室町時代の異変
トランピングを今では珍しい天然木材でできたテーブルに広げて私たちは賑やかに空白の時間を埋めた。トランプを3次元上に並べて遊ぶわけだから、片付けは本当に面倒である。おかげさまでハートの2とクローバーのクイーンがなくなってしまった。
それからは皆それぞれが出張先での愚痴をとことん腹を割って喋り尽くしたり、パンフレットに「足利義政が銀閣を建てた」と見つけて、何日かかったことか、と冗談めかしてやった。
(アナウンス) It is about time. I will hand you marpillin tablets, please breathe in a couple of times to drink.
マルピリンとは、時空間を飛ぶ際に体が衝撃に耐えられるようにする1つの覚醒剤。前年度のオリンピックで海外のスケート選手が使用して大きな騒ぎとなった。
私たちは指定されたリングを潜り、予定通り目的地についた。
室町時代に着いた。私はリングを潜り抜け、大昔の空気を吸った。森林の過剰な伐採によってどうやら本当の空気を忘れてしまったようだ。
銀閣がたまたま見えたから、写真に収めて出張先に向かおうとした。しかしなぜだか渡された地図と一致する点がみごとに1つもない。まずい。会議まで33分しかない。ここは歯を食いしばって近くの人に聞くしかない。こんな時、無性に人見知りであることが悔やまれる。
「Ah,excuse me.」
「どうしまし…あ、What's wrong?」
そうだ。この頃はまだ日本語が使われているのか。英語で話せるといいのだが。
「I want to go to F point.」
20代後半ほどの赤いダッフルコートを着た綺麗な女性は、地図のタイトルの方を見て少し悩んだ末、笑いながら
「Heisei is now.」
英語で話せたのはよかったが、女性が苦笑していたことが気になって仕方がなかった。ここは室町時代では無いということだろうか。だとしたらなぜ私は平成時代にいるのだろうか。いくつも不安が積み重なって頭が真っ白になりそうだった。
そのあとも数人に訪ねてみたのだが、やはり馬鹿にされているようだった。きっとこの時代に時空間旅行など存在しないから、勘違いしたピュアな外国人観光客とでも思われているのだろう。しかしどうして・・・。
立ち尽くしていた私の元へ、さっきの女性が駆け寄ってきた。
「Is this yours?」
とポケットの異様なむなしさを感じていた私は、女性の持っていたカメラを見て、そわそわした体が少し落ち着いていくのを感じた。
「Thanks,ah..., I want to return something」
結局今自分がどんな状況下にあるのか理解しないまま女性をレストランに誘った。
「Where did you find that map?」
運良く向こうから自分の悩みについて話しかけてくれた。焦りがたまっていたせいか、すらすらとすべてを語った。
しかし口を開けば開くほど女性の顔が一度見た表情に近づいていくのを感じた。やはり何かがおかしい。
「In other words, you are a future person.」
「Yes.」
「Understood. It is certainly a misunderstanding. I still can not believe it, but a future person would not have a house in this era. Please stay at my house till the mind is organized. Honestly I am also interested.」
なんて優しい女性だろう。私はずっと嫌いな知り合いとその女性を比べてその違いにうんうん、とうなずいていた。
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