第23話 ラエリオンの罠


 オラ、アルシュ。なんだか知らないが、ジェネシス帝国の将軍がオラの誕生日パーティーに来たぞ。なんかやばそう。



 ジェネシス帝国、白の将軍ラエリオンが、アルシュのパーティーに同席する。


 奥の主役席であるアルシュの右隣には、父親の帝国皇帝アルファスと、アルシュの母親のファリティアが、左隣には正妃ヴィクティアがいる。


 アルシュ達は、ジーとパーティー会場を、相伴する南方陸軍大将と一緒に回っている。


 アルファスが

「このまま、何事もなく…」

 物騒な事は起こって欲しくない。


 なぜなら、アルシュは、全力のドッラークレスで、ジェネシス帝国の飛翔船艦隊を壊滅させた事があるからだ。

 無論、その話は極秘だが…。

 

 ラエリオンはパーティーのメンバー達と和やかに話しつつ、南方陸軍大将が会わせる面子との引き合わせを終えて、奥の主役席に、アルシュの元へ来る。


 南方陸軍大将がお辞儀して

「アルファス皇帝陛下、今日はご長男、アルシュ様の11歳の誕生日

 大変めでたい事にございます」

 定番の挨拶をする。


 アルファスは無難に

「今日のご足労、感謝する。南方陸軍大将ドルトル」


 南方陸軍大将ドルトルは、中年のシワがある顔に笑みを作り

「そのようなお言葉、勿体なき事。

 わたくしは、アルファスに忠誠を誓う身故、当然です」


 ドルトルが後ろにいるラエリオンに

「彼は、ジェネシス帝国、ホワイト・ジェネラル(白の将軍)

 我が南方陸軍とは、長くつき合っている方で。

 今日、偶々、訪れて。是非とも皇帝陛下のご長男のご尊顔を拝謁したいと…

 申されましたので…」


 ラエリオンは頭を下げ

「ラエリオン・オルタルス・ギャラルフォルンでござます。

 アルファス皇帝陛下のご拝謁に預かり、光栄にございます」


 アルファスは肯き

「うむ。遠くの場所から訪問、感謝する。

 今日は、存分に息子の誕生日パーティーを楽しんでいってくれ」


 ラエリオンは頭を下げたまま

「ありがたき幸せ。ですが…そうとも思えない事があります」


 ピクッと正妃ヴィクティアが僅かに震える。

 アルシュは、ちょっと引き攣った顔をする。


 何かを言い出す始まりだ。


 ラエリオンは、アルシュ達を見つめて顔を上げ

「聞くところによりますと…今日の主役であるご子息様は…

 正しい生まれでないと…聞いております」


 アルファスの眉間が寄る。

「何が言いたい…」


 空気がピリッと鋭くなる。

 ラエリオンは口元だけの笑みをする。

 まるで獲物を狙う獅子のようだ。


 ラエリオンは告げる。

「要するに…正式なお子でない方の誕生日パーティーとは…

 とても、面妖な…と思いまして」


 ファリティアの顔が曇る。

 アルシュが妾腹というを暗に言っているのだ。


 アルファスが冷静に淡々と

「アルシュは私の息子だ。それ以外の事実が何処にある」


 ラエリオンは口元だけの獅子の笑みで

「普通なら、皇帝という偉大なお立場の方が…妾の子の為に、このような盛大なパーティーを開くのは、おかしいと思うのですが…」


 ドルトルが

「ラエリオン卿、それは言い過ぎだ。幾ら事実とは」

 ドルトルがハッとした顔をして

「申し訳ございません」

 頭を下げてアルファスの謝罪する。


 下にするドルトルの顔は、したり顔だ。

 そう、始めからこのようになるように仕組まれていた。


 正妃ヴィクティアが

「わたくし達、妃の者達から言い出したのです。

 アルシュも、母のファリティアもわたくし達と同等に扱うべきと…」


 ラエリオンは怯まない

「今更ですか?」


 空気が悪くなっているのに怯まないラエリオンに、アルシュは

 マジ、この人の胆力は凄まじいわ…

 逆に感心してしまう。


 ラエリオンは続ける。

「聞くところによりますと…

 今まで、正妃様や継室様達のお子は、何時も…このように皇帝の子として

 盛大にお祝いされていた。

 しかし、今日の主役であるお子は、今までそんな事は一切なかった!

 今回に限って、何故、継室にも入れていない庶子のお祝いをされたのですか?」


 アルファスはグッと拳を握る。

 怒りが沸き起こるが、今ここで取り乱しては、良くないとして

「そうだ。汝の言う通りだ。息子を同等と扱えなかった。我の不徳。

 だから、こそ…今回から。

 同じように祝う事を始めたのだ」


 ラエリオンは態度を崩さず

「ほう…不徳ですか…。この国では、皇帝はお飾りなのですね」


 正妃ヴィクティアが一歩前に出て

「キサマ…何を言っている。

 今の言葉…我が夫を辱めたと取るぞ」


 威嚇するヴィクティアに、ラエリオンは全く動じる事がなく

「事実にございます。

 この国の現状は、この耳にも入っております。

 ヴィクタリア帝国は、皇帝の正室と継室達によって牛耳られ。

 帝国は正妃達の玩具になっていると…」


 正妃ヴィクティアが

「口が過ぎるぞ! キサマ…宣戦布告にでも来たのか!」


 ラエリオンは悲しげな顔をして

「いいえ、違います。

 わたくしは、一人の子を持つ親として言っております。

 わたくしにもアルファス皇帝陛下と同じく息子がいます。

 子を政治や権力の道具にするのは、見過ごせないと言っているのです」


 ファリティアが

「ラエリオン卿。本当に…今日のパーティーはアルシュの事を

 ちゃんと祝いたいとする正妃様達のお心遣いから」


 ラエリオンが

「その心遣いに打算があるなら、善意ではない!」


 断言しやがった。


 隣にいるドルトルは全く止めない。


 ラエリオンはたたみ掛ける。

「聞けば、ご子息のアルシュ様には、今までにないお力があるとか。

 つまり、こういう打算です。

 そのお力は皇帝の権威たるドラゴニックフォースから派生した。

 新たな皇帝の権威。

 それが何処かへ行くと、正室達の権勢が下がる。

 故に、今回の誕生日パーティーを利用して、アルシュ様は正室様達の一部であるという

 大々的な宣伝も兼ねている!

 要するに、アルシュ様を自分達の手駒にする為の算段にて、今回の誕生日パーティーを催した…と」


 アルシュはそれを聞いて

 あ、そうか…成る程…そういう事だったのね。

 色々と思っていた疑問が解決した。


 ラエリオンが

「まだ、幼い子を権力の道具にするなど…愚者の」


 アルシュが「待ってください」と止めた。


 ラエリオンは口を閉じて、アルシュを見つめる。


 アルシュは冷静に淡々と

「ラエリオン卿、貴方様は勘違いをしている」


 ラエリオンは「ほぅ…」と唸り

「勘違いとは?」


 アルシュは営業スマイルで

「誕生日パーティーは序でなんです」


 周囲が、え!という顔をする。


 アルシュは

「確かにぼくは、妾の子です。

 普通なら、皇帝の正室や継室が優先されて当然です。

 このパーティーは、ぼくがある儀式をする事の序でに

 誕生日パーティーをしようという…そういう事なのです」


 ラエリオンが

「それは…どのような?」


 アルシュはにっこりと笑い

「正妃様のご長女、アルテナに忠誠を誓う儀式を今日、ここでするのです」


 アルファスが困惑した顔で、アルシュを見ていると、アルシュが

「ねぇ…お父様…」

と、アルシュが父親アルファスに微笑み、次に

「そうですよね。ヴィクティア様」

 正妃ヴィクティアを見る。

 

 正妃ヴィクティアは

「あああ! そう、そうです。

 今日、アルテナにアルシュが忠誠を誓う儀式をするのがメインで

 誕生日パーティーはその序でなのです」

 口裏を合わせてくれた。


 アルシュはラエリオンに微笑み

「だから、皇帝の権威とか、色々な事とは関係ないのです」


 ラエリオンは驚いたように目を広げた後、フッと笑み

「そうですか。ハハハ…いや…そういう事なら、申し訳ない。大変、失礼な事を…

 謝罪させてください」

 ラエリオンは深く頭を下げた。



 こうして、急遽、誕生日パーティーのイベントに、アルシュがアルテナに忠誠を誓い。

 ナイトになる儀式をする。


 アルテナは突然の事で目が点になっているが…。

 何とか、即興で合わせて儀式をする。


 アルテナを中央に、アルシュが跪き、アルテナが模造刀で、アルシュの右肩に剣の横を置いて

「アルシュ・メギドス・メルカバー

 汝、我に終生の忠誠を誓う事を、ここに宣言するか?」


 アルシュは跪いたまま

「はい。私は、アルテナ・アレキサンドリア・ヴィクタリアに

 終生の忠誠を誓う事をここに宣言します。

 何時、如何なる時も、貴女に全てを尽くします」


 アルテナは模造刀を立て

「ここに、汝を我の剣とする事を宣言する」


 儀式は終わり、見届けた来賓達から拍手が起こる。


 ドルトルは突然の変更に困惑する。

 まさか、このような事になろうとは…思ってもいなかった。


 この誕生日パーティーを使って、周囲に皇帝と正妃達との権威の差を示し、皇帝と正妃達の間に亀裂を入れようとした思惑が、意外な事になってしまった。


 悪者を買って出たラエリオンは、楽しげにアルシュがナイトになる儀式を見つめる。

「この子は…面白い…」

 そう、面白いのだ。

 アルシュの聡明さにラエリオンは気持ちが高まる。



 アルシュのナイトの儀式が終わると、ラエリオンが再びアルシュ達の元へ行き

「先程の無礼、何とお詫びしていいか…」


 アルファスが

「誤解が解けて、何よりだ」


 ラエリオンが

「そのようなお言葉だけでは、わたくしに立つ瀬がありません。

 是非とも、お詫びをさせてください。

 しかし、ここではわたくしの本気を示せない。

 是非とも、本国、ジェネシス帝国にて…お詫びを…」


 アルファスが渋い顔をしていると、アルシュが

「分かりました。そちらへ参ります」


 アルファスが「アルシュ!」と強く言う。


 アルシュが

「ぼくの連れて行きたい者達も全員、連れて行ってもいいですよね」


 ラエリオンが頭を下げ

「勿論でございます」


 アルシュが

「後、おいしい料理もお願いします。肉が食いたいです。

 ジェネシス帝国で極上のお肉をお願いします」


 ラエリオンは顔を上げ満足な顔で

「無論、最高級のジェネシス帝国の肉でおもてなしします」


 アルシュには算段があった。

 ここで、ジェネシス帝国との繋がりを作れば、レアド領の時に役に立つ筈だ。

 そして、恐らくこのラエリオン卿は、始めから自分を本国に呼ぶつもりだったのだ。

 だから、悪役を買って出て、謝罪して、呼び寄せる。

 見かけによらず、中々の策士で、筋を通す人だなぁ…と思った。

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