あわせてしあわせ
カゲトモ
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「ふぅ」
身体が温まっているのか、それとも外気が冷たいだけなのか。ふぅ、と吐いた息が白く登る。こりゃもうすぐ雪が降るな。
天気予報でも雪が降ると言っていたし、覚悟をしていたけどやっぱり少し後悔。何もこんな日に出かけなくても良かったか? いやでも、限定のジェイソンケーキが食べられるタイミングなんてそうそうないし、仕方ない。
ジェイソンケーキって言うのは、二つ隣の町にある映画好きなオーナーのカフェ、その名も、詩音幕(シネマ)で出されている十三日限定のケーキだ。
真っ白な丸いチーズケーキに三種のベリーソース。ケーキを割ると中からもたっぷりのベリー。そのケーキが盛られているプレートには生クリームと一緒に斧のクッキーが三本。
プレートにドリンクが付いて、千円ぽっきりとかお値打ちだ。さらに店内のスクリーンでは、十三日の金曜日を第一作目から流していると言う徹底ぶり。
通常時はオーナーオススメの映画(週末は必ず恋愛ものになっている)が流れているのだが、十三日だけは特別だ。だからホラー映画が苦手な人は入店を断るのだとか。
まぁ、俺も正直ホラー映画は好きじゃないんだけど。限定に弱いって言うのと、本当にケーキが美味しいから頑張って食べているだけで。出来ればもうちょい音量下げて欲しいかも、なんて。映画は迫力が必要だからなぁ。
「ふぅ」
空を見上げながら息を吐くと、どんよりとした灰色の雲が視界いっぱいに広がる。早く帰らないとと思いながら、その速度は少しゆっくりになる。
歩いていたのは懐かしい道だ。
「あら?」
どうだろう? と思いつつ昔は開け放たれていた門を柵越しに覗いてみると、一人の女性と目が合った。
「こんにちは」
気づいたのか気づいていないのか。それは分からないけど、その声にホッとする。
「こんにちは」
にっこりと微笑んで答える。女性はすっかり皺の刻まれた優しそうなシスターだ。
「なにか御用かしら?」
「いえ、その、近くを通ったものですから」
少し丸くなった変わらない声色。でもやっぱり、分からないか。
「すみません」
表情を変えないまま佇むシスターに、自分の事を告げるかどうか迷って、やっぱり辞めた。
気づいてもらえなかったら、ちょっと悲しいから。
「失礼しました」
視線を落として会釈する。と、ギィッと柵が動いた。
「待って」
「え」
「あなた、想ちゃんよね?」
「えっ気づいて」
「すぐに分かるわよ」
うふふ、と笑う表情は全く昔と変わらなくて。二十年くらい振りになるのに、あの時と変わらない。
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