深遠と出番と人の視線

めぞうなぎ

深淵と出番と人の視線

「人が深淵を覗いている時――」


「うん」


「――って言うと意味深だよね」


「深淵にも出番をやれよ」


「出番は神出鬼没だから……」


「そういえば、出番って普段どこに居るんだろう?」


「深淵で出番を待ってるんじゃない?」


「じゃあ人が出番を覗いている時」


「出番もまた人を覗いているわけだ」


「やだ、カッコいい出番の視線を感じる……キュン♡」


「カッコいい出番って何さ」


「絶体絶命のピンチで颯爽と助けに来てくれるとか」


「絶体絶命のピンチって、具体的にはどんな?」


「うーん、そうだな。深淵に落ちそうになってるとか?」


「その出番は、まさに悲劇に陥らんとしているヒロインを見ているわけだ」


「吊り橋効果でときめいてるだけなんじゃないの?」


「というか、出番が見ているのは深淵なのでは?」


「出番が深淵の中の次の出番を待ってるわけだ」


「人が深淵を見、深淵が人を見、人が出番を見、出番が人を見ていて?」


「出番が深淵を見るとき、深淵も出番も出番を覗いているわけだ」


「人も出番を覗くけど、自らを見返し省察するのは出番だけってわけだ」


「まさかこんな結論に至るとは」


「だから言っただろ、深淵を見てれば出番があるのさ」


「深遠だね~」

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深遠と出番と人の視線 めぞうなぎ @mezounagi

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