第128話 夜の惚気と御伽話(1)
いつのまにか外は完全に夜になっていた。
でも夜だけれど相変わらず明るい。
今日は満月ではない。
それでも月と星の光、そして白い砂浜が優しい光を放っている。
「最近、みらいが楽しそうで安心していたです」
ぽつり、と三郷先輩は呟くように言った。
「みらいも私と同じでずっと指揮所詰めで、同じ学年の友達とあまり交流ないから心配だったです。でも高校部になってから、特に夏頃からすごく楽しそうな感じになったから安心したです。
それまではずっと、私とかユカリとかアカリとか指揮所常駐組ばかりとつるんでたですから」
「三郷先輩は?三郷先輩こそ中学部かそれ以前から指揮所詰めだったんだろ」
三郷先輩は俺に笑顔を見せる。
「転入生なのに詳しいですね」
「色々聞きました」
「私の場合はヒサシゲがいたです。指揮所詰めになる前から」
三郷先輩は星砂の上に腰を下ろす。
俺も横に座る。
「ちょっと惚気るですよ」
先輩はそう言って話し始める。
「私がここの小学部に来て最初から世話になったのがヒサシゲです。
当時私は車椅子生活だったのですが車椅子を動かす程の腕力すら無かったです。なので当時から移動だの何だのでヒサシゲに世話になっていたです。
ヒサシゲは魔族で小1の時から短距離異空間移動が使えたです。腕力も普通の人間以上なので車椅子を動かすのも不自由なく出来たです。
私の寮は体が不自由な子用だったので寮内では不自由はあまり感じなかったです。でも学校では結局ほとんどの時間ヒサシゲに付き添ってもらっていたです。
それは小学4年の夏まで続いたです。
ヒサシゲが夏休み、宿題を全部さぼって先生に大目玉喰らってまでして最初の作品を作るまでは。
それは、私専用の義足だったです。ヒサシゲの魔力を貯めて一日中歩いたり座ったりしても大丈夫な、私専用の義足だったです」
三郷先輩はそこでちょっと息を継ぐ。
「勿論今の義足ほど完成度は高くないし見かけもそこまで良くはなかったです。でも私一人で一通りの生活をするには充分な出来だったです。
『お前もレディーになるんだから、いつまでも俺とだけつるんでいないで、もっと自分で動いて自分の世界を広げろよ』って恰好つけて言われたのを憶えているです。
ついでに次の日の朝ヒサシゲの寮の部屋に行って『ここのフィット加減が今一つだから調整して欲しい』ってパンツ脱いで義足の調整迫った時の顔も憶えているです。
時にはトイレで世話して貰う事すらあったのに何を今更と思ったのですが、男の子なんてそんなものなんでしょうか」
そんなものです、と俺は心の中で叫ぶ。
無自覚な美少女なんて思春期の男子にとって大変危険な代物だ。
今でも時折強く強く実感している位に。
まあそれはさておき。
「それで私は介助無しで生活できるようになったのです。それでも結局小学部の時はヒサシゲにべったりだったし、中学部に入ってからも何やかんやで色々世話になってたです。
義足も年に1度は新型を作っているですし、休日で寮の御飯がない時はヒサシゲの部屋に押しかけて飯を食わせてもらうですし。腕力無くて買い物でもそれ程持てないしフライパンも重すぎて料理大変なのです。だからヒサシゲに料理作って食べさせてもらっているです。結局付き合いが長くて一番安心できるです」
完全に後台先輩に寄生しているようだ。
「今つけている義足の装着確認していた時も面白かったです。
あの日は私も少しはヒサシゲの事を考えて、ビキニの下を穿いて行ったです。で、下半身はそれ以外脱いで肌に当たる部分の微調整をお願いしたです。
それで久重が目を背けているもんだから『下の毛は処理しておいたから見ても大丈夫ですよ』と言ったら『もっと見えてはいけないものが丸見え!』と怒られたです。
確かに足無いとビキニ外れ易いです。全部ずれて穿いている意味無い状態だったです。盲点です。
でもあの時のヒサシゲの顔は傑作でしたのでしっかり憶えているです」
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