第84話 祝勝会02
広場に戻るとランドック氏が俺たちとの交流からヒントを得て作成した新兵器を披露していた。
「まずはこれだ! 名付けて『
これで壁の上から邪妖精どもの死骸を安全に取り除ける他、大型の動物を狩猟する際にも活用できるだろう」
彼が手に掲げている武器を見ると、捕鯨などに使用される銛撃ち機そのものだった。地球では火薬で銛を飛ばす捕鯨砲へと進化しているが、原理的には同様の物である。
クロスボウ部分に用いられている金属板バネは巻き上げ機を使っても簡単には装填できそうにないように見えた。しかし山妖精達は二人掛かりではあったものの、いとも容易く銛を装填してみせた。
彼らの体格に見合わない剛力を考えると、筋肉密度は恐ろしい事になっているのだろうと想像する。
「そして本命がこれだ! 『
それは兵器と呼ぶには奇妙な姿をしていた。威力よりも連射性に重きを置いているのだろう、木製のクロスボウに自転車のような物を組み合わせた設置型の武器だった。
邪妖精の迎撃に用いたボルトカートリッジを装填し、隣のエアロバイクのような物に跨るとペダルを勢いよく踏み込んだ。ある程度回転数が上がった段階でランドック氏がクラッチ機構のような物を操作する。
果たして『調停者』は恐ろしい勢いでボルトを撃ち出し始めた。なるほど、これを3~4台並べて門の内側に設置すれば、キャリバー50の代わりは務まりそうだ。
それにしてもランドック氏の応用力が凄まじい。たった数日でクラッチ盤を実用化して見せた。俺たちが彼らに開陳したものに刺激を受けてどんどん新しい製品を作成しているようだ。
割とどうでも良い事だが、新兵器の名前が英語なのは流行なのだろうか? どうも我々が話す言語が恰好良いものとして認識されているようだ。日本における英語の立ち位置と良く似ている。
地球では『調停者』と言えば、傑作銃の『コルト
新型兵器の品評会を離れ、ウィルマとスカーレットの様子を窺う。巨大猪の焼き肉で賑わう観衆をよそに、ウィルマは石窯で何かを丹念に調理しているようだった。
「やあ、ウィルマ。何だか重労働みたいですが、手伝いましょうか?」
「ありがとう、シュウ。しかしこれは私がやるべき仕事です。恩を受けた私が捧げることに意味があるのです。できました!」
そう言ってウィルマが取り出したのは鉄串に刺された巨大猪の心臓を丸焼きにした物だった。赤黒く巨大な筋肉の塊は生命力の象徴ともいえる迫力を持っていた。
焼きあがった心臓をスライスし、フライパンで焼いていた肝臓のスライスと一緒に皿に盛り付けると、いそいそとスカーレットの許に運んでいく。スカーレットはひとつ頷くと料理を啄み始め、それを眺めるウィルマは幸せそうだった。
何気に良いコンビだなと思っていると、スカーレットが大きく片羽根を打ち払った。バサリと言う音と共に風が吹き付けてきた後に、1枚の美しい羽根が落ちていた。
スカーレットの意思を酌んで宝石のように輝く美しい羽根をウィルマの髪に挿してやる。彼女は感極まってスカーレットに抱き着いて泣き出した。スカーレットは迷惑そうにしていたが、振り払う事はなかった。
邪魔をするのも憚られたので、二人を残して会場を回る。
喧噪から離れた位置にいたガリウス氏に近寄り声をかける。アベルから頼まれた仕事を果たさなければならない。
彼を伴い迎賓館の一室に入ると、俺はゆっくりと話を切り出した。
「お楽しみのところをお邪魔してすみません。どうしても今のうちに確認しておきたい事がありまして」
「いえいえ、大恩ある貴方達には可能な限り報いたいと思っています。それでどうされましたか?」
「実は邪妖精の指揮官に降伏勧告をしたのですが、彼らが気になる事を話していまして――――という訳なんです」
俺は邪妖精が『テネブラ』から命を受け、『テネブラの使徒』と名乗っていた事を掻い摘んで説明した。
「ふーむ。私たちは邪妖精が言語を持っているとすら思っていませんでしたし、『テネブラの使徒』に付いても聞いた事がありません。
しかし『テネブラ』から命を受けるという部分には伝承が残っています。子供を脅かすためのおとぎ話だと思っていたのですが、案外真実なのかもしれません」
そう言うと彼は山妖精に伝わる伝承を聞かせてくれた。
それはまさしくおとぎ話であり、要約すると悪い事をすると『
面白いのは日本だとお天道様は常に我々の行いを見ていらっしゃるので行いを正すように説くのに対して、『テネブラ』は悪へと誘うというところだ。
満月の晩に獣人へと変ずるライカンスロープのようであり、何とも不気味な印象を抱いた。
我々が出発する前には隊商も戻ってくるはずであり、ギリウス氏ならば何かを知っているかも知れないと言われ、ガリウス氏に礼を言って迎賓館を後にした。
ガス灯以外に篝火が焚かれ、光に照らされた人々は皆笑顔を浮かべていた。大量の屍を踏み台にした幸せではあるが、未来に向けて歩き出そうとする人々の営みがそこにはあった。
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