第二十四話:『ダンジョンの壁に設置されてる松明』

「おっはよーめっがみさまー」

『気安い』

「危ない、ギリギリ即死だった」

『即死じゃないと痛みが残りますからね』

「異世界転生を繰り返してそれなりに強くなっている気がするんですがね」

『女神と人間ではまだまだ差がありますからね。精神的な変化がないことに関しては女神である私でもドン引きする程に脅威的ですが』

「初心を忘れないことがコツですかね」

『メンタルだけならその辺の神様超えていそうですね』

「そんなことよりも異世界転生までカウントダウンが近い気がするので遊びましょう」

『確かにそろそろ頃合いですね。先に目安箱から引いても良いのですよ』

「いえ、こういう時に焦ったら良い物は引けないんですよ」

『良い物があるとは思わないのですがね。多少の遊びには付き合いますが、何が希望なのでしょうか』

「ツイスターゲームを」

『異世界転生の時間です』

「迷いの無さが素敵。残念ですが目安箱をば、がーさーごーそー。甘木智彬さんより『ダンジョンの壁に設置されてる松明』」

『パンチとしては少々弱いですね』

「でも渋くありませんかね」

『渋い、そうですね。そう言う見方が出来る人間がいることを否定することはできませんね』

「思った以上に賛同を得られていないようだ。ダンジョンにある松明って雰囲気あるじゃないですか」

『そもそも私は松明を使ったことが無いのですよ』

「ではお土産に松明でも持ってきましょうかね」

『貴方の転生先はいらないです』

「お土産のハードルが上がりそうだなぁ。さて、オプションを決めるのですが……何色の炎にしようかな」

『含まれている物質に応じて色は変わりますからね、自由に選べば良いですよ』

「黒い炎って格好良いですよね」

『魔法でなら再現可能でしょうが科学的に言えば背景に同種のランプが必要になりますよ』

※ナトリウムの炎色反応をナトリウムランプ越しに見ると色が吸われ黒い炎に見えます。

「勿論ファンタジー路線で行きますよ。なんて言ったって異世界転生ですからね」

『私の記憶している貴方の行動と発言に著しい不一致が発生していますね』

※驚くことに異世界転生ファンタジーです。

「オプションはこんな所で良いですね。それでは行ってきます」

『行ってらっしゃいませ』



『ふむ、一人でツイスターゲームをやる分には中々運動になりますね。次は右手――』

「ただいま戻りました」

『のアッパー』

「帰ってくるなり秒速で顎を打ち抜かれた」

『たまには先手を取るのも良いかと』

「膝に来ました。毎回先手で攻撃を受けている気がするのですが」

『気のせいです』

「あ、そうそう、驚いたことにダメでした」

『そろそろ貴方のその発想に驚いても良い気がしますね。ダンジョンの壁に設置されてる松明でしたか』

「はい、勇者の最強武器である勇者の剣が封印されている超高難易度ダンジョンの壁に設置されている松明でした」

『舞台としては中々に一流ですね』

「ちなみにこれが俺の写真です」

『松明ですね。炎の色も普通の色ですが』

「写真写り良くないですか、これ」

『松明の写真でしかないですね』

「これが二枚目、三枚目」

『どれも同じ松明でしかないですね。おや、気のせいが周囲の光景が違うような』

「同じ場所で撮影していませんからね」

『また移動してましたか』

「壁に設置されていれば自由にスライド移動できるオプションを用意してみました」

『物がそのように動けばホラーだと何故理解しないのか』

「でも今回は足は生えないんですよ。ならばホラーではないと思うのですが」

『それはシュールと言います』

「やっぱりダンジョンの中って探索してみたいじゃないですか」

『その気持ちくらいは汲み取ってやりたいのですがね』

「マップを全部把握したいじゃないですか」

『いますよね、そういう隅々まで調べないと気が済まない冒険者』

※作者はマップを隅々まで回る派です。

「ですが流石は超高難易度ダンジョン、マッピングを済ませるのに1年は掛かりましたよ」

『些細なことかもしれませんが松明である貴方は燃え尽きたりしなかったのでしょうか』

「見た目普通の松明ですけど、実際は洞窟内に溢れている魔力を吸い取って燃える半永久式の松明だったんですよ」

『なるほど、それならそれなりに長い滞在が出来そうですね』

「1年徘徊してすっかりとマップを把握した俺はダンジョン一マップに詳しい松明になりましたよ」

『松明って時点でその名誉に価値があるかは悩みどころですね』

「ちなみにこちらが勇者の剣さんとのツーショット」

『勇者の剣さんって、まるで生きているかのように』

「異世界転生者でしたよ」

『異世界転生者でしたか』

「勇者の剣さんはその力が強すぎた為に超高難易度ダンジョンからのスタートでしたが、肝心の勇者が現れるまで非常に暇だったそうです」

『会話した感じでしょうか。まあ勇者の剣ならば喋っても不思議ではありませんが』

「移動する手段を持たないなんて無生物転生のノウハウを分かっていない初心者ですよね」

『貴方以上にしっかり無生物への異世界転生をこなしていると思いますけどね』

「勇者の剣さんは俺に言います、『勇者が来たら案内してやってくれないだろうか、この場所暇なんだよ』と」

『マップを知り尽くした貴方なら簡単そうですね』

「勿論俺は快諾し、勇者が来るまでは勇者の剣さんとダベっていました」

『松明と剣が会話していたら近くにいる魔物とかは中々怖い思いをしそうですね』

「一応勇者の剣を護る番人もいましたね。前勇者が残した召喚獣で白い騎士の精霊ですね。こちら写真」

『騎士の亡霊と言ったところでしょうか、中々強そうですね』

「弱かったですよ」

『倒しちゃいましたか』

「流石にトドメを刺すのは勇者への試練にならないから勘弁してくれと言われましたね」

『勇者の剣も自分を護る最後の試練がダンジョン内の松明に敗北することは良しと出来なかったようですね』

「まあ一度倒したらすっかり大人しくなりましたよ。ただ言葉も喋らないし、意思疎通も出来ないので話し相手としては退屈でしたけどね」

『松明以上に言葉を発しやすい形をしているのですがね。しかしマッピングしかしていない貴方が良くそんな最終試練の相手を倒せましたね』

「そりゃあ一年間ダンジョン内の魔物を倒し尽くしてレベル上げましたからね」

『魔物を掃除したら試練の内容ガタ落ちじゃないですか』

「魔物は暫くすると新たに生まれるんですよ。魔力の濃い地域では魔物が発生する仕組みの世界です」

『それならば良いのですが』

「そしていよいよ勇者のパーティーがダンジョンに挑んでくる日が来ました」

『来ましたか』

「ちなみにこのダンジョンは幾つもの階層がありまして、全部で百階層もあるんですよ」

『超高難易度ダンジョンだけに中々えげつない。それを一年で制覇した貴方も大概ですが』

「最初の挑戦、勇者は第一階層で倒れました」

『レベルが足りていない疑惑』

「世界一危険なダンジョンですからね」

『松明がソロでクリアしているのですがね』

「ですが流石は勇者、諦めずに即座に再チャレンジします」

『諦めの悪い勇者ですか、王道で悪くありませんね』

「まあ次は第二階層で倒れましたが」

『挑む時期が早すぎた疑惑』

「勇者のレベルが10、魔物のレベルが90前後ですからね」

『疑惑が確定に。ちなみに貴方は』

「99です」

『予想はしていました。寧ろカンストを超えていないことに驚きです』

「一応限界突破のオプションはあるのですが、残念ながら格下相手だと経験値効率が悪いんですよね」

『その中で99まで上げられたと言うことは相当倒しましたね』

「最終試練の精霊が中々良い稼ぎでした」

『最終試練をレベリングに再利用していましたか』

「何度でも勇者は挑むのですが倒れては引き返すの繰り返しです。案内を頼まれたとはいえここまで弱いとどうしようもありませんから勇者の剣さんに相談しに行きました」

『ちなみに貴方は勇者の活躍を見ていたのですよね』

「ええ」

『つまり第一階層から最終階層まで当たり前のように移動したと』

「庭のような物ですからね」

『それを知った勇者の絶望した顔は見たくありませんね』

「勇者の剣さんは悩みます。勇者に早く手に入れてほしい、だけど勇者が未熟すぎるのも悩ましいと」

『最終試練の精霊まで用意されていますからね』

「なので勇者の剣さんは俺に勇者を鍛えてもらえないかとお願いしてきます」

『松明に頼みますか』

「快諾した俺は早速第一階層で瀕死になっていた勇者の元へ行きます」

『勇者苦戦していますね』

「事情を説明し、勇者が自力で最終階層まで行けるように俺が特訓してやると勇者に言うと攻撃されました」

『移動して喋る松明なんて魔物にしか見えませんからね』

「一先ず穏便に処理をして、再びやってきた勇者と会話を試みます」

『一度倒して撤退させていませんかね』

「ちなみに勇者のパーティは勇者、戦士、武道家、騎士」

『脳筋パーティですね』

「なので立場が被っている騎士には僧侶に転職してもらいました」

『立派な騎士を目指していたかもしれないのに』

「職業相談所で顔が騎士っぽいから騎士にされたらしいです」

『僧侶で良いですね』

「体力回復手段を得た勇者一行は順調にダンジョン攻略を進めようとしますが、何分レベルが足りません。なのでレベリングを行わせました」

『システマチックですが、修行は必要なことですからね』

「その際に魔法攻撃が欲しくなったので戦士には魔法使いに転職してもらいました」

『熾烈な戦いを求めた戦士かもしれないのに』

「魔法学校と戦士学校を間違えて入学してたらしいです」

『魔法使いが天職ですね。勇者は何故そんな連中をパーティに加えたのでしょうか』

「幼馴染だとか」

『ハーレム設定ですか』

「全員男ですよ」

『ふむ、悪くない。続けなさい』

「何やらスイッチが入った様子。レベルが順調に上がって勇者達は徐々に深い階層まで潜れるようになります」

『最強の松明が特訓を見てくれているだけにとんとん拍子ですね』

「ええ、そして無事勇者達は最終階層まで辿り着けました」

『無事に何事もなく、盛り上がりも微妙なままに辿り着きましたね』

「喜び合う勇者、僧侶、魔法使い」

『武道家いなくなっていませんか』

「はぐれてしまいまして、不甲斐ない」

『引率がしっかりしてくれないと』

「まあさして問題もないのでそのまま進みました」

『幼馴染でこんな超高難易度ダンジョンにまで勇者と共に来た仲間ですよね武道家』

「そしていよいよ最終試練の精霊との戦いです。予想以上に強い精霊でしたが成長した勇者達は完璧な連携を発揮して互角に戦います」

『武道家がいない筈なのに完璧な連携って、なんだか切なくなりますね』

「そして見事精霊を倒した勇者は勇者の剣を手にすることが出来たのです」

『大分楽をしたように思えますが、まあ貴方の特訓なら案外きついかもしれませんね』

「こちらが初期の勇者達の写真」

『ふむ、初々しさを感じますね。眼差しも緊張しながらもやる気に満ちています』

「こちらが勇者の剣を手にした勇者達の写真」

『顔からして全員別人に。眼差しだけで魔物殺せそうに』

「鍛えました」

『全員が2mを超え、筋骨隆々になった理由が知りたいですね』 

「鍛えました」

『人としての枠を超えさせてしまった感が否めない。貴方も大概脳筋だと理解しました』

「勇者の剣さんは満足して言います。『ひ弱な勇者を良くもここまで、いやこれ勇者なん?』と」

『勇者の剣も疑問に思うレベル』

「まあ勇者の剣さんを抜けたので良しとしましょう」

『勇者にしか抜けない剣でしたか』

「はい、勇者以外の人間には絶対に抜けないようになっていますし、触れることも出来ません」

『そこまでされたのであれば勇者の剣も納得せざるを得ないでしょうね』

「そして勇者達は来た道を帰りますが、そこで何と驚くべき敵と遭遇したのです」

『最強武器を手に入れて直ぐ因縁の対決とか良くありますよね』

「それは武道家でした」

『その人パーティメンバーでは』

「ちなみにその時の写真」

『やっぱり筋骨隆々に、私的には細マッチョが好きなのですがね』

「俺結構細マッチョですけど、脱いで見せましょうか」

『死ぬか話を続けるか選びなさい』

「武道家は言いました、『良くも俺を囮にしてくれたな』と」

『囮にしたんですか』

「転職を渋ったので、他に使い道もなく」

『時折貴方の発想がクズになりますよね、誰の影響でしょうか』

「中々心当たりが多くて難しいですね」

『紛れもなく貴方自身のせいですよ。それで武道家は敵となったのですか』

「はい、武道家は囮にされた後も1年間このダンジョンで生き続けていたのです」

『中々にサバイバーですね。勇者が最初に来てから何年経過したのでしょうか』

「10年です」

『なるほど、10年もあればそこまで変わることも――いや、ありませんね』

「仲間を見捨てるような奴は勇者ではないと理不尽な事を叫び、武道家は勇者達に襲い掛かります」

『正論過ぎて言い返せないでしょうに』

「勇者達は応戦しますが、ソロでこのダンジョンで生き延びた武道家の強さは勇者達パーティよりも強かったのです」

『逞しい武道家ですね。そもそも何でダンジョンを脱出しなかったのでしょうか』

「全階層が大迷宮になっていますからね。進む先を天啓として受けられる勇者以外は迷ったら死ぬまで出られないのです」

『良くそんな大迷宮百階層を一年で把握しましたね』

「記憶力には自信があるので」

『そうでした』

「魔物に倒されても復活できるのですが人間に殺されては復活はできない設定の勇者は窮地に追い込まれます」

『とってつけたような後付け設定ですね』

「頼みの勇者の剣さんも叩き落され、まさに絶体絶命」

『復讐の力とは恐ろしいものですね、それでどうなったのでしょうか』

「目の前で死なれても寝覚めが悪いので俺が勇者の剣さんを手に取り武道家の攻撃を阻みます」

『手は生えましたか。勇者の剣は勇者以外に触れることができないのでは』

「勇者以外の人間にはです」

『松明でしたね貴方』

「武道家は俺に対し、謎の怒りをぶつけながら猛攻撃を仕掛けてきます」

『囮にしようと判断したのは貴方ですからね、謎でも何でもないですからね』

「ですが勇者の剣さんを手に取った俺に敵はいません。レベルが近しい位置まで来た武道家と言えど、根本的に違いがありますからね」

『生物と非生物ですからね、まごうことなき根本的な違いです』

「そして俺の右アッパーが武道家の顎を打ち抜きます」

『勇者の剣を使わないのですか』

「レベル99まで素手で戦ってきたのに剣を握ってもなと」

『勇者の剣を手に取った俺に敵はいませんと言った意味とは』

「ああ、勇者の剣さんを握っているとレベルが倍になるんですよ」

『異世界転生者ならではのチートオプションがありましたか。レベル198なら確かに無双でしょうね』

「倒れた武道家はその後勇者の説得もあってか再び勇者のパーティーに復帰します」

『幼馴染を手に掛ける心配は無くなったようで何より』

「そして勇者達はダンジョン入り口まで戻ってきました。彼等は勇者の剣さんを手に入れると言う所業を成し遂げたと涙を流し抱き合いながら喜びます」

『10年間も最強武器を求めた波乱万丈な冒険でしたからね』 

「最後に勇者は俺に向かって言います、『貴方も一緒に魔王を倒しましょう』と」

『レベル99の松明ですからね、勧誘しない手はないですよね』

「いえ、その時は100でしたよ」

『武道家を倒して上がりましたか』

「俺は言います。馬鹿を言うんじゃない、松明が戦うなんて世迷言があるかと」

『今までの流れを自分で全否定してきましたね、この松明』

「俺はダンジョン壁に設置されている松明、勇者の所有物になったらそれはもはや勇者の松明です」

『だからどうしたと言いたいところですが、貴方の場合それが原因で異世界転生が終わる可能性があるんですよね』

「勇者達は俺のことを先生と呼び、魔王を倒したあかつきには報告に戻ると旅を再開しました」

『あどけなさの残っていた勇者達を魔改造し、仲間を囮にさせたりした松明を先生とは呼びたくないですね』

「その後勇者達は圧倒的力で冒険を繰り広げ、あっと言う間に魔王を討伐しました」

『異世界転生者二人の力を借りればそうなるでしょうね』

「そして俺の最後の時がやってきます」

『中々死にそうにないのですが、どのような最期だったのでしょうか』

「ある日ふと思ったのです、『腕が生えて移動している時点で設置されている松明ではないのでは』と。そしたら自己崩壊が始まりました」

『自己否定してしまいましたか、それも自己崩壊するレベルで』

「いやぁ、一度思い込むとひたむきな性格でして」

『それは嫌と言うほど知っています』

「結局勇者達の報告も聞けなかったし、勇者の剣さんにも別れを告げられませんでしたね。中々会話の弾んだ相手だったのですが、それが少し名残惜しかったです」

『まあその世界のその後を見ることくらいはできますから、それで我慢してください』

「そうさせてもらいます。そうそうお土産ですが同じダンジョンに置いてあって忘れ去られていた勇者の鎧です」

『鎧もあったんですか。魔王も倒したことですし、サイズも合わないでしょうからこのままインテリアとして飾りましょうか』

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