第6話 お仕事はじめるよ

 ウサギ湖の深水地点を、僕達は進む。

 水の底が、全く見えなくなってくる。

 深水地点に近づいている。

 


 「い━━━━━━━」



 エナちゃんがここだよと、指差している。

 ソニアさんが、ボートのスピードを落としていく、

 だけどソニアさんが、怪訝そうだ。



 「エナちゃん、アイツらと場所が違うぞ!」



 エナちゃんはここに見定めたんだよ。

 


 「え?」

 「ソニア、ウサギ湖は初めてか?」



 おじいちゃんが、言った。

 ソニアさんは、コクンと頷いた。



 「ウサギ湖の存在や、どういった特徴の知識はあります。しかし、実際は来たことないです」

 「ソニア、机の上と足を使うでは、世界が違うんじゃ」



 ここで、おさらいと、説明するね。 

 ウサギ湖はウサギの顔の形に似ているは、少し前に言ったのを覚えている。

 そのウサギ湖は水がキレイで、水の底が見えている。

 ウサギ湖は深水と呼ばれる場所があり、深水に来ると底が見えない。もしくは、見えづらい。

 ここまでは、おさらい。

 さて、説明に入るよ。

 深水地点は、どこか?

 ズバリ、ないんだ。

 ……え? どういうことだ?

 そう思うでしょ。

 じつは深水地点は……



 「ここよ! ライフ、この空腹探知計(おなかすいた)にいる、お茶の精霊が騒いでるわ!」

 「……うん、ここだ!」

 「悪いけど、ここは私達のだからね!」


 

 ……レイとライフがなんか言ってるな。

 言ってるけど、かなり大切な話だ。

 説明、長引くけどいい?


 「きぃ━━━━━━」



 エナちゃんは、良いみたいだ。

 


 「確かにじゃな」

 「まかした、クッキーくん」



 では……

 まず、深水地点だけど、これは……


 動いているんだ。


 湖だから川みたいに流れがない、だから水が動かない……これは大きな間違いなんだ。

 深水はたくさんある。 

 深くなったその場所は、全て深水なんだ。

 そして全てキレイな水だ。

 だけどより純粋な場所を特定することが必要で、そのための空腹探知計が必要とされる。

 

 

 はいはい、わかってますよ。

 ツッコミ満載ですからね。



 空腹探知計……別名、おなかすいた、でしょ?

 これは水の特徴を利用した道具なんだ。

 水はなんでも、引っ付きたがるんだよ。

 引っ付く……呼び方を変える。

 

 溶ける……


 水は溶けやすいんだ。

 例えば人間が飲むスープ、あれはトウモロコシの粉や、そこに塩、砂糖、香辛料、ミルクを入れる。

 すると水に、トウモロコシの粉、塩、砂糖、香辛料、ミルクは水に溶けて一つの料理……トウモロコシスープになる。

 美味しくするには、加熱しないといけないけど、混ぜるだけならこれで十分でしょ。


 

 もしこれを植物油でやったら、どうなるか?

 油はトウモロコシの粉、ミルクをはじき、一つになろうとしない。

 全てをはじき、一つになろうとしない。

 今油を例に出したけど、これは他の液体もいっしょなんだ。



 水の性質それは、他の物質と溶けやすい。



 ちなみに空腹探知計(おなかすいた)には、お茶の精霊が宿っているんだけど説明は後でするね。

 


 ここまでは、わかったかな?

 さて、問題はその後だ。

 ここからが大事だからね。

 その前に、僕は綿モンだからわからないけど、ねえソニアさん。



 「ん? なんだクッキーくん」



 人間はお腹が空いた時と、お腹がいつも一杯の状態、どちらがたくさん美味しいモノを食べられるの?



 「オイオイ、決まってるだろ、お腹が空いた時だ」



 そうだね。

 確か、エミリア先生も言ってた……うん!

 お腹が空いた時なんだ。

 お腹が空いた状態なら、たくさんの食べ物を受け付けることができるんだよ。

 そしてその考え方は、水も同じなんだ。



 「水が腹減るんだ!」



 そうだよ、ソニアさん。

 水はどんな成分にも溶けやすい。

 そしてその成分を、食べてしまうんだ。

 どんな成分でも食べてしまい、水は引っ付きたがる。

 それも全く容赦なしになんだ。

 そんな水を……



 腹ペコ水



 そう呼ぶんだ。

 でも腹ペコ水ってなんだか、締まりがないらしくお偉いさんは違う名前を付けた。

 それが……「ラピッドの雫」なんだよ。

 


 「なるほどな、では、ここの水はキレイなんだ」



 そうだよ、ソニアさん。

 だけど……



 「だけど、なんだ?」



 ここの水はキレイすぎるんだよ。

 度がすぎるんだ。

 だから、死水湖なんだよ。



 「え? まさか!」



 ここに魚が住めないのは、このキレイすぎる水に、植物を発生させる仕組みを摘み取られてしまう。

 水がすごくお腹が空いているから、それを食べてしまうんだよ。

 水がキレイすぎるために、周囲(まわり)を生かせない……だから死水なんだ。

 


 「クッキーくん、物知りだな」



 エミリア先生から、教えてもらったんだよ。

 僕にそんな知恵はないからね。



 「クッキー、ではこの湖に壊れた船を沈めたらいい」

 「え、何なんですか、アナンさんいきなり!」



 いきなり、おじいちゃんが言った。

 でもこの意味は、僕にはわかる。 

 つまり沈めた船から、漁場を創造して住まわせたいんでしょ?

 答えは……できない!

 理由はここの水がこんなにキレイなのは、この湖自体に理由があるらしい。つまりウサギ湖のもつ能力(ちから)に、水がキレイすぎるまでに磨かれるんだ。



 「水を磨く? 何に?」



 エミリア先生が言うには、ウサギ湖の砂や土、カルマ平原に関係あると見ているみたいなんだ。

 それとアルマ草原の草に、おおきな意味があるんだって。

 


 「難しい……さて、こちらも本命を始めよう」



 うん、ソニアさん。

 


 「スレイ、全部沈めた?」

 「おう、沈めたぞ! それにしても深いな。なんだか水底に着いてないような」

 「ここはそれくらい深いんだ」


  

 ライフとスレイの会話を、僕は聞いていた。

 ここは深い。

 だから、深水なんだけどね。



 さて……空腹探知計(おなかすいた)を説明するよ。

 


 草原での出来事の時、実は素通りしていたことがある。

 まあその時に話しても、意味がないかな? と、思ったからだ。

 今は説明が必要だ。

 あの時、三人の持ち物の中で一際大きなリュックがあった。

 その入っていたモノこそ、空腹探知計(おなかすいた)だ。

 コレはアカデミーが考えた装置で、すごい最新技術と原始的な方法でできている。


 

 「これも、あの先生の掛け売りか?」


 

 ソニアさん、冷やかさないでよ。

 話を続けるよ。

 まず空腹探知計(おなかすいた)は、かなり長い装置で、かなり重い装置なんだ。

 長さはウサギ湖の深水の底まで達しないといけない。

 つまりウサギ湖の一番深い場所の深さが、空腹探知計(おなかすいた)の長さらしい。

 


 え? 何故長いが重いのか?



 これにはこの装置の特徴が、関係している。

 この装置、実はある程度の一定の間合いを均等にとりながら、重い金属が楕円形をして繋がっている。

 楕円形の金属の中は、空洞になっている。

 つまりここに、深水を入れるんだ。

 やり方は後で言う。



 この楕円形の金属、かなり重いんだ。

 とは言っても金属自体は、薄く創造されている。

 薄く創造しているのは、中にいるお茶の精霊が関係している。

 お茶の精霊に深水の一番お腹が空いている場所を探してもらうんだけど、そのためにはできる限り水に接していたほうがいいからだ。

 厚く創造されたら、お茶の精霊が場所の感知しづらいんだ。

 匂いが、わからなくなる。

 エミリア先生が、言っていた。

 だから薄く薄く、創造されたんだ。

 ここが大変だったらしいよ。



 「何故?」



 ソニアさんそれはね。

 水の圧力なんだ。

 


 「ほう、水圧じゃな」



 うん、薄くすると、水圧に装置が壊されるんだ。

 水はすごく力があって、ぺしゃんこにされるんだって。

 さっき言った最新技術、その一つがお茶の精霊に、たくさんお仕事してもらうための、金属の薄さなんだよ。

 だけど薄いから、軽いではない。

 薄く強く創造したら、薄く割には重い金属になったんだって。

 今、ここを何とかするんだって。



 「なるほど……クッキー、最新技術のその一つと言ったが、まだあるのか?」



 うん、ソニアさん。

 


 「い━━━━━━━」



 その前に、エナちゃんが深水地点を探すみたいだ。

 チャックから、エナちゃん式の空腹探知計(おなかすいた)を出した。

 


 「え! なんだ?」

 「クッキー、これはやけに簡単な装置じゃな」



 うん、エナちゃんはこれだけなんだ。

 ストロー状ロープにに重い金属の入れ物を吊しただけ。

 それで探すんだ。

 


 「なんだ? あれだけ?」



 ライフが驚いている。

 


 「別に良いじゃない、あれでも!」



 レイがバカにしていた。

 はいはい……

 まあ、そっちはそっちで頑張りなよ。



 さて、空腹探知計(おなかすいた)のもう一つの最新技術、それはロープにあるんだ。

 このロープ、実は中が空洞なんだ。

 


 「え? それって!」



 そうだよ。

 この空洞にと、お茶の粉入れる。

 以後は抹茶と言うね。

 少し話がそれた。

 戻すね。

 抹茶を入れる。すると、後は自動で動く。

 中にいる精霊達が抹茶に宿り、一番お腹の空いた地点を探してくれるんだ。

 

 


 「ほう、空洞にすることが、最新技術なのじゃな?」



 違うよ、それも最新技術かもしれないけど、もっとすごい技術だよ。

 


 「なにがだ?」



 ロープと金属が引っ付いてることだよ。

 空腹探知計(おなかすいた)をよく見てよ。

 ロープの一定の長さに、金属が引っ付いてるでしょ。

 金属とロープがさ。

 普通は引っ付かないでしょ。



 「確かに! すごい、どんな技術なんだ?」



 独特なプレス加工らしいよ。

 これは学校(アカデミー)とガラリの町工が、いっしょに創造したらしい。



 「町工場、そことか!」



 うん、エミリア先生曰わく、町工場はこれからの錬金術の在り方、そのものなんだって。

 そのプレス加工、水に入れれば圧力でさらに引っ付いていき、水の中ではより取れにくくなるんだ。

 


 「ふうん……で、どうやって水を取り入れるんだ?」



 ソニアさん、よく聞いてくれました。

 実はこの装置、金属の一部に水に溶けやすい物質使われた部分がある。

 ある一定の時間になると、それが溶け出してそこから水が入って来る。

 すると水の圧力によってロープと金属の引っ付いてる場所が閉じられてしまうんだ。そして、金属に深水がたまっていき、いっぱいになったとする。

 すると……金属が穴を閉じちゃうらしいんだ。

 


 「へ? 金属が?」


 

 うん、これは……実は……



 「なんじゃ、もったいぶりおって!」



 これ、エナちゃんがアカデミー時代に見せた技術らしいんだ。

 金属に簡単な知能を付けて、記憶させたらしいよ。

 


 「は? 知能?」



 うん、エミリア先生は、記憶金属(おぼえました)と呼んでいたみたい。



 「……すごい!」

 「ウソ……よ」

 「でも、あの錬金術師ならやりかねない」



 スレイとレイが、僕の話を拾ったぞ。

 まあ、そういうことだ。


 

 「でも、何故、エナちゃんは使わない?」



 ソニアさん、エナちゃんがこれを考えたからと言って、空腹探知計(おなかすいた)を自分で創造した訳じゃあない。

 みんなで創造したんだよ。

 それに、使わない方がエナちゃん的には、上手くいくんじゃあないかな。

 


 「なるほど……」

  


 深水地点、よりお腹が空いてる腹ペコ水はできたお茶の濃度でわかるんだ。

 中にお茶の精霊と、お茶の粉があると言ったでしょ。

 実はそのお茶の濃さで、より良い腹ペコ水……つまりラピッドの雫がわかるんだ。

 お茶の精霊は、キレイな水に反応する。

 つまり濃いお茶ができるんだ。

 そしてその後、お茶をろ過していく。

 腹ペコ水に戻すためだ。

 これは案外簡単らしい、エミリア先生が言ってた。

 そこでできたモノが……ラピッドの雫になる。


 

 「なるほど、ラピッドの雫って、どんな役立つんだ」



 なんでも食べちゃう、つまりどんな汚れも落としちゃうんだって。

 特にアカデミーには、キレイにしないといけない大切なモノがいっぱいあるんだって。

 それを今回、エミリア先生はエナちゃんに依頼したんだよ。



 「なるほどな」

 「なるほどじゃ」



 うんうん。



 「負けない!」

 「うん、がんばろう」

 「よくわからないけど、やるだけだ」



 はいはい、三人組も頑張れー!

 まっ、適当に言っておき……



 そろそろ、エナちゃんが始める。

 僕はそれを、見ていよう。



 「い━━━━━━━━」



 エナちゃんが空腹探知機(おなかすいた)を、ウサギ湖に投げた。

 ヒモはに短い。

 今、気づいた。

 


 「なに? そんなのでラピッドの雫を探すなんて」



 レイがエナちゃんになんか言ってる。

 


 「おい、クッキー、確かに短いぞ」



 ソニアさんも心配している。

 おじいちゃんも、少し変顔してる。

 僕は慌てていない。

 理由はエナちゃんが、イキイキしているからだよ。

 エナちゃんは、エナちゃんなりに思うことがあるみたい。

 


 「なるほどじゃ、少し見てみるかの」



 おじいちゃんが言った。

 ウンウン、そうしてよ。

 


 「い━━━━━━━━」



 エナちゃんが紐を引っ張り上げる。

 短い紐が、ん? 短くない!

 アレ、何だろう紐が伸びているぞ。

 

 

 「なんだ、あの紐伸びている!」

 「アレも、アイツの不思議な力なのか?」


 

 ライフとスレイが、驚いている。

 そして僕もだけど。



 「儂もじゃ」

 「私も」



 みんな驚いている。

 


 「私は驚いてないわよ! 驚いてられない!」



 レイがそう言いながら、ストロー状の紐に抹茶とお茶の精霊を漏斗(ろうと)を使って入れている。

 手際がいいぞ。

 


 「当たり前よ、こう見えても私、学年トップなんだから」

 


 レイが自慢気に、作業を進める。

 へえ、学校のトップね。

 漏斗(ろうと)を使ってれば、誰でもできると思うけどね。


 


 「があ━━━━━━」



 ん? エナちゃんも抹茶と、お茶の精霊を入れている。

 それも漏斗(ろうと)を使わず、さっさと入れている。

 だけど量は少ないぞ。

 エナちゃんはこのやり方で、深水にあるラピッドの雫を見つけんだ。

 

 「あっそう、私達は私達だから」


 レイが躍起になっている。

 ライフとスレイは、おっかなびっくりで見ている。


 「ライフ! それに、木偶の坊! 手伝いなさいよ」


 レイがライフとスレイを怒鳴りつける。

 すごいなあ。

 

 「あれは将来、男は大変だぞ」


 おじいちゃんが、変な目で笑う。

 イヤらしいとも言う。


 「こら!」

 「いや、当たってます」


 ソニアさんに隠れよう。

 おじいちゃんが、震えている。

 寒いの?


 「寒い……心が」


 よし大丈夫だ。

 僕は確信した。


 「い━━━━━━━」


 ん? エナちゃんが、ソニアさんのリュックを指差してる。

 何なの?

 するとチャックを開き、何をカードを取り出した。  

 そのカードには芋パンが描いてあり、食べる絵がある。

 つまりは、お腹が空いたんだね。


 「なるほどのう、少し小腹が空いたわい」

 「わかりました、少しお昼にします」


 ソニアさんがリュックをおろす。

 中を開けて、お昼ご飯が始まった。


 「すごい余裕だね」


 ライフが驚いていた。

 その横で、レイが鼻笑いしながら……


 「アッチはアッチよ。綺麗な深水を一杯採るよ! 一秒もムダにしないで二人とも!」


 すごい気合である。

 なんだか、レイとスレイが慌ててる。

 さてと僕らは……


 「いただきまーす」


 始まった始まった。

 お昼ご飯だ。

 なんだか、ほのぼのしている。

 まあ僕達は、僕達のペースでやりますか。

 

 






 

 


 

 



 

  


 



 

 

 



 

 






 

 


 


 

 

 



 

 

 

 



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