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俺は小学三年になる春まで、この教会の隣で暮らしていた。だからその頃の遊びと言えば、隣の教会で子供たちと遊ぶことだった。教会は児童養護施設も兼ねていたから。
「久しぶりね、こっちに帰って来ていたの?」
「帰って来てたのは、もうずいぶん前だけどね」
立ち話も何だからと、シスターは俺を招き入れてくれた。あの頃の気の強いおばちゃんシスターは影を潜め、穏やかなおばあちゃんシスターになっている。
「あら、それならもっと早く顔を見せてくれたらよかったのに」
「ごめんって」
肩をすくませて謝ると、忙しいのね、と湯呑の茶を啜った。新緑の綺麗な茶だ。
「元気にしていたの?」
「元気元気、病気も怪我も全然しない」
「それは良かったわ」
「シスターこそ、身体の調子はどう?」
「ふふ」
「なに」
「いえ、この歳だものガタは来るわよ。そう遠くない未来で、私は主のもとへ還ることになるでしょう」
その声はただ穏やかで、しわしわの手がそっと俺の手に重ねられた。
「でも、こうして想ちゃんにまた会えて良かったわ」
「それじゃぁまた会いに来ないとね」
「ふふ」
「だからまだ逝かなくてもいいんじゃない? 主はそんなにせっかちじゃないでしょ」
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