第76話 閑話 チームの休日1

 アルフガルドに滞在して4日目となった。異世界にあっても尚、週休1日制はしっかり守る管理者の鑑であるアベルによって、交代制の休暇が与えられた。

 4日目を俺とハルさんウィルマが取り、5日目にアベルにヴィクトル、カルロスとおまけでドクが休む、所謂半舷休暇という奴だ。

 ドクの休暇がおまけ扱いなのは、基本的に『カローン』に籠って好きな事をしているためだ。毎日が勤務とも言えるし、毎日が休日でもある。ある意味夢のような生活をしている。


 ともあれ折角の休暇なのでハルさんとサテラを伴って出かけることにした。スカーレットはウィルマに懇願されて、彼女の狩りに付き合っている。割と仲良くしているようだ、万が一のために『ラプラス』をくっ付けている。

 壁時計(ドクが振動子を調整したので14時間で一周する)を見ると朝6時だ。微妙に一日が長いので必然的に早寝早起きになっている。

 洗顔を済ませて髭を剃る。鏡に映った自分の顔をじっくり眺める、鼻毛が出ていた。急いで手入れをして再び眺める。

 肌にハリがあり、目の下に常にあったクマも消えた。左目の異常を除けば、30歳ちょうどぐらいの外見となっている。痩せたことも相まって若干精悍な雰囲気が出ているが、基本的にタレ目で常に困ったようなタレ眉毛が台無しにしている。

 髭の剃り残しが無いか確認していると部屋のドアがノックされる。早朝から誰だろうと思いドアを開けると、腹に衝撃。サテラが飛びついてきていた。


「シュウちゃん、おはよう! 今日は一人で起きたんだよ!」

「そうかそうか、ハルさんに起こされる前に起きられたんだな、えらいぞー」


 そう言って頭をわしわしと撫でる。例によってノーブラのサテラが抱き着いているため、お腹の辺りがもにゅんもにゅんする。

 こんな時だけはEDで良かったと思ってしまう。いくら小さい子でもおっぱいには反応してしまう悲しい男の性だが、世間一般では性的対象として見なした扱いとなる。

 サテラの手を引いて厨房へ向かうとエプロン姿のハルさんが料理を作っていた。


「おはようございます、ハルさん。すみませんいつも料理をして頂いて」

「気にしないで下さい、好きでやっていることですから。サテラちゃんはお皿を運んでくれる?」

「はーい! ハルちゃん、これでいい?」


 サテラがお手伝いしている間に、食器や飲み物の準備を整える。今日は俺が持ち込んだほうじ茶を淹れて、3人分の茶碗に注ぐ。

 テーブルにはご飯と味噌汁、卵焼きと焼き鮭に焼いたウィンナー、大根とさらし玉ねぎのサラダという和食の献立が並ぶ。

 サテラが隣に、ハルさんが向かいに座ると各自が食前の祈りを捧げ、食事に取り掛かる。

 サテラには色々と謎が多いのだが、教えもしないのに箸を器用に使いこなすところも不思議である。最初から日本語と英語を話せることから、俺の知識を全て継承しているのかと疑ったが、どうもそうでもないらしい。


「ハルさん今日は何処に行きましょう? 行きたい場所ってありますか?」

「うーん。私は特にこれと言ってありません。サテラちゃんは行きたいところある?」

「うんとね、お外に行ってみたい!」

「それじゃあ、お弁当でも作ってピクニックにしようか? ハルさん構いませんか?」

「ええ、私はお弁当作りますね。シュウ先輩はレジャーシートとバスケットを捜してきて貰えますか?」


 アベルから男なら常備していて当然だと貸し出されたレジャーセットを持って来ると、ハルさんとサテラは着替え終わり、持ってきたバスケットにお弁当を詰めている。

 今日のハルさんの装いは、麦わら帽子に白いワンピースという避暑地のお嬢様と言った素晴らしいコーディネートだった。

 一方サテラは銀の髪をポニーテールに結って貰い、黒ニーソにクリーム色のフリルスカート、黒のブラウスとシックに決めている。


「二人とも実に素敵だ! 今日は楽しい一日になりそうな気がしますね」

「シュウ先輩はお上手ですね。それじゃ行きましょうか?」


 城壁を出て10分も歩くとそこそこ大きな池がある広場に出る。ここは山妖精にも人気の行楽地であり、時間が早いためか完全に貸し切り状態だった。

 手ごろな木陰にレジャーシートを広げて荷物を置き、BBQセットを準備すると釣り竿を取り出す。サテラと並んで釣り竿を垂らし、ハルさんは木陰で本を読んでいる。

 昔夢見た俺の家族像が脳裏を過る。30を過ぎれば自然と結婚をして、子供の一人二人居るものだと思っていたが、現実は未婚で持病を抱えて世間には言えない仕事に就いている。

 幸い異世界で子供は出来たが、ハルさんに母親役を押し付けているのが心苦しい。更にコブ付きペット付きと言う条件で結婚してくれる女性が居るのだろうか?

 俺の血は引いていないが、サテラを養子に迎えれば両親も安心してくれるかも知れない。幸い経済力には不安が無い。


 そんな事を考えていると竿が大きく撓る。ルアーでも案外釣れるものだ、リールを巻き取りながら少しずつ引き寄せる。

 水面に魚影が見えた、かなり大きい。30センチは楽に越えている、大物だ。


「シュウちゃん、がんばれー!」

「シュウ先輩、はい! 網です」


 ハルさんがたも網をサテラが応援をしてくれている。ここは恰好良く釣り上げたいところだ。

 3分ほど格闘を続け、ついにたも網で掬いあげる。ニジマスに似た淡水魚で、大きさを測ると70センチもあった。

 俺たち以外にも釣りに来ていた山妖精に訊ねると、常食にしている魚だそうだ。


「うわー! おっきいお魚だ! 食べるの?」

「クーラーボックスに入らないかもしれません。ここまで大きいとどうしましょう?」


 サテラはわくわくしているし、ハルさんは困惑顔だ。幸い1メートルを越える太刀魚だって捌いた事があるので、瞬間移動で往復し、包丁一式を持ってきて解体する。

 取りあえずニジマスに似ているのでニジマスの捌き方を試してみる。肛門に刃を入れ頭に向かって切り進む。皮一枚のみを切り、内臓には傷をつけないよう注意を払う。

 喉元まで裂いたら、鰓と喉の間にある部位を切り、鰓を掴んで内臓を全て引きずり出す。サテラに『水妖の盆』で水を出して貰い、腹の中を綺麗に洗うと後は簡単に三枚におろす。

 面倒だから皮を引いて(剥がして)、腹骨を漉き取り半身を切り出す。中骨ともう半身はビニール袋に入れてクーラーボックスに放り込み、頭や内臓などは池に帰って貰った。


 ここまでやって不味いと台無しなので、少しだけ切り取ってBBQセットで焼いてみる。パラリと塩を振りかけ、シンプルに塩焼きにする。

 寄生虫が怖いので少し焼きすぎる程度で持ち上げて口に入れる。川魚だから臭みがあるかと警戒していたのだが、臭いどころか鮎のような香気すらあり非常に美味しい。

 早速切り身を量産して塩焼きにする。教えてくれた釣り人にもお裾分けをして、サテラとハルさんも頬張る。


「おいしー! なんだか不思議な香りがする」

「トラウトよりも美味しいですね、旨みがぎゅっと詰まった味。くせが無いからホイル焼きとかも美味しそう」

「あ! それ良いですね。バターと醤油としめじと玉ねぎ何かを一緒に入れて焼いたら美味そうです」


 その後も同じ種類の魚を2匹釣り上げ、クーラーボックス一杯に戦果を詰め込み、休日を満喫して意気揚々と凱旋した。

 『カローン』に戻るとスカーレットとウィルマが牛ほどもある野ブタを仕留めて、山妖精を招いた大焼肉大会となっていた。

 この空気の中に魚を出す勇気は無く、すごすごと冷凍庫に魚をしまって、俺たちも交じってウィルマとスカーレットを称えた。

 俺だけが微妙な気分を味わいながら、休日は過ぎていった。

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