第149話 魔法学会04
全員が落ち着いた頃を見計らって着席を促し、各自の席に湯のみを配る。『
立ち上る湯気と香ばしい匂いにアパティトゥス老人が真っ先に飲んで見せる。
「なんと! これは美味いぞい! お茶かと思ったらスープじゃったか」
「いえいえ、お茶ですよ。私の故郷にある梅昆布茶って言うのをこちらの海藻で再現してみました。色が強く出るのでよりお茶っぽいでしょ?」
ガス灯の薄明りではお茶の色までは見えないが、味は旨みの濃い梅昆布茶そのものだ。恐る恐る手を出した他の面々にも概ね好評のようだ、ドクは自分用に取り置いたドクペを飲んでいる。
「んじゃ、ちっと魔術の応用について話がしたいんだがいいか? ここにシュウから預かった魔術回路とでも呼ぶべき装置がある。こいつな、もっと薄く小さくできるぜ?」
ドクはそう言うと、かつてランドック氏より譲り受けた発火魔術の基盤を示し、親指の爪ぐらいの大きさの四角い薄板をテーブルに置いた。
「これな回路部分と絶縁部分さえパターン通りなら同じ魔術が発動すんだ。まあ見てろ」
そう言って薄板の先端を指で摘まみ、ドクが魔力を流して見せる。蝋燭の炎よりはいくらか弱い炎が基盤の先端に出現した。
炎を消した後、回路基板を全員に回覧する。元の30センチメートル四方はある鉄板のサンドイッチから比べると実にミニチュアサイズだが機能は然程変わらない。
「この基盤は先端に火が出現する魔術だからある程度の大きさを持たせちゃいるが、まだまだ小さくできる余地はある。んで底板として鉄板噛ませば重ねて使う事も実証できた。
だが、俺たちじゃこの回路部分に使用されている合金が用意できねえ。こいつの成分を分析するとほぼ銀なんだが、微妙に性質が変化していてな。
恐らくなんだが、さっき石英に定着した『魔素』のモデルを見せたろ? それの銀版が生成されているんじゃないかと思ってる。
回路に沿って魔力を流す方向性みたいなモンがあるんだろう。その結果、魔力の貯蔵じゃなくて魔術として物理現象に転化していると推測している」
ドクが全員の顔を見回しながら話を進める。今回はそれほど理解の範疇外ではないのだろう、全員がしっかりとした顔つきになっていた。
「で、俺は考えた訳よ。魔術回路のパターンを解析して、機能とパターンを特定すりゃ望む大規模な魔術を基盤として作り込めるんじゃねえかとな。
既に『
まあ惑星規模で浸食する魔力に対しちゃ焼け石に水だが、この島ぐらいは守れるだろ? とドクは肩をすくめながら話す。
「そこで、爺さんたちに頼みがある。シュウとアパティトゥス爺さんは魔術回路を構成する合金を作り出して欲しい。ランドック爺さんは制御魔術とやらの概要を教えてくれ、『魔術師』の爺さんは知り得る限り全ての魔術を列挙だ」
「待ってくれ! 銀や鉄ならこんなに薄くても良いなら用意できるが、魔核はそうはいかない。研究室にある分を全て使っても魔術回路数枚分にしかならないだろう」
「ふーん、魔核ってのはシュウが『
あ、そう言えば最初に倒した『岩石喰らい』から大玉スイカほどもある魔核を取り出したのを忘れていた。別に使用するあても無かったし、チームの共有財産という事でアベルに預けたままになっている。
「おお! そんな大きな魔核があれば生産は捗りそうだ。しかし極大魔術と言っても何をするのかね?」
「そこなんだよな。俺が知ってるのはシュウが使う、なんだっけ?」
「『
「そうそう、それ。まあ攻撃の奴しか知らねえんだけどな。馬鹿みてえにデカイ鰐が一瞬で消し炭になったからすげえ威力には違いねえ」
「しかし、そんな物騒な魔術を使う機会なんてそうそうないじゃろう? 相手も無しに使ってええもんか? 何かしら他のことに使えんかね?」
アパティトゥス老人がもっともな事を言う。攻撃魔術なんて使わないに越したことは無いのだ。生活を便利にする方向性を考えたい。
「あ! 温泉とかどうだろ? 初めて魔術回路を見た時にも思ったんだよね、これで瞬間湯沸かし器みたいな魔術が出来ないかな? って」
「お! それ面白そうじゃないか、湯沸かしは発電の基本だ。ランドック爺さんは電気にも興味持ってたろ? 応用できるぜ?
それに風呂っつーのは気持ち良いし、衛生面でも効果がある。まあ魔術で病気に罹りにくいとは言っても血流が滞ったりはするだろうし、歳食ってくりゃ関節もすり減るだろうしな」
取りあえずの方針は決まった。全員がそれぞれの役目に従って動くことになる。温泉は場所を取るため、ギリウス氏の許可も必要となるだろうが公益に適うものだ、無下にはされないだろう。
第一回魔法学会の成果が魔術温泉というのも間抜けな気がするが、潜在的な発展性を見出したという意味では大きな一歩と言えるのではないだろうか?
各自が差し出した湯のみを受け取り、お茶のお代わりを注ぐと魔核を取りに戻るべく『カローン』へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます