しきり!まったなし!
じょりー
初場所・初日 【一番】
初めて観たとき、ドキドキが止まらなかった。
10歳くらいだったと思う。
もともと興味なんてなかった…わけじゃない。憧れみたいなモノはあったんだ。でも自分には縁のないモノだ、って。違う世界の出来事なんだ、って。そう言い聞かせてた。
初めて生で観たのはテレビって人がほとんどだと思う。実際、場所まで行ってホントに生で観るなんて、そんな恵まれた人、聞いたことないし。
向かい合うふたりがほとんど裸の状態で身体をピッタリ寄せあい、引き合う。
ハァ!ハァ…!
テレビの画面ごしに激しく息遣いが聴こえる。
その夜、ぼくは興奮して眠れなかった。
それからぼくは高校生になった。
ぼくが彼女に遭ったのは高校の入学式の日。
これはぼくの運命的な出会いと、男としての成長の物語だ。
ぼくはその日、壇
「おいおいお前何書いてんだぁ?」
後ろの席から急に声をかけられて、ぼくは「ハッ…」と声をあげた。「ハッ…」で済んでよかった。その続きを口にしていたら入学早々、新しいクラスで頭のおかしなやつとして一番出世してしまうところだ。
後ろの席にいたのは
地味なぼくとは大違い。
ぼくだって好きで地味に生まれたんじゃない。でも背も高くないし、声も、体も、細くて弱々しい。そんな自分が嫌で、そんな自分を変えたくて、こうしてノートに決意を書き留めておこう、そう決めた途端、後ろの席のやつに見られてしまった。よりによって「軟式テニスのプリンス」に。
「『ぼくが彼女に遭ったのは』…?なんだよオマエ、ラブレターの下書きでもしてんのかよ?だったらオレに相談してくれよ、このプリンスに、さ」
自分で自分をプリンスとよぶ人間とぼくは友達になれる気がしなかった。そもそもオマエの頭の中は女子とイチャイチャヘロヘロ、あんなことやこんなことしたいとかばっかなんだろ?なんていやらしいやつ!よくそんないやらしいこと思いつくな。
その点、ぼくは真剣なんだ。
彼女に出逢ったとき、10歳のあのときのドキドキが猛烈な勢いでぼくをおっつけてきたんだ。
『おっつけ…それは突き出した手に対して、下からしぼり上げて力をそらしたり体を浮かせたりする技術。』
あ、また自分で解説しちゃった。
でもこれはぼくがそれだけ真剣に憧れ、真剣に勉強したって証。ぼくの頭の中はいつもそのことでいっぱいなんだ。
ぼくを虜にして離さないモノ。
それは、相撲!
睨み合う二人が、マワシの他に何も身につけず、何の道具も使わず、一瞬の間に激しい攻防を繰り広げるサイコーにたくましい競技、相撲。
入学式で出逢った彼女…見た目は小柄でかわいらしい女子高生、でもその瞳の奥には誰にも負けない相撲への情熱を持った…そんな彼女を見て、自分には不釣り合いと思っていた相撲への憧れが爆発したんだ、
ぼくは変わる!
彼女にふさわしい力士になるんだ!
ぼくの名前は
彼女の名前は
相撲部の無いこの高校で、今ぼくたちふたりの大一番、まったなし!だ。
「まったなし?」
つい口に出てしまっていたみたいで、また後ろの席から声をかけられ、ぼくはいつもの口グセで悲鳴をあげてしまった。
「ハッキヨイ!!」
つづく
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