第二十九話:『告白するときに丁度タイミング良く降り始める雪』

「よっ、ほっ、はっ」

『騒がしい上に煩わしいですね。何故フラフープをしているのですか』

「たまには運動しないと体に悪いですからね」

『時折不敬罪で即死して体をリセットしているのだから不要でしょう』

「人間としての基本的な生活は維持していきたいなと思いまして」

『ただでさえ人間としての割合が減っていますからね』

「女神様もどうですか、意外と良い運動になりますし腰のラインも細くなりますよ」

『それは私の体のラインが最近寸胴になってきているとでも言いたいのでしょうか』

「俺としては今の体形が好きなので問題は無いのですが。女性はダイエットに効果あると言えば結構興味を持つので」

『性別で言えば女性ですがそもそも女神ですから。勿論興味は持ちません』

「別に女神様のスタイルじゃ大して揺れないでしょうし」

『緊箍児きんこじの刑です』

※孫悟空の頭のアレ

「フラフープが突如体を締め上げ始めた。これが孫悟空の味わった苦痛ですか。よいしょっと」

『鰻の様に抜け出しましたね、人間性が失われ過ぎでは』

「じわじわと来る苦しみは苦手なので」

『なるほど、今後の参考にしましょう』

「口が滑ったか。おや異世界転生ゲージが溜まっている」

『どうやら異世界転生の時間のようですね』

「では目安箱を取り出しまして、がーさらんどーごーさんだー。Klausさんより『告白するときに丁度タイミング良く降り始める雪』」

『おや、今回はロマンチック路線ですか』

「その様ですね、こういった手合いは最期の時が予想外なタイミングで来るからしめやかに終われない場合が多いですよね」

『告白するときに丁度タイミング良く降り始める雪に最期が来ると言うのも不思議な話ですからね』

「可能性としては地球温暖化が加速して――とかですかね」

『確かにそれなら雪は降らなくなりますね』

「でも地球温暖化は昔騒がれていましたけど、同時に寒さも厳しくなっていますよね。寒暖差強いと体調壊しやすくなるから喜ばしくはないのですが」

『今信じられている説が全て正しいわけではありませんからね。正しくても別の要因が加われば変化だっておきますし』

「最初からリア充な連中は敵ですが、これからリア充になる連中は応援したい主義なので上手いこと恋のスノウになって来ますよ」

『あまり期待はしてませんが、行ってらっしゃいませ』



『よっ、ほっ、あっ……意外と難しいですね。ですが思いの外暇つぶしになりますね。次は三十秒にチャレンジしましょう』

「ただいま戻りました」

『喰らえチャクラム攻撃』

「帰ってくるなり巨大なチャクラムが飛んできた、ってフラフープだ。よっと」

『投擲されたフラフープの中央に潜り込んでからのフラフープ回しとはやりますね』

「折角ですからこのまま報告しましょうか」

『いえ、流石に煩わしいので普通に報告してください』

「わかりました。では今回はプレゼンテーション風にスライドを用いて報告しましょう」

『普通ではないですが、いや報告することに関してスライドを利用することは普通なのでしょうか』

「写真等を毎度毎度見せるのも悪くないですけど、たまにはやり手ビジネスマン的なオーラも見せておこうかなと」

『ちゃっかりスーツ姿ですね、似合わなさ過ぎて鼻で笑いたくなります。それで告白するときに丁度タイミング良く降り始める雪でしたか』

「はい、まずは普段の登場シーンはこちら」

『初々しい少年少女が告白をしそうな雰囲気の背景に雪が降っていますね』

「ロマンチックな感じを演出するのを生きがいとして振ってみましたからね」

『悪くない心掛けですね、転生となるのかは甚だ疑問ですが』

「次のスライド」

『同じような感じで別人の告白の光景のようですが、同様に雪が……何か違和感あると思ったらこの二人半袖じゃないですか』

「8月の真夏日でしたからね」

『なんで真夏日に雪が降っているのですか』

「流石に冬の季節限定だと告白シーンも少ないじゃないですか。なのでいつの四季でも告白の気配があれば降れる様にオプションを付けましたよ」

『真夏に雪なんて降ったら驚きで告白どころじゃないでしょうに』

「ちなみにその数分後の写真がこちら」

『凍えていますね、ひょっとして気温も下がるのですか』

「そりゃあ真夏日の気温のままじゃ雲の上から降っている間に雨になっちゃいますから。周辺の気温を氷点下まで下げていますよ」

『もはや妨害でしかないですね』

「寒さで身を寄せ合えばワンチャンあるかなと」

『告白前の初々しい関係では難しいでしょうね』

「大体3%くらいでしたね」

『いるにはいたんですね』

「ちなみにその時のスライドがこちら」

『周囲が猛吹雪、抱き合わないと凍死しますね。いや抱き合っても凍死しそうですが』

「ちなみに季節は7月」

『半袖ですしね』

「本当はマンネリ化しないように雪以外でも降り積もってやろうとしたのですが、俺として降り注げたのが雪だけでして」

『流星群を降らせた前歴のある貴方なら雪以外を降らせても不思議ではありませんからね』

※第五話、第十話等

「ですが雪としてならある程度融通が利きまして。先ほどの様に量を増やせば吹雪くらいにはできますし、圧縮すれば氷の礫の様な雪にもなれました」

『それは雹ひょう、または霰あられと言います』

※雹は直径五ミリ以上、霰は五ミリ未満、ついでに雨と混じって降る雪を霙みぞれと言います。

「そして色も変えられますよ。こちら青色の雪です」

『おや、幻想的な光景ですね』

「ちなみに数分後のカップルの様子」

『全身真っ青ですね。青い雪が溶ければ青い水ですしね』

「次が赤い雪」

『ホラー感否めない光景ですね』

「その後のカップル」

『血まみれにしか見えない。色はダメじゃないですかね』

「ピンクは割と人気があったのですがね。お次は虹色」

『これは童話の世界などで時折見ますね、良い感じです』

「ただ地面がこのように」

『予想はしていましたが七色が混ぜ合わされば汚い色になりますよね』

「結局雪は白いからこそ雪ってことですね。この俺の様に真っ白な性格じゃないと」

『頭の中が真っ白という意味ならば貴方は雪のような人だと表現できますね』

「しかし色々と試していると問題も発生しました」

『告白しようとすると突如雪や霰や雹が降り出し、体に悪そうな色を含んだりしていれば問題視もされますね』

「人間達は賢く、突如降り出す雪の原因に告白を行うという行為がトリガーとなっていることに気づいたのです」

『目撃時の情報をまとめればわりと直ぐに判明するとは思いますがね』

「そんなわけで告白禁止令が世界中に発令されます」

『思ったより大事に。そこまでやる必要があるのでしょうか』

「夏に気温が急激に下がると農作物が全滅しかねませんからね」

『そう考えると割と深刻な問題でしたね。でもそうなると貴方の異世界転生はもう終わってしまうのではないでしょうか』

「消えそうになっていましたが、告白が禁止になったとはいえ人間達の愛し合う気持ちを押さえつけることなんて出来ませんからね。隠れて告白することは多々発生していたのです」

『禁酒令が発令されても酒を飲む人はいましたからね』

「ですが告白をすれば雪が降る、つまりは何処に隠れて告白をしても直ぐに国にバレてしまうのです」

『貴方はさながら密告者ですね』

「俺としても多少の罪悪感はありまして、透明な雪を降らせたりして誤魔化そうとしたのですが流石に気温が氷点下に下がるのはどうしようもなくて」

『気温が急激に下がったら近くに告白をしている男女がいるわけですからね』

「いえ、男同士や女同士でも出張しましたよ」

『男同士を後で詳しく聞きましょう』

「さて、国はやがて告白をすることに対して非常に重い罰則を設けるようになります。これにより思春期の若者達は非常に苦しい日々を送ることになります」

『たかが告白だとしても実害が発生すればそうならざるを得ませんね』

「ですがここで立ち上がったのは一人の少女に恋する勇者」

『あ、これファンタジーでしたか』

※異世界転生ファンタジー作品です。たまにローファンにもなりますが。

「勇者は少女に想いを伝えたい、だがそれは世界が認めない。そんなことは間違えていると奮起し、この雪の原因を調べ始めます」

『こういう時に調査する勇者達の能力はいつも高いですからね。直ぐに貴方のことに気づいたのでしょうか』

「はい、精霊と交渉することにより俺の意志と交信を行えるようになるまで一か月も掛かりませんでしたね」

『有能ですね、それで正体がバレた貴方はどうなったのでしょうか』

「勇者は言います『何故雪を降らせるのか』と、だから俺は言います『告白が行われるから降り注いでしまうのだ』と」

『そういう設定ですしね』

「勇者は言います『なるほど、魔王が悪いのか』と」

『身に覚えのない冤罪が魔王に降り注ぎましたね』

「俺は答えます『多分そう』」

『自信をもって魔王に罪を擦り付けなかった辺りに多少ながら良心の呵責が見られますね』

「こうして勇者は魔王の呪いによって人間達が告白できず、想いを伝えることが出来なくなったと憤慨し魔王を倒す為に魔王城へと乗り込みます」

『普通に乗り込んでいますが、そもそも魔王は何か悪さをしていたのでしょうか』

「魔界の王様で人間と魔族の領土問題でちょくちょくといざこざはありましたが基本保守派でしたね」

『まさか予期せぬ理由で勇者に乗り込まれるとは思わなかったでしょうね』

「魔王は問います、『一体何の用だ』と」

『言うでしょうね』

「勇者は答えます、『雪を降らせたお前を倒しに来た』と」

『身に覚えがないでしょうね』

「魔王は言います、『娘の誕生日に雪を降らせたことになんの罪がある』と」

『身に覚えのある良い魔王だった』

「勇者は言います、『世界の気温が下がり作物に被害が出ているのだ』と」

『おっとこの流れはいけない気がしますね』

「魔王は言います『たった数時間降らせただけでそこまでの被害が人間界に出たというのか』と」

『やはり勘違いコースですね』

「さらに勇者は言います『さらにその雪のせいで多くの若者達が告白することを禁止され、感情を押し殺すことを強制されてしまった。彼らは多くの青春を失ってしまった』と」

『畳みかけますね』

「魔王は言います、『作物に被害が出ることで若者が告白できなく……そんな、子供を増やせなくなる程の食糧難へと発展してしまったというのか』と」

『こじれが酷く、勇者も訂正しましょうよ』

「勇者は最後にビシっと言います、『それもこれも魔王が告白する時に雪を降らせたからだ』と」

『お、これは頭を傾げる出来事ですし誤解が解けそうですね』

「魔王は言います、『まさか妻に告白する時に降らせた雪が……確かに、その発想が無ければ娘の誕生日に雪を降らせようとは思わなかったかもしれない……それが全ての元凶……』と」

『ただのロマンチックな演出が好きな魔王がどんどん自責の念に苛まれていますね』

「そういったわけで勇者は魔王を倒そうと襲い掛かります。魔王も家庭があるので戦わざるを得ない状況ですがやはり士気は低かったですね」

『これ貴方が誤解を解かないと収まらないパターンですよね』

「ええ、流石の俺もこのまま魔王が倒されると未亡人の魔王の奥さんや娘さんの面倒を見なければならなくなるので動くことにしました」

『雪如きに面倒を見られるとは思いませんが、動くことには賛成ですね』

「そして俺は魔王にトドメを刺そうとしていた勇者の剣に降り注ぎ、その剣を止めます」

『降り注いた雪程度に振り下ろそうとしていた剣を止められるのでしょうか』

「直径十メートルの氷の礫になって降り注ぎましたから」

『それは雪ではなく、氷塊と言います。しかし良くタイミング良く降れましたね』

「そりゃあ自分の設定のせいだと告白するつもりでしたから」

『そういえば罪を打ち明ける事という意味での告白もありましたね』

「俺は言いました『多分そうだと言ったが間違いないとは言っていない、多分違う』と」

『はっきりしない雪ですね』

「勇者は言います、『だが魔王は認めたと』」

『勘違いですけどね』

「俺は言います、『別のカップル誕生の際には魔王は雪を降らせていないぞ』と」

『ちゃんと解説しましたね』

「魔王は言います、『部下が告白する際にも……』と」

『さては演出のバリエーション薄いですねこの魔王』

「しかし詳しい事情を確認し合うと確かに魔王のせいではないということが判明。魔王は救われたのです」

『そもそも貴方が全部認めれば良いだけでは』

「いやあ、それを安易に認めてしまうと転生させた女神様にも責任が及びそうな感じでしたので」

『今更過ぎますね。散々神々からクレーム来ていますよ』

「その節はどうも、何かされたりしていませんかね」

『私が送り込める先の世界の神なんて大抵私より格下です。それなりの誠意をもって見下せば十分です』

「それは誠意では無いのでは」

『そもそも貴方みたいなふざけた転生先の異世界転生者を許可して受け入れている時点で文句を言う資格はありません』

「あ、俺の異世界転生って許可制だったんですか」

『毎回一言断りを入れていますよ』

「確かにそれなら受け入れている方にも責任はありますね」

『毎回何言っているんだこいつって顔で見られるのは腹立ちますがね』

「事情を知らなければ言われそうですね。とと、話を切り替えましょう。結局勇者と魔王は共に原因を調査。すると何者かがこの世界に『告白するときに丁度タイミング良く降り始める雪』なる存在を送り込んだ者がいる事を判明させました」

『驚くことに話が切り替わっていませんね』

「俺をその世界に存在させたのはその世界の創造主だったのです。そんなわけで勇者と魔王は結託し、ふざけた存在を生み出した創造主を倒しました」

『おっとこれは私にもしわ寄せが来ますね』

「創造主さんも強かったのですが何せ戦闘に関しては俺の存在がありましたからね。滞りなく撃破しました」

『下位クラスの神様もどうにか出来るようになってきましたか。そもそも何度か倒していましたね』

「これにより創造主は俺と言う存在を世界から消去することを約束させられます」

『貴方からすれば非常にアグレッシブな自殺ですね』

「ドラマチックに演出したかっただけですけどね」

『雪は冬に降るから美しいのですよ』

「それは同感です、なので最後の力を振り絞って想いの強い二人組が結ばれる冬の日には雪が降りやすくなる呪いを世界に掛けておきましたよ」

『それくらいならまあ……クレームは来ないでしょうね』

「ちなみにお土産には雪を降らせる、と言うネタは以前やったんですよね」

『当たり前のようにこの空間を雪景色にしていましたからね』

※第二十七話参照

「初々しい告白シーンを集めたスライドもあるにはあるのですが、何か違うなと思いつつ。デフォルメな女神様の氷像を一つこしらえてみました」

『悪くはありませんが、溶けませんかねこれ』

「大丈夫です、超凝縮してあるので溶岩に入れても溶けませんよ」

『それ最早氷では無いのでは』



『結局クレームは来ましたね』

「ありゃ、呪いを残したことですかね」

『いえ、勇者と魔王にインフレ過ぎる力を与えたせいで創造主が迂闊に世界に顔を出せなくなったとのことで』

「煉獄剛炎雷鳴冥界蹴の伝授はやり過ぎでしたか」

※第二話参照、相手を原子分解するなんか凄い技

『他の世界の力は多大な影響を起こすので控えめに』

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