はあ・・・。よし。ため息ついたぞ。これで気分を入れ換えて、そろそろ問題解決に動くか。さっきもため息ついてたじゃんって言うなよ。もう何回もついてる。いやだなぁ。・・・て、愚痴はさんざん言ったし、永遠にリピートってわけにもいかない。そろそろ俺の未来が危うすぎる。


 ・・・・・


 うーーん。まずは状況把握か?といっても説明できることは少ない。

 ここで冒頭の言に戻るが、俺はどうしてここにいるのか記憶がない。ここにいる理由もわからない。わからないが、気が付いたらどことも知れない草の上に寝っころがっていた。

 芝生っぽい草が広がる草原だな。芝生?芝生の色でない色も混じってるが芝生っぽい草。だけど他の草もあって小さい花も咲いてる。状況的には芝生の上で気持ち良く寝ていたところ起きたって言えばいい?眠ってて自然に目が覚めたときの感覚。本当に寝てたのかはわからないけど。

 制服着用。グレーのブレザーにシャツ。それから同じくグレーのズボン。それを着ているのみ。本当は学ランが良かったけれど、それに俺の身体は、まだ。そうまだだ。まだ合わなかったから学ランの学校へは行かなかった。頭のレベルで行かなかったわけではない。俺はバカではない。持ち物はハンカチとちり紙。ついでに飴とガムとチョコレートもポケットに入ってた。なぜか風邪をひいてもいないのにマスクもあった。けど財布や携帯電話はないんだよな・・・。ケータイがあれば位置だけでもわかるのに。電波がなくとも電波が届かないような場所だってことがわかっただろうに。いやケータイなくてもわかるか。

 わかる?俺が思うに、この草原って電波ないだろうなぁって思うような感じのところなの。自然豊か過ぎて、文明を感じるものが見当たらない。

 ちなみに晴れてる。快晴。青い空、白い雲。お日様ぽかぽか~、風がそよそよ~。平和な春の風景。寝たくなるのもわかるだろ?正直、少し寝た。気持ち良かった。寝ては起き、寝ては起きを幾度か繰り返して気が付いた。太陽の位置が変わってきている。だから言ったように、もう寝てる場合じゃない。やがて日が暮れるだろう。

 恐ろしいのは見渡す限り草原ってこと。その先、地平線に山。遥か彼方まで草原が続いている。その先は山だなってのはわかった。それって現実にあり得るの?歩いても歩いても草原ってことだよね。電灯らしきものも見当たらない中、真っ暗になったら困る。これからどうするか考えないわけにはいかない。ようやく現実逃避を終えて今に至るわけだ。


 ・・・・・ふぅ。


 さて、状況はわかってくれただろうか?

 

・・・わからないよな。わかるわけがない。なんじゃそりゃっていう状況。もう、夢なんじゃないのって思っても仕方がない。

 でも。でもな・・・。たとえ俺がここで気が付く前の記憶が、普通に一日を終えての就寝であったとしても、夢だとは言い難い。言い難いんだ。

 草の匂いがこれほどかってくらいする。想像できる匂いを超えて青々とした植物の匂い。土の匂いもする。虫はいるし、リンリン言ってたり、ミツバチかは知らないけど蜂も飛んでる。制服には寝てる時に付いたのか草の青い染みがついてる。相当寝てたし、寝返りだって何回も打ったしな。ついても仕方ないよ。でも俺はこんなのつくんだ?って思った。想像以上。

 でもさ、知らないことって夢に見る?百歩譲って、ユングの言う、人間の無意識の奧底には人類共通の素地が存在するっていう考えを認めてもいい。そんな夢を見ることはあるかもって思う。けれどこれはダメだ。五感はしっかりしているわ、時間の経過はわかるわ、のどは乾くわ、腹は減ってきたわ・・・。

 俺、花の蜜って初めて吸ったよ。甘くない。見たこともない花で、蜜があるのかもわからなかったけど。のどが渇いて腹が減って、花の付け根をチューチュー吸った。花くさくて眉間にしわが寄った。味は少し甘いが苦い。ちょっとだけ甘い水と、花と茎の味を混ぜたような感じ。背には腹を変えられない。そんなのでも飲んだよ。チョコや飴やガムは最後の砦に残しておきたかったからな。

 そんな俺は思った。こんな夢はない。生々しすぎる。細かすぎる。それに、きっと何時間も寝て起きて愚痴言うだけの夢は見ない。変化がなさすぎる。変化はないのに時間の経過はものすごく感じる。たくさん寝て、でもまだ寝てやるって寝て、さらにもっと寝て。もう寝れないだろって思っても意地でそれでも寝てやった感じをイメージすれば間違いない。ああ、俺はもう寝疲れしまくりだ。

 

 ―――なぁ、聞いていい?


 「これってどうするのが正解?」


 善答良答求む。




 

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