第75話 アルフガルド Ⅴ

 一夜明けて今日もガリウス氏と迎賓館で打ち合わせをしていた。技術についてはランドック氏たっての希望で、原動機回りの車に関する技術を集中的に供与することになった。

 農作物については地妖精と同じ物を提供し、厨房の冷蔵庫に何故か入っていたポップコーンから中身を取り出し、トウモロコシも育てて貰うことにした。

 因みにポップコーンに用いられる品種は爆裂種と言い、我々がイメージするスイートコーンとはかけ離れた品種だ。

 粒の皮が分厚く硬い上に甘みも少ない、しかし挽いて粉にせずとも食べられるという点は大きい。映画館等で販売されるスナックとしても有名なように様々なフレーバーを付けて提供される。

 つまり素材自体にはそれほど自己主張がないので、色々な料理に応用可能だと思い育てて貰うことにした。ポップコーンにする際にかなり乾燥させているらしいので、発芽するかは保証できないのが難点だ。


「昨日ギリウス氏から邪妖精が発見されたと聞いたのですが、妖精族なんですか?」


 ちょうど打ち合わせも一段落し、話題が落ち着いたのを見計らって聞いてみた。


「邪妖精が見つかったのですか? 昨日の手紙にはそんな事は書かれていなかったが、事実だとすると厄介な話です。

 邪妖精が何なのかは正直良く判っていないのです。祖先を同じくする妖精族だと言う説もあり、凶悪な外見と意思疎通が不可能なことから邪妖精と呼んでいます。

 背の高さは我々と大差ないのですが、まず皮膚の色が緑色をしており、口からは乱杭歯が覗き非常に狂暴です」


 説明を聞く限りではゴブリンに似ているなと思ったので、ドクに出来るだけ狂暴そうで実写風のゴブリン画像を捜して貰いPDAに表示して見て貰う。


「良く似ています。もう少し我々妖精族に似ている感じにすればそっくりですね。これはそちらの世界に居る妖精族ですか?

 え? 空想上の生き物? そうですか、特徴は捉えています。我々にはギャーギャーという不快な鳴き声にしか聞こえませんが、それで集団を統率し、こん棒や石槍に弓で武装して襲ってくるのです。

 お察しの通り単体ではそれほど脅威となる存在ではありませんが、とにかく数が多いのです。我々妖精族に共通する欠点が数で劣る事なのです」


 この邪妖精は山の奥地や沼地などに棲み、普段は姿を見せないのだが100周期(約230年)間隔で大繁殖し、周辺を荒らして回るのだそうだ。

 山妖精も地妖精も地上に耕地を持っているが、邪妖精たちはその全てを奪いつくし畑も踏み荒らしていく。意思疎通が出来ないため、交渉など不可能であり、徹底抗戦か耕作地放棄かを選択せねばならないと言う。

 ただ繁殖力が強い反面、寿命が非常に短く10周期もすれば居なくなるらしい。地球で言うところの飛蝗のようなものなのだろうと推測する。

 ギリウス氏が手紙で知らせていないところを見る限り、未確定情報なのだろう。とはいえ杞憂で済めばそれに越したことも無い。


「前回の襲撃から50周期ほどしか経っていないというのに、芋類や根菜類はまだ収穫できませんし、本当であれば悩ましいことろです」


 我々も旅をする関係上、そんな集団に襲われては堪らない。その規模や習性について詳しく教えて貰った。

 邪妖精が大繁殖した際の数は少なく見積もっても数千匹になり、雪崩のように押し寄せて動く全てに襲い掛かり何でも食ってしまうとのこと。

 農耕馬も犬も関係なく襲い、自分達よりも数倍も大きな牛すら数で圧倒して食べてしまうらしい。それなら『カローン』に籠っていればやり過ごせるかと思っていたら、邪妖精も光るものを集める習性があり、『カローン』はさぞかし彼らの興味を惹くだろうと言われた。

 そうなると最早他人事ではない、アベルとも相談した結果、我々も独自に調査をする事にした。調査結果については山妖精とも共有し、有事の際は共同で対処する方針だ。

 とは言え差し迫った脅威ではないため、当面は偵察と言う消極策を取らざるを得ない。それよりも情報収集や物資の用意などをする必要がある。


 そして俺はチームに豊富な水を供給してくれる『水妖の盆ウンディーネベイスン』の改良を依頼するため、ランドック氏の工房を訪れていた。

 現状の機能ではサテラ以外が操作しても大した水が得られない。そこで大容量バッテリーのように魔力を蓄積しておいて、一気に流すことでサテラ以外でも人数と時間を掛ければ同じことが出来ないかと考えたのだ。

 それに対するランドック氏の答えは簡潔であり、驚くほど単純な改造で実現してのけた。魔力吸収機構の直前に純粋魔力結晶を噛ませる、ただそれだけである。

 純粋魔力結晶自身が魔力蓄積能力を持っており、かつ魔力を流す導体にもなり得るという事だった。これで純粋魔力結晶に少量の魔力を流せば、俺でもサテラのような大量の水を用意できる。

 純粋魔力結晶を交換すれば何度でも使用でき、透明に近くなった純粋魔力結晶は、魔力吸収機構の一部だけを取り出した充魔力装置で再活性が可能となった。


 この一連の作業を眺めていて、一つ思いついたことがある。この仕組みを俺の能力にも応用できないかと言う事だ。

 毎回毎回使用時にエネルギーを確保しているが、おそらく膨大な量の無駄が発生している。

 この余剰エネルギーを蓄積できれば、効率よくエネルギーを使えるし、連続した大威力攻撃も可能になる。

 そう思い『管理者の目アドミニサイト』で魔力充填の仕組みと純粋魔力結晶を観察してみた。純粋魔力結晶は魔術行使前の『情報層』に領域だけ確保した状態と良く似ていた。


 そこで自分の『情報層』を拡張し、中身のない風船状の『情報層』を構築してみた。そして自転エネルギーは大き過ぎるため、手始めに重量物を落とす際の位置エネルギーを流し込んでみた。

 領域保持にエネルギーを徐々に食われるものの、見事にエネルギーの蓄積が出来た。次はいよいよ自転エネルギーである。『管理者の目』を用いて自分とは別の『情報層』領域を確保する。

 一部を開いて自分の領域に繋げ、例のグミを放り投げて固定する。膨大なエネルギーが注ぎ込まれた領域を自分から切り離す。そして『ラプラス』の領域に接続し、いつでも使える非常用エネルギーとして確保する事が出来た。

 これがあれば隕石落としのような破滅的手段以外で、小回りの利く攻撃手段を構築することができる。巨大ワニだろうがロックバイターだろうが何とかできるはずだ。

 邪妖精の数に対抗するためには、少し工夫が必要になるが、『ラプラス』とブービートラップを組み合わせる事で対処が出来るだろう。


 この蓄積したエネルギーがどの程度の時間で発散されてしまうのかなど、色々調査が必要となるが、皆を守るための武器を一つ作りあげることができそうだ。

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