リトル プリンセス

矢田川怪狸

・Θ・

「優ちゃんの夢はなぁに?」

「お姫様! 魔女のおばあさんにガラスの靴をもらって、ブトウカイへ行って、お姫様になるの」

「あらあら、かわいい夢ね」

「なれるかな? 大人になったらなれるかな?」

「そうね、大人になったらなれるわ。でもね、ガラスの靴は魔女からもらうものじゃないのよ」

「ドレスは?」

「ドレスも。大人になったらね、誰かに選んでもらった靴も、誰かに選んでもらったドレスもいらないの。自分で選んだ好きな靴をはいて、自分で選んだ好きなドレスを着て、自分で選んだ王子様のところに歩いて行っていいのよ」

「え~、めんどくさい~」

「ふふふふ、そう思っているうちは、まだまだ子供ね」

「じゃあわたし、七人の小人と暮らすお姫様になる。リンゴを食べてエイエンの眠りについて、キスしてくれる王子様を待つの」

「あら、優ちゃんは毒だってわかっているリンゴを食べちゃうようなおバカさんなの?」

「うう~ん、食べないかも」

「キスをしに来た王子様が、自分の嫌いな人だったら?」

「クラスで一番意地悪なタカシくんとか?」

「そうそう」

「うえ~」

「優ちゃんがお姫様になるのは大変ね」

「あ、毒のリンゴは食べたフリすればいいんだ! それでね、寝たフリしてたら、嫌いな人が来た時に逃げられるよ!」

「そんなズルはしちゃダメ。お姫様はズルなんかしないでしょ?」

「お姫様になるのって難しいね」

「難しくなんかないわ。だってお母さんは、ちゃんとお姫様になったもの」

「え~、嘘だ~、お母さんはお母さんだよ」

「あら、そうかしら? お母さんはお姫様になって、素敵な王子様と出会って、かわいらしい小さなお姫様を授かって、そうしてお母さんになったのよ?」

「素敵な王子様って、お父さん?」

「そうよ。この世で一番素敵な王子様でしょ?」

「お父さんは優しくて素敵だけど、王子様じゃないよ」

「あら、どうして?」

「だって、ハンサムじゃないもん」

「ハンサムじゃないけどチャーミングじゃない?」

「う~ん、足くさいし、おじさんくさいよ?」

「あらあら、それを聞いたらお父さん、泣いちゃうわね」

「お父さんには言わないで!」

「言わないわよ」

「ああ、よかった。おじさんくさいけど、お父さんは大好き。お休みの日は遊んでくれるし、ときどきデザート食べに連れて行ってくれるし」

「優しいでしょう? だからお母さんは、お父さんを王子様に選んだのよ」

「へんなの、お父さんが王子様だから、お母さんがお姫様になったんじゃないの?」

「逆よ、お母さんがお姫様だから、お父さんは王子様になってくれたのよ」

「ううん? ううん? わかんない」

「うふふ、つまりね、誰でもお姫様になれるし、王子様にもなれるのよ。だから、優ちゃんもきっと、お姫様になれるわね」

「なれる? お姫様に? わあい!」

「そうよ、だから素敵なお姫様になってね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リトル プリンセス 矢田川怪狸 @masukakinisuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る