初場所・十二日目【議題】
「カイナちゃん?あぁ、校長のお孫さんね」
「来たわよ。火曜だったかな?」
「それは水曜の前の日でオッケー?」
「私たちが放課後にファイル見に寄ったら勝手に中に入って待ってたわ。どっかにヒマな部員余ってないかって聞かれたわ」
火曜といえば、昼休みにぼくを呼び出しに来た次の日だ。相撲なんてあきらめろ、とか言ってたくせに翌日にはここへ寄って勧誘してくれてたんだ。しかも自ら足を運んで何人か連れてきてくれたし。
態度がデカくて偉そうなんだけど、ものすごく協力的じゃないか西山カイナ。
横綱の孫だし、きっと小さい頃から相撲に親しんできたに違いない。実は相撲部を作りたかったのはしきりちゃんよりも彼女の方だったんじゃないだろうか。でも、だとしたら校長が相撲部を敬遠してることもよく知ってただろうし、彼女の言動はイマイチ理解できないことばっかりだ。
「さて、お菓子もジュースも好きなだけ頂けたかしら?」
先輩に言われてハッと現実に帰った。
そうだ。
ぼく、なんでここで先輩たちに囲まれてたんだっけ。相撲部のマネージャーやるらしいから、なんかアドバイスくれたりするんだろうか。
その割にはもてなしが過ぎるような気もするが。
「
「かしこまり」
古堂宮さんっていうのか…いつもセリフじみた言い回しで話が噛み合わない子。
木暮先輩に指示されてホワイトボードに何やら書きはじめた。
その様子を見て、ぼくは先輩に聞いてみた。
「木暮先輩って、もしかしてココの…えっと、会長みたいなことやってるんすか?」
「マネ連の会長?アタクシが?そうよねぇ、そもそもマネージャーの連絡会に会長がいるのかって話よね」
「ねー」
「校長に言われちゃ仕方ないけどさー」
「じゃあ最初の議題は会長でよろしいか?」
「そうね古堂宮ちゃん、議題1が会長で、議題は2がマネージャーね」
「かしこまりパート2」
スラスラと書き込まれた議題は『1・会長』『2・マネージャー』。
ん?それを今から決めるってこと?新年度だからな、いろいろ決めなゃいけないことがあるんだな。
どっちにしても今日初めて見学にきたぼくにはあんまり関わりのない話かなぁ。でもお菓子とかご馳走になっちゃったから退屈そうな顔はできないな、
ぼくは割と真剣そうな顔を作ってボードを見つめてみた。
「で、どっちもマエミツくんで決まりでいいわよね?」
「さんせーい」
「マエミツとはどんな字か?『
「ちょ、ちょっとなんですかソレ!悪魔の笑みが尽きるって、縁起でもない…」
「これ以外にあると?」
「それだけはないでしょ絶対!『前頭玉光』です!相撲の幕内の『前頭』に伝説の行司・木村玉光の『玉光』です!」
「ちょっとなに言ってるかわからないが」
そう言いながら古堂宮さんは『前頭玉光』と書き込んだ。書けるじゃんか。
「じゃ、これで今日のミーティングはおしまいですわね」
「おしまい?え?ぼくの名前がどうかしたんすか?」
「見ての通りよ。おめでとうマエミツくん。マネ連の会長とマネージャー、よろしく頼みましたわ」
「ままま、かかか…まままぁ⁉︎」
「『マネ連の会長とマネージャーぁ⁉︎』と彼は言っている」
なんでわかるんだ古堂宮さん!最初に部屋に入れるように片付けてたのもこの人だし、話が噛み合わないようにみえて、すごい理解してふざけてるのか古堂宮さん!
そんなことより!
どうして今日来たばっかのぼくが、新入生で部活も決まってないぼくが『マネ連の会長とマネージャー』なんだ!しかも『会長』と『マネージャー』って掛け持ちするもんなの?
何からツッコんでいいのかわからず、一応木暮先輩に冷静を装って聞いてみた。
「…ひとついいですか?木暮先輩が会長じゃなかったんですね?去年までの会長とマネージャーって誰なんですか?やっぱりそれも一年先が掛け持ちしてたんですか?」
取り乱しているわりに、自分でも落ち着いて的確に質問できた、と思う。
しかし先輩の答えは想像とはまるで違った。
「マネ連に会長もマネージャーもいないわよ。だってココは単に各部のマネージャーの連絡会ですもの。アナタの質問に答えるのなら『アナタがマネ連の初代会長であり、マネージャー兼任もアナタが初めてのケース』ですわね」
「なんですかソレ!どうして今日来たばっかのぼくが会長なんすか!そもそもぼくまだマネージャーやってませんし」
「そう、ソコなのよ」
「?」
「3学期の終わり頃かしら。アタクシ校長室に呼ばれましてね。単なるマネージャーの集まりとはいえ、教室をひとつ専用で使用するには責任者を決めてもらうとこになった、と。また、本校の課外活動には必ずマネージャーを設置するように決められているので、授業後に集まるならマネージャーも必要である、と」
「ヘンな話よねぇ、マネージャーたちのマネージャーなんて」
「やること、なし!」
「わざわざアタクシを呼び出したということは、アタクシにそれをやれとおっしゃっているのかしら?と校長に尋ねてみましたの。すると校長は『君は有能な陸上部のマネージャーだから負担をかけたくない。誰か適任者を選び、君から任命してほしい』からアタクシを呼んだのだ、と」
「そう言われたんですか?でもぼくが適任とは思えないんですが…」
「あら?アナタが最適と思うわ。まずここにいるみなさん、それぞれの部でマネージャーをされていてお忙しくされてますわ。だからと言って部外者を立てるのもおかしな話ですし。その点アナタは相撲部のためにマネージャーを買って出る決意を持ってらっしゃる。しかもその相撲部はまだ活動していない。つまり、マネージャーでありながらマネージャーではない。見習いマネージャーなんてこの学校中探してもアナタひとりですわ」
「で、でもぼくマネ連の仕事なんてまるで知らないし、みなさん上級生なのに会長なんて…」
「学年じゃないのよ。アナタだけなのよ、男子が」
するとそこで激しく教室のドアが開かれた。
バッターン!!
「話は聞かせてもらったわ!」
しきりちゃんだ。
聞いてたの?そこで?
「あら、しきりさん。ちょうどよかった、みなさん紹介しますわ。この方が東十両しきりさん」
「入学式で騒いでた子ね」
「相撲やるようには見えないわぁ」
「魔笑み尽殿が惚れたのはお主か」
「かわいい子ね」
「し、しきりちゃん、どうしてココへ?」
「マエミツくんが心配だったからよ!マエミツくん相撲好きな割に押しに弱いから変な仕事押し付けられてないか物言いに来たの!」
いくつか相撲用語混ざってたけど、解説するのも忘れるほど感激していた。しきりちゃんがそんなにぼくのこと気にしてくれてたなんて。
それと、木暮先輩がぼくとしきりちゃんをどう紹介していたのかも気になっていたが。とにかく、まさに今、ぼく変な仕事押し付けられてるんです…。
たすけて!
つづく
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