第150話 法の世界
俺は『カローン』へと戻るとアベルを呼び出し、魔核と『龍珠』を持ってきてもらうのと同時にスカーレットも連れてきてもらう。
アベルに途中経過を報告し、礼を伝えてスカーレットと荷物を受け取った。
置物のように大人しいスカーレットを撫でながら語りかける。
「スカーレット、悪いんだけどまた頼めるかな? 龍の知識が必要になったんだ」
こちらを見上げてコクコクと頷くスカーレットを撫でまわす。最近触れ合いが足りなかったのかスカーレットも体を摺り寄せて甘えてくる。
もう少し家族の時間をとった方が良いだろう。次のオフ日にはゆっくりと構ってあげようと予定をPDAのスケジュールに書き込んだ。
スカーレットが『龍珠』の上に
「神世について『法の世界』とはどういうことか、法を法たらしめる力とは何か教えていただけませんか?」
【『法の世界』とは神の定めし
しかして法の世界は法が全てを縛る。法として因果律が定められ、因果に従えばことはなり易く、逆らうには法に干渉する力を要する。
そなたの知識で最も近しいものは演算力。法の定めに逆らい、強制力を押し止め、新しい法を編み上げる力。
それが法を法たらしめる力となる】
物理世界と表裏を成す『情報層』があり、『情報層』にはデータのみが存在する。『法の世界』たる『法則層』にはデータを支配する
そして然るべき演算力があれば、法則に割り込みをかけて上書きし、独自の法則を生み出すことが出来るということか。
「魔力を通しにくい石英に魔力を蓄積する性質を持たせているのは、法の力に依るものでしょうか?」
【
つまり莫大な魔力を浴びると物質は変性し、それが何であれ魔力を溜める性質を持つようになるということか。
実際に謎の光を浴びた一帯は純粋魔力結晶の森になってしまっていた。樹木も土壌も関係なく珪素系の素材になっていた。
土壌には元々珪素が多く含まれるため理解できるが、樹木は炭素が主成分のはずだ。それすらも珪素に置き換わっていた。
炭素と珪素は周期表で見ると同じ14族の炭素族に属している。つまり性質は似通っているのだ。核融合を発生させれば元素変換は起こりうる。
要するに『
「我々が法の力を行使する事は可能でしょうか? 余剰の魔力を法で制御し、誘導・集積して侵食を防ぎたいのです」
【既に行使している。そなた達が魔術と呼ぶ
あ! 確かに魔術は魔力で以って世界を切り取り、己の望む現象を引き起こしている。
【小さきものシュウよ、そなたであれば法の復元力にも打ち勝てよう。我が『龍珠』はそなたの基準で言えば脳に近い、極めて高い演算能力を持っている。『龍珠』を用いれば限定的な創造が可能となろう】
あれ? 待てよ。とすると根源的な疑問が残る。龍は法の力をも扱える。しかし彼らでは『テネブラ』からの干渉を制御できない。
我々よりも優れた演算力を持つ龍が制御できないなら、この方向性で進めても失敗するのは目に見えている。そこはしっかり確認せねばならない。
「龍族が力を結集しても『テネブラ』の浸透を防ぐしか出来ないと仰っておられましたが、法の力を以ってすれば魔力は制御できるのではないのですか?」
【その答えは正であり、否でもある。魔力は制御出来るが、魔力自体の性質と量が問題となる。魔力自身が我らの法に干渉し、その物量で圧倒するのだ。我ら龍族はそれぞれが強大な力を持つが故に数が少ない。物量に抗し得ぬ】
やっと理解できた。押し寄せる津波に対して堤防で防いでいるのだ。水の量が許容範囲内であれば堤防の方が強く押し返せる。
しかし活動期を迎えた『テネブラ』は堤防の高さ以上の津波を押し付けてくるのだろう。龍達はそれに対応すべく堤防の上に
大津波に対して対応できる人員が圧倒的に不足しているのだろう。重要拠点を守るので精一杯であり、全体的に見るとじり貧となる構造だ。
古来より戦いの趨勢を決するのは数だ。相手に倍する兵を用意すれば優位に立てる。第二次世界大戦の日本軍も兵士の質でもって連合国を相手に善戦したが、圧倒的物量にすり潰され疲弊して敗北している。
数は質を覆すが、質では数を越えられない。無論絶対数が少なければ事情は変わる。精兵50人と凡夫100人では勝負にならない。
だが相手は惑星規模である。如何に龍が強くとも世界全てには手が回らない。
しかし数で劣るならば劣るなりの戦い方がある。人類の歴史は戦いの歴史だ。競い合い戦い合った年季が違う。
真正面から力押ししかしてこない相手ならば、寡兵であろうとも勝利を得る術はある。
その後『龍珠』の使用法についてあれこれと質問し、礼を述べると接続を絶った。
スカーレットを労って林檎の代わりに白桃を細かく切って与える。この子は皮があろうが種があろうが構わず食べるので、種だけは取り出して一口サイズの果肉を皿に並べている。
後の事をアベルに託すと、俺抜きでは会話が成立しないドクとランドック氏の待つ学舎へと向かった。
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