第二十二話:『ホラーゲームなどにおいて主人公が隠れるときに使用するロッカー』
「今日はホラーな感じでお送りさせていただきます」
『貴方の存在以上にホラーなのはないのですがね』
「出だしから酷い、怖い話は得意なんですよ」
『ほお、それでは怖くなかったらその分貴方の知能指数を物理的に下げてあげましょう』
「何それ怖い。では、こちらにありますはいつ借りたか覚えていないレンタルDVD」
『中々怖いですね、早く返してきなさい』
「これってヤドカリに異世界転生した前後に借りたDVDなんですよね」
『それもうショップが潰れていませんかね』
※少なくとも数百年経過しております。
「やはり異世界転生前には身支度を済ませておかないと怖いですからね、食材とか」
『この世界には私が残りますが一般的には現世にあるものは置いていくことになりますからね』
「そう言えば俺の本来の死体はどうなったんでしょうかね。突然死ですし気づかれないままだと腐乱死体になっていそうな」
『後日空き巣が入って死体を発見、叫び声を上げたことで近隣からの通報が入り間もなく発覚したようですね』
「それなら綺麗なままですね」
『死因が完全に不明だと色々警察が調べるはずですけどね』
「女性だといいなぁ」
『死体を見るような目でしか見ませんけどね』
「それも悪くないですよ、普段の女神様も似たような感じじゃないですか」
『それもそうですね。それを良しとする理由は分かりませんが』
「では続いての怖い物ネタを――」
『残念ですが異世界転生の時間です』
「少しくらいは良いのでは」
『どうせまともなホラーはでないと推測しました』
「確かにそうですけどね、では目安箱からがさらっと。死人に口無しさんより『ホラーゲームなどにおいて主人公が隠れるときに使用するロッカー』」
『ちょうどホラー縛りですね』
「今度はホラーゲームの世界と言うことですかね」
『ゲームの中への転生は微妙そうなのでホラーゲームの設定のような世界にしておきましょうか』
「なるほど、絵に描いたようなホラーと言うわけですね」
『しかしこういう作品でロッカーを使う場面は珍しくないですが一度使えばそれで終わりな感じもありますよね』
「居住性を良くして再利用してもらうとかどうでしょう」
『殺人鬼や化物に追われている最中に入ったロッカーが居住性に優れていても住みたいとは思いませんよ』
「ではそう思うようなオプションを」
『止めてあげなさい』
「うーん、正直ロッカーだと強度を上げてもそんなに恩恵ないんですよね」
『魔王城の扉の際には無双していましたけどね』
「主人公を倒すのはあまりよろしくないですよね」
『勇者を何度も倒した人の言葉とは思えませんね』
「たまには人助けに特化するのも良さそうですね。ではオプション設定はこんなものっと」
『それでは行ってらっしゃいませ』
「行ってきます。そうそう、さっき言いそびれた奴ですけど黒いのが出たんですが始末できませんでした。ではでは」
『ちょっと待ちなさい。はっ、もういない』
◇
『何処ですか……何処にいるんですか……』
「ただいま戻りました」
『何をしているんですか黒いのを探しなさい』
「ひょっとしてずっと探していたんですか。一年も生きないでしょうに」
※外来種は数年生きます。
『見つからないのですよ、死骸すら』
「そもそもこの世界にどうやって黒いのが入ってきたのやら」
『知りませんよ、貴方が連れて来たのではないですか』
「こちらと世界の行き来の際に紛れ込みましたかね。そもそもこの世界なら女神様の力でちょちょいのチョイでしょうに」
『そう言えばそうでした。――おかしい、空間全体に探知魔法を仕掛けたのに反応がありません』
「そうなると俺が異世界転生した時に一緒に脱出したんでしょうね」
『いましたか黒いの』
「いましたよ、古い廃病院のロッカーだったので」
『良い感じのホラーですね』
「ちなみに病院内には多くの悪霊が徘徊しており、迷い込んだ人間を襲っていました」
『過去に何かあったのでしょうか』
「非人道的な医学研究が秘密裏に行われていて多くの人が犠牲になっていた病院だったのですが、一人のオカルト狂な患者が暴走したせいで一気に死屍累々って感じですね」
『なるほど、舞台設定としては悪くありませんね。ですが一般人がその廃病院に訪れる理由はあるのでしょうか』
「肝試しとかもありましたけどね、実は先ほど述べた患者がひっそりと生きていましてね。その人物が生贄として人を集めていたのです」
『その人物が黒幕と言うわけですか』
「名前を知る機会が無かったので黒幕と呼んでおきましょうか。その黒幕は行方不明者が発生した家庭にその行方不明者が廃病院に訪れたかのように偽装した情報を送り付けたのです」
『そのようなことが出来るのですか』
「行方不明者やそれに似た人物の写真を上手いことぼかして廃病院の入り口と合成したんですよ、画像処理ソフトで」
『パソコンに長けている黒幕ですか。そう言った作業工程を考えるとシュールですね』
「とは言えそういう事情を知ってしまった以上には助けてやらねばとロッカーの俺は奮闘することになります」
『ロッカーでしたね』
「まずは静かだと怖いだろうからとロックを流します」
『早速ロッカー違いですね』
「これには怨霊もノリノリでヘッドバッキングし始めます」
『逆に怖いですよね、それ』
「迷い込んだロッカーもノリノリでしたよ」
『多分職業ロッカーの方なのでしょうけど紛らわしいですね』
「肝試しで訪れた人は大抵このロックを聞いてそそくさと帰っていきましたね」
『人がいるであろう病院に忍び込むのは肝試しではなくて不法侵入ですからね』
「ただやはり行方不明になった身内や恋人を探しに来た者は音楽程度じゃ怯みませんからね」
『何かしらの手掛かりが掴める迄はおいそれと帰れませんからね』
「今回の報告で特に焦点に当てたいのが行方不明になった妹を探しに来たヒミナと言う女子大学生の話です」
『貴方の説明からすると黒幕の罠なのですよね』
「それが実はヒミナの妹さんは肝試しで廃病院に訪れていて、怨霊に囚われてしまっていたのです」
『おや、本当に助けに来たのですね』
「本当なら妹さんが肝試しに来た時に追い出したかったのですが、ちょうど休暇でハワイに行っていまして」
『ロッカーが休暇でハワイ。どこからツッコミを入れるべきか』
「運搬費で済んだので安上がりでしたね」
『ツッコミを放棄しましょう』
「それでヒミナは怨霊達に襲われることになります。怨霊から逃走し逃げ込んだのは女子更衣室」
『貴方女子更衣室のロッカーだったのですか』
「ワンチャン着替えとか覗けないかと思いまして」
『見下げた色欲ですね、学校が舞台なら可能性はあったでしょうけどね』
「ヒミナは俺の隣のロッカーに入ろうとしますがそこで隣のロッカーに入り込まれると俺の存在理由がなくなってしまいます」
『散々肝試しに来た人たちを追い払っていたくせに』
「なのでそっと隣のロッカーの鍵を遠隔操作で閉めます」
『怨霊に追われて大変な人相手に酷いロッカーですね』
「これでヒミナは俺の方に入る、そう思ったのですが逆側のロッカーに手を伸ばしていったので次々と鍵を閉めていきます」
『怨霊並みに追い込んでいますね』
「埒が明かないと思ったので俺だけバン、と開きました」
『ホラー感増しましたね』
「訝しげに思ったヒミナですが怨霊が間もなく部屋に入ってくる。考える間もなくヒミナは俺の中に飛び込み扉を閉めます」
『私なら罠かとさえ思うでしょうからね』
「良い匂いでした」
『その情報は要りません』
「悪霊が女子更衣室に入り込んで周囲を探し回ります。そしてなんとロッカーにも手をかけ始めたのです」
『お約束なら隣のロッカーを開くところで終わったりしますよね』
「しかし全てのロッカーには鍵が掛かっています」
『貴方が閉めましたからね』
「怨霊は『あれ、ここのロッカーって鍵しまってたっけ』と言った顔で部屋を立ち去ります」
『意外と知的な判断のできる怨霊なのですね』
「俺も開けようとしましたが当然鍵は閉めていました」
『その辺はぬかりないようで安心しました』
「ヒミナは怨霊が去ったのを確認しロッカーを開けます」
『一先ず助けられたようですね』
「しかしロッカーには鍵が掛けられており開くことが出来ません」
『鍵を閉めてましたからね』
「焦ったヒミナでしたが俺が鍵を開けて扉を開いてやると非常に不思議そうな顔をして俺を調べます」
『勝手に開いたり鍵が開閉していたら不思議に思うでしょうね』
「くすぐったかったですね」
『触覚がありましたか』
「今回は普通な感じで」
『全身性感帯ではないと。ロッカーに触覚がある時点でおかしいのですがね』
「特に役立つアイテムも持っていなかったのでマカダミアナッツをあげることにしました」
『ハワイ土産ですね』
「ヒミナはマカダミアナッツの賞味期限を確認した後、マカダミアナッツを食べてから部屋を去っていきます」
『主人公もしっかりしていますね』
「これで俺の出番も終わり、と言うのは少々寂しかったのでこっそりとヒミナの後を追うことにしました」
『ロッカーがですか、歩けたんですね』
「世界樹の時の応用ですよ」
『足を生やしたのですね』
※第八話参照
「ヒミナは勇気のある女性で慎重に、時には大胆に行動して怨霊からの襲撃を回避していきます」
『怨霊の蔓延る廃病院を捜索するのは勇気がいるでしょうからね』
「とは言え常人のヒミナに怨霊全ての対処は難しく、逃走を余儀なくされる時も少なくありませんでした」
『ホラーゲームのような世界観でのピンチは一度や二度ではすみませんからね』
「そして逃走中に毎回都合よく俺がいるわけです」
『女子更衣室のロッカーが、本当に都合良いですね』
「ヒミナも最初は不審に思ったりもしましたが一度入ると怨霊が去るまで開かなくなるロッカーの存在を重宝するようになります」
『気づけば存在している安置ですからね』
「そして利用する度に毎回マカダミアナッツが貰えますからね」
『貴方は食べないんですね』
「ロッカーが物を食べられるわけないじゃないですか」
『何でマカダミアナッツをお土産に持ち帰ったんですか』
「日本人はハワイに行ったらマカダミアナッツを買わないといけないんですよ」
『そんな常識はありません』
※ありません
「すっかりヒミナに気に入られた俺はロッカーちゃんと名付けられました」
『女子更衣室のロッカーですからね、女性扱いでしょうね』
「そう思うと女性化も悪くないですね」
『ロッカー化ですけどね』
「気を良くした俺は先回りしてヒミナが妹さんを探しやすいように先に進む為のヒントやらを目につきやすい場所に設置していきます」
『ホラーゲームあるあるですね』
「明らかにヒミナの手に負えない怨霊は邪魔なので排除しました」
『ロッカーに排除される怨霊も哀れですね』
「そしてヒミナはついに死体安置所に巣食う怨霊の元に辿り着き、囚われている妹さんを発見したのです」
『死体安置と言う響きが気になりますが、無事だったのでしょうか』
「ええ、囚われていた間は徐々に生気を吸われていましたが大事には至っていませんでした。拘束を解くと間もなく目を覚まして二人は感動の再会を果たします」
『それは何より』
「その後ろでこっそり頷く俺」
『ロッカーが頷かないでください』
「しかし捕獲していた獲物を奪われた怨霊は激怒し、二人を追いかけます」
『無差別だったのが目的をもって襲うのであればそれは恐ろしい剣幕だったのでしょうね』
「ですが逃走先には俺」
『安心と信頼のロッカーちゃん』
「ロッカーに飛び込もうとするヒミナでしたが妹さんは言います、『こんなところに不自然に配置してあるロッカーに入るなんて正気なの』と」
『真っ当なツッコミが出来る人がいましたか』
「ヒミナは言います、『大丈夫、マカダミアナッツをくれるロッカーだから』と」
『何一つ理解が出来なかったでしょうね』
「妹さんは困惑しっぱなしでしたがヒミナは妹さんを強引に俺に押し込み自分も入ります」
『きつそうですね』
「ぎゅうぎゅうでしたね」
『更衣室のロッカーなんて一人入れれば上出来ですからね』
「いやあ役得でした」
『ロッカーが欲情しないように』
「二人がロッカーに飛び込むのを見ていた怨霊は俺を破壊して開けようとしますが怨霊ごときに傷を負わせられる俺ではありません」
『ロッカーですよね』
「怨霊の攻撃を素早く回避し、左右のフックを叩き込みます」
『手も生えているんですか』
「いえ、物を引っかけるフックです」
『リーチ短そうですね、そもそもそんな機動性を発揮されるとロッカーの中の二人はもみくちゃになりそうですね』
「理性を保つのが大変でしたよ」
『見下げたロッカーですね』
「無事怨霊を撃退した俺は折角なので二人を廃病院の外まで運んでいきます」
『親切なように感じますが少しでも二人を中に入れておきたかったんですね』
「流石女神様」
『流石でも何でもないですよこの色情ロッカー』
「入り口まで来てようやく外に出れた二人は俺にお礼を言います」
『良くお礼を言おうと思いましたね』
「どうも俺が廃病院にいる良い幽霊が乗り移っているロッカーだと思ったようです」
『ああ、たまにいますよね』
「俺は残ったマカダミアナッツを渡して姉妹を見送りました」
『マカダミアナッツの意味は終始理解できなかったでしょうね』
「ヒミナとの話はこれで終わりですがもう少し続きます」
『続くのですか』
「冷静に考えて怨霊や黒幕がいる病院がある以上被害者は増え惨劇は繰り返される一方です。なので全員倒してしまおうかなと思いまして」
『その惨劇の舞台のロッカーが思うべき発想ではないのですがね。そう言えば今回の主人公の話では黒幕は見かけませんでしたね』
「俺と入れ違いでグアムに行っていまして」
『ホラー世界の黒幕が何をやっているんですかね』
「黒幕が病院に戻ってくるとそこには廃病院だった建物の残骸が」
『破壊しつくしましたね』
「黒幕はお土産のチャモロチップクッキーをどさりと落として呆然としてしまいます」
『お土産の情報は要りませんよね』
「そして最後に俺が背後から黒幕を襲い、ロッカーの中に封印します」
『最後の最後にホラー系ロッカーになりましたね』
「こうして惨劇を生み出す元凶、舞台、被害となった怨霊達は全て無くなり平和な土地となりました」
『その後貴方はどのように最後を迎えたのでしょうか』
「ロッカーに鍵を閉めたまま地中深くに潜って黒幕を土葬してやりました」
『ロッカーが棺桶とは、因果応報とは言いますが哀れな最期ですね』
「やっぱり最後はハッピーエンドが良いですからね」
『貴方にホラーを維持しろと言うのが無理な話ですよね』
「ああそうそう、こちらお土産のチャモロチップクッキーです」
『黒幕が買ってきたのを奪ってきましたか。折角ですからトロピカル紅茶でも淹れていただきましょうか』
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