第十一話:『秘伝の巻物のヒモ』

『ううむ、どうにか発作が落ち着きました。しかし彼の行動は予想外でした』

「呼ばれた気がしたので登場」

『呼んではいないのですがね、発作の際にはお世話になりました。命拾いしましたね』

「お礼のあとの言葉が怖い」

『私がデレる千載一遇のチャンスでしたのに、よく自制しましたね』

「求められるより求めたい人間でして」

『叶わない恋がお望みのようで。理由はともかく当面はオプション設定を自由にしてあげます』

「本当ですか、全身性感帯でも良いんですか」

『無機物になる気満々ですね、不服ですが自由にさせましょう』

「ハーレム能力とかいっぱいつけるぞー、では目安箱をがさがさっと」

『効果音的に結構お題来ているようですね、いったい誰がどうやって送っているのやら』

「WamWamRemedyさんより『秘伝の巻物のヒモ』」

『無機物でしたね、おめでとうございます』

「しかしこれは難易度が高いですね」

『無機物における難易度の違いが分からない』

「例えば全身性感帯になったとします」

『例えでもなって欲しくないですね』

「もしもこの秘伝の巻物を手にしたのがおっさんだと、そうとう辛い光景になるのです」

『なるほど、ではイケメン勇者が手にするようにしましょうか』

「女神様って下ネタは許さないのにそっちのネタは許容しますよね」

『何のことでしょうか、下等生物の言っている言葉はわかりませんね』

「最近間食増えたせいか1キロ体重が増えましたよね」

『出かける前の食事はオリーブオイル1リットルにしましょう』

「へへ、そうこなくちゃ」

『一度でいいですから貴方の悲痛な絶叫を聞きたいものです』

「世界樹のときは念波でしたからね」

『ではオプションは自由にどうぞ、貴方の自由にするとロクでもないことになるのは目に見えていますが』



『ふう、無事減量に成功しましたね。では早速自分へのご褒美にケーキをば』

「ただいま戻りました、また間食してる」

『問題ありません、今から貴方の体重が減ると私の体重も減るようにします』

「なんて楽なダイエット、でも俺が痩せなきゃいつまでもぽっちゃりってことですよね」

『今は標準なのですが、ぽっちゃりと言うならば今から貴方の体を削ぎ落として5キロほど痩せましょうか』

「軽いホラー、ジョギングマシーンで走りながら報告するので許してください」

『良いでしょう、先ずは時速30キロから』

「100メートル世界新には届かない範囲なので良心的と思いましょう」

※ウサイン・ボルトは時速37~8kmだよ、瞬間速度だともっと速いよ!

『まず聞くべきは秘伝の巻物の内容でしょうか』

「巻物の中身は伝説の忍者、霧ケ峰空調きりがみねくうちょうの秘伝の忍術が記してあります」

『エアコンみたいな忍者ですね』

「どんな過酷な環境でもあっという間に快適な空間へと変貌させる忍術です。忍術の名は『空調の術』」

『エアコンですね』

「ただ消費するチャクラもかなり多く、継続して使用するのは効率が悪いです」

『エアコンですね、電気代掛かりますからね』

「しかし破壊力は抜群、降り注ぐ隕石すら防いだそうです」

『物理法則が乱れていますね』

「電気代が勿体無いとの事で霧ケ峰空調は巻物を封印しようとします」

『チャクラとすら言わなくなりましたね』

「そのときに手を取ったのがそう、この俺、ヒモです」

『ドヤ顔されても』

「霧ケ峰空調は俺を手に取った時、ハッとします」

『ヒモに異世界転生した貴方の存在に気づいたのですか、やりますね』

「俺は油まみれだったのです」

『そう言えば最後の晩餐はオリーブオイルでしたね』

「飲み切れない分は浴びて行きましたからね」

『掃除が大変でしたよ』

「霧ケ峰空調は油まみれの俺を掴み、どうしたものかと考えます」

『秘伝の巻物のヒモにしようとしたヒモがオリーブオイルまみれだったら考えずに代えると思いますが』

「しかし俺が異世界転生したのは『秘伝の巻物のヒモ』、そう奴は俺を使わざるを得ない」

『異世界転生を呪いのように使うのは感心しませんね』

「結局霧ケ峰空調は涙ながらに俺を巻物のヒモとして使用しました」

『伝説の忍者を泣かせるとは、いや泣くとは』

「潔癖症でしたからね彼は」

『それは最悪ですね、ところで全身性感帯にするオプションはつけなかったのですか』

「女神様の口から全身性感帯って言葉が出るなんて、なかなか刺激的」

『時速40キロ』

「おっと、これはきつい。流石に誰が触るかわからない状態じゃ止めますよ」

『きついで走れるあたり成長していますね』

「そして時は流れ100年後」

『今度は秘伝の巻物を巡った物語ですか、中身がエアコンの術と言うのが虚しそうですが』

「世界が天変地異により50度を超える熱帯、または氷点下を下回る冷帯へと変貌します」

『おっと需要が跳ね上がった』

「世界を救う為には世界の意思に空調の術を使用させなければならないと多くの忍者が秘伝の巻物の捜索を始めます」

『世界もまた忍者でしたか、哲学ですね』

「しかし秘伝の巻物が封印されているある秘境の山、ある忍者村にあるとある洞窟へ道は険しく、多くの忍者が志半ばで力尽きます」

『忍者村と言う名前がチープ感満載ですね、あとあるあるが多すぎます、正式な名称は無かったのでしょうか』

「ありますよ、ただ秘密にしておいた方が良いかなと」

『秘密にする意味が無いでしょう』

「きのこ山にあるたけのこの里と言う場所です」

『忍者村で良いですね』

「ちなみに洞窟はアルフ○ート洞窟」

『洞窟で良いですね、そして何故に洋風』

「伝説の侍アルフ○ートが掘ったとされる洞窟ですね」

『ツッコミを入れる場所はどこが良いのか悩みますね』

「そしてこの世界の勇者ポジの忍者がついに忍者村に現れます」

『そう言えば今回は和風テイストな忍者物語ですね』

「名をフェリック」

『三秒前の私の台詞を返してください』

「フェリックは伝説の将軍、徳川タ○ホームの血を引く忍者です」

『将軍は伝説にしちゃいけないと思いますが、そして何とか伏字が間に合いました』

「この伏字って女神様が入れていたんですね」

『どこで怖い神様が見張っているとも限りませんから』

「とりあえずフェリックは罠だらけの山道を突破し忍者村に到着します」

『とりあえずで到着できる程度には簡単なのでしょうか』

「突破率0.1パーセント未満ですね」

『ガチャより渋い』

「セコ○の罠がありますから」

『時代錯誤甚だしい、これだから和風は』

「フェリックは洞窟の場所を示す地図を探そうとして忍者村で手痛い歓迎を受けます」

『村の忍者に襲われたのでしょうか』

「扉のドアノブと言うドアノブが全て静電気を帯びていたのです」

『手が痛い』

「これぞ伝説の忍者の里に伝わる秘伝の対人結界忍術」

『片腹痛い』

「フェリックは心が折れかけます」

『メンタル弱くないですか』

「そりゃあ扉を開くたびに静電気でバチィなるんですよ」

『確かに、いや手袋くらいつければ良いでしょう』

「フェリックはまさか手袋が必要とは思わなかったのです」

『思わないでしょうね』

「ふとフェリックは名案を思いつきます、そうだ手袋を買えば良いんだと」

『敵地ですよねここ』

「しかし敵であるフェリックに対し敵の忍者は非道にも相場の1.1倍もの値段で手袋を販売してきます」

『良心的な範囲だと思いますよ』

「フェリックはようやく念願の手袋を入手します」

『念願なのは巻物なのですがね、ですがこれで探索が捗りますね』

「ですがその手袋はなんと電気を素通りする手袋だったのです」

『地味に非道でしたか、そんな事のために変な手袋を作ったのですか』

「いえ、手袋をしながらスマホを弄る為です」

『割と文明的でしたか』

「面倒になったフェリックは扉を蹴破りながら入ることにします」

『面倒になったと言う理由が悲しいですね』

「フェリックは忍者村の忍者達を敵に回してしまいました」

『でしょうね』

「やはり土足で入ったのがいけなかったのでしょうね」

『そう言うことにしておきましょう』

「追っ手に追われながらも洞窟への地図を発見したフェリックは里に火を放ちながら洞窟へ向かいます」

『ヘイト稼ぐのが上手いですねフェリック』

「洞窟に到着したフェリックですが手荒い歓迎を受けます」

『今度はなんですか』

「入り口横にあった仮設トイレに常備されていたハンドソープが食器用洗剤にすり替えられていたのです」

『手洗いで手荒い、やかましい』

「両手を負傷したフェリックは印を結べることが出来なくなります」

『手が繊細すぎませんかね』

「度重なる静電気、そして食器用洗剤と言う二重の罠による恐ろしい罠でしたからね」

『それでも繊細すぎませんかね』

「洞窟内に湧く魑魅魍魎を多彩な足技で倒して進みます」

『足技は良い』

「ついでに道中に倒れた忍者たちの亡骸から小銭をくすねます」

『手癖は悪い』

「いえ、足を器用に使って回収していましたよ」

『そう言う意味ではありません』

「フェリックはついに最奥に辿り着き、巻物を足にします」

『本当に手が使えないのですね』

「しかし、巻物はスッと足から抜けます。巻物は何故か油にまみれていたのです」

『百年前のオリーブオイルがまだ残っていましたか』

「何故かオリーブオイルが溢れる体質になっていまして」

『転生前のいらない因果ですね』

「ならばとフェリックは痛みを我慢して手で掴みます。しかし巻物はスッと手から抜けます」

『オリーブオイル厄介過ぎませんかね』

「いえ、今のは俺が変わり身の術で抜けました」

『ヒモが変わり身の術、一体何を変わりに』

「オリーブオイルを」

『まさかの有効活用、しかし何故貴方は逃げようと』

「フェリックが無駄にイケメンだったのでつい」

『まあ確かにイケメンである必要の無い話ですからね』

「俺は言います、良くぞ来たな忍者フィリップと」

『間違えましたね』

「俺が山や里や洞窟に仕掛けた罠を良くぞ突破したと」

『しょうもない罠と思ったら貴方の仕業でしたか』

「我が名は秘伝の巻物のヒモ、貴様にこの巻物は渡さんと」

『困惑しませんでしたか』

「聞き返されました」

『でしょうね』

「フェリックは言います、天変地異の後世界は大変なことになっている、世界を救うため秘伝の忍術を得るのが俺の使命、命を失うことになろうとも諦めるわけにはいかないと」

『静電気で心折れかけた忍者の台詞とは思えませんね』

「こうしてフェリックと俺の最終対決が始まります」

『ヒモと戦う最終対決』

「フェリックの両腕は俺の計略でボロボロ、両手の使えない者如きに遅れを取る俺ではありません」

『両手すらない物がいけしゃあしゃあと』

「繰り出されるオリーブオイルの雨にフェリックは苦戦します」

『以前サラダ油で似た光景ありませんでしたっけ』

「しかしなんと奴は両手を使い、印を結び始めたのです」

『静電気と食器用洗剤にやられた筈なのに、いやいけるような気もしますが』

「なんと俺の放出するオリーブオイルには高い保湿成分が含まれていたのです。それにより奴の手が完治したのです」

『オリーブオイルにそんな効果は――あるのかないのかはっきりしませんが』

※美容のオリーブオイルはあります。

「血や涙に回復効果を入れていたのが原因でしょうね」

『貴方の血液はオリーブオイルなのですか』

「フェリックはついに得意の火遁を放ちます」

『引火しませんか、それ』

「大丈夫です、火遁を見てから食器用洗剤に切り替え余裕でした」

『今回も水属性のようですね』

「長期戦になりましたがついに決着の時を迎えます。俺の動きが急に鈍くなったのです」

『原因がさっぱり過ぎますが知りたくも無いです』

「オリーブオイルや食器用洗剤が巻物にがっつり染み込んでしまったのです」

『潔癖症の霧ケ峰空調が見たら号泣しそうですね』

「その一瞬の隙を付き、フェリックは巻物のヒモを取り外すことに成功します」

『凄くどうでもいい風景』

「断末魔を上げる俺」

『それは聞きたかった』

「まあ死にませんけどね、フェリックは全身オリーブオイルと洗剤にまみれながらも勝利しました」

『確かイケメンでしたね、そのときの写真とかないのでしょうか』

「ありますよ、ほら」

『全身オリーブオイルと洗剤を浴びたイケメンが巻物のヒモを握り締めて謎のカメラ目線』

「折角なので記念写真を撮りました」

『友人でしょうか。とりあえずこれは没収します』

「フェリックは巻物を読み空調の術を覚えようとしますが問題が発生します」

『オリーブオイルやら食器用洗剤まみれで読めなくなったとかでしょう』

「フェリックは日本語が読めなかったのです」

『異国人設定の弊害が』

「初めて心が折れかかるフェリック」

『忍者村で静電気相手に心折れかけたことを忘れてはいませんよ』

「かわいそうだったので親切な俺が代わりに解読してあげました」

『巻物を渡さなかった非親切を棚に上げてきましたね』

「こうしてフェリックは空調の術を覚え、世界の意思に伝授し世界は温度が18度に固定されましたとさ」

『冷房効きすぎですね』

「まー流石にヒモとしての人生は盛り上がりに欠けましたね」

『忍者の村に散々罠を仕掛けて多くの忍者を散らせて置いて何をほざきますか』

「それにヒモって言い方がなんだか、甲斐性なさそうで」

『貴方に欠如している物ですから妥当かと』

「ふう、報告終わり。疲れました」

『時速40キロで走りながらよく報告出来ましたね』

「そんなわけで恒例のお土産タイムです」

『今回はオリーブオイルでしょうか』

「いえ、それは出そうと思えば出せるようになったのでわざわざお土産にする必要も無いかなと」

『オリーブオイルを出せる人間はいない筈なのですがね』

「お土産はこちら、忍者村印のスマホを弄れる手袋です」

『たけのこ印の手袋ですね、まあ最近冷えるので貰いましょう』

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