第10話 アルテナの誘拐

 オラ、アルシュ、9歳。今日はアルテナの誕生日会だぞ。

 何時もの様にアルテナに誕生日ケーキを作って、みんなでアルテナの10歳の誕生日を祝うぞ!

 マジ…アルテナはリア充街道まっしぐらだぜ。



 アルシュは、アルテナが主役である誕生日会場にいた。

 何時もなら自宅の正妃城だが、今回は来客が多いというので、大きな式典が出来る会場を借りた。

 アルテナは将来のヴィクタリア帝国の女帝様だ。

 多くの貴族や諸外国の王族達がお祝いというゴマすりに来ていた。


 アルシュは、沢山の人々が立食するパーティーを見て歩いていた。


「いやはや…皆さん。強欲で…」


 この中でアルテナの誕生日を純真に喜んでくれる人は、何人いるだろうか…。

 悲しいけど、これの九割は、権力を握っている人に集るハイエナばかりよね。


 アルシュは料理を貰って摘まむ。


 ノルンとカタリナが来て

「アルシュ!」

と、ノルンがアルシュの手を取り

「アルテナが呼んでるぞ」

「ああ…分かった」

と、アルシュは一緒に行く。


 アルテナのいる主賓席に行くと、豪華な純白のドレスに着飾ったアルテナが、色んな人から祝福の言葉を貰っている。

 両脇には父アルファス皇帝と、母ヴィクタリア正妃が微笑んでいる。

 アルテナも微笑んでいるが、作り笑みだった。


 アルシュはそれを見て

「もうちょっと後にしようよ」


 ノルンが「ええ…」と残念そうな顔をする。


 その内に、アルテナがアルシュ達に気付き

「お母様…ちょっと…」

 ヴィクタリアは

「直ぐに戻りなさい。次のお色直しがありますから…」

「はい」

とアルテナはお辞儀して、アルシュ達の方へ行く。


「来てくれてありがとう」

 アルテナが、アルシュとノルンにカタリナへ微笑む。本物の笑顔である。

 アルシュは照れくさそうに

「ああ…まあ、誕生日おめでとう。アルテナ」


『おめでとう!』

 ノルンとカタリナは同時に祝ってくれる。


 アルテナはアルシュの手を取り

「ケーキおいしかったわ」


 アルシュは頬を掻き

「気に入ってくれて幸いだよ」


 そこへ母ヴィクタリア正妃が来て

「アルテナ…お色直しの時間よ」


「ええ…もっとアルシュ達を話したい」

 アルテナがワガママを言う。

 

 母親のヴィクタリアは

「じゃあ、お色直しをしながらお話しするの?」


 アルテナは顔を輝かせ

「それ、いいかも! アルシュ、ノルン、カタリナ!」


 アルシュ達は微妙な顔をするも、アルテナに押されてお色直しへつき合う事になった。

 まあ、十歳程度の子供だ。変な事にはならないだろう。


 

 アルテナはドレスを着替える。こんどはピンクのドレスである。

 一応はサイズは合わせてあるが、デザインが凝っているので、アルテナの体に合わせてデザインを補強する。

 それはピンクのバラのようだった。


 それを見ながらカタリナが「きれー」とノルンは「すげー」と楽しげだ。


 アルシュは、ドレスを補強する裁縫セットに興味があった。

 服を縫う針やまち針がなく、何かのプッシュ式ハンコウみたいな装置と糸が並んでいる。

「なんだろコレ?」


 アルシュは手にとってそのプッシュ装置を握ると、シャッキンと魔法の力で作られた針先が出て、アルシュの指を指した。

「イタ」

 そう、それが糸を縫う針だった。この装置に糸を入れ押し出した針が布に糸を通す。ちょっとしたミシンのような機構が備わっていたのだ。

「イタ…」

 アルシュの指先から血が出ていた。

 それを見たアルテナが

「何やってるのよ」

 メイクアップ終えて、アルシュに近付き、血が出る左手の一差し指を口にする。

 そう、咥えて血を止めるのだ。

 

 アルシュは戸惑い

「いいよ。そんな…アルテナ」


 チュパチュパと指をしゃぶるアルテナ、別に…卑猥ではないが…なんか、こう…アルテナが色っぽかった。

 アルテナが咥えから離し

「どう?」


 血は止まっていた。まあ、針先程度の傷だ。直ぐに止まるのは当然だろう。

「ああ…ありがとう…」


 アルテナは微笑み

「どういたしまして」


 アルテナはお色直しを終えて、エスコートをする仕官達と共に会場へ向かう。


 不意にアルシュは思った。

「あ…アルテナにぼくの血が…」

 そう、アルシュの血にはレッドリーレスを一時的に与える力がある。

「まあ…大丈夫か…」

 そんなに、心配する事はなかった。

 だが…これが、後々に効果をもたらす。


 アルテナは数名にエスコートをされて通路を進んでいる

 その前を数名の武装した男達三人が塞ぐ。

 明らかにおかしな者達に、エスコートしている仕官達が懐にある小型の銃剣を取り出し魔法で刃を作り警戒する。

「何者だ?」

 塞いだ男達は肩を竦め「さあね」と告げた次に、背後にディリアが現れ、右目の水晶の眼帯を取る。その目には光る紋様が浮かんでいる。


「眠れ眠れ、スノーホワイト」


 アルテナを含む、ガードしていたエスコートの者達が、気絶するように眠りその場に転がる。

 前を塞いでいたのは、ディリアの部下だった。

 ディリアはアルテナを抱え

「ずらかるよ!」


 アルシュは、ノルンとカタリナと一緒に会場に戻ろうと、アルテナ達が進んだ通路を歩いていると、ディリアの力によって眠らされたアルテナの一団を見つけた。

「おい!」

 アルシュは駆け付け、倒れている仕官達の首を触ると脈があり

「おい、おい!」

と、頬を叩いて眼を覚まさせる。


「ああ…」と起き上がり「あ、アルテナ様は?」


 ズンと会場に爆発の衝撃が走る。


 アルシュは、まさか…と嫌な予感をさせて、窓の外から顔を出すと、会場の入口を警備するゴーレム。


 ゴーレム『魔導鎧』3.5メータ前後の鎧のロボット。

 標準サイズはナイツと呼ばれこの3.5メータで

 大きな戦闘にはこれより1.5倍も大きな5メータのギガント級が使われ

 それより強いのは15メータもあるキングス級という三種がある。


 アルテナの誕生会を警護するナイツのゴーレムが、別のナイツのゴーレムに襲撃され、倒され炎上するのが見えた。

 そして、その煙の中にアルテナを担いで走るディリアの姿が見えた。

 

 ディリア達は襲撃したナイツ・ゴーレムに守られ逃走用の魔導トラックに乗り、アルテナを攫って会場を後にした。

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