第四話:『ダンジョン手前の土』
「いえーい、女神様可愛いー、一緒にカラオケどうですかーい」
『私そう言うノリはちょっと嫌いでして、喉を抉っても良いですか』
「それはちょっとどころじゃないですね」
『人の空間で一人カラオケで盛り上がらないでください』
「そうは言いますけど、女神様がいないときは一人なので歌でも歌っていないと喉の使い方を忘れそうなんですよ」
『確かに一人でいる時間が長いと声が上手く出なくなる時もありますよね。ですが声が漏れてくると迷惑ですからテレビに返事するだけにしてください』
「ああ、折角自作したステージが」
『見覚えのない道具が多いと思ったら自作していたんですか、クオリティ高いですね』
「伊達に家具になってませんからね」
『家具になったからと言って家具製作スキルはあがりませんよ、しかも貴方扉だったじゃないですか』
「つまりこれは俺の秘められた才能」
『さあ、さっさと次の転生先を決めてください』
「俺への興味が大分薄い。では恒例の目安箱ー、何通か来てますね」
『この空間には私と貴方しかいない筈なのですがね』
「まるでここは二人の愛の巣」
『独房です』
「何が出るかなー、じゃかじゃかじゃじゃじゃじゅじょじゅじゃじょじゃーん」
『ろれつの良さが軽く不愉快ですね』
「さー本日、俺の人生を順風満帆且つ素晴らしいものにしてくれるであろうお便りはー」
『どうせまた道具でしょうね』
「ペンネームブーしゃんさんより、『ダンジョン手前の土』」
『価値すら無くなりましたね』
「なるほど、そうきたか」
『土になれと言う意見をなるほどで納得できる貴方の寛容さは素敵だと思います』
「寛容さの塊ですからね」
『もれなく土の塊になりますがね、ちなみに本当によろしいのですか』
「引いた以上は仕方ありません」
『よくもまあ会ったことの無い人の無茶振りで人生を謳歌しようと思えますね』
「人生楽しみようはいくらでもありますから」
『選ぶ権利くらいはありますよ、それではオプションを設定していきましょう』
「前回のように勇者を倒せるようなチート設定はなしで行きましょうか、丁度良いハンデです」
『土と言う時点で一方的過ぎるハンデだと思いますが』
◇
『わたしまーつーわ』
「ただいま戻りました。おや、一人カラオケ楽しんでいるみたいですね」
『私の歌を聞きましたね、ではその耳を引きちぎらせてもらいましょう』
「耳なし芳一もビックリの理由だ、そこまでするならせめてフルで聞かせてくださいよ」
『お断りします。やはり土はダメでしたか』
「悪くは無かったんですが決め手に欠けましたね」
『土にそこまでの評価を見出せるとは驚きです。では報告をどうぞ』
「土ではハンデが厳しいと女神様から助言を頂いたので、奮発して世界で最も難易度の高いダンジョン手前の土になってきましたよ」
『奮発の仕方を間違えてますね』
「ダンジョンの名は辺境の土地にある地下大迷宮ローンソ」
『コンビニみたいですね』
「他にも天空迷宮ヘブン・イレデュンとかも候補にありました」
『コンビニみたいですね』
「ダンジョン手前の土と言うことだったのですが感覚としては入り口前の周囲に自分の意識があるといった感じでしたね」
『ダンジョンの手前が砂漠だったら自我の広さに困惑しそうですね』
「意識すれば狭い範囲に明確な意思を寄せられました、逆に広げようと思えば東京ドームくらいの範囲はいけましたね」
『東京ドーム、広さ……中々ですね』
※46755m^2です
「ただそこまで広げると自我を保つのも精一杯ですからね、普段はたたみ一畳分の範囲で意識を移動していました」
『狭いですね』
※1.62m^2
「ですがそこまで縮小すれば上に誰かが乗った時とかの感触まではっきり知覚できるんですよ」
『痛覚とかないはずなんですがね』
「いえ、オプションで付けておきました」
『土に痛覚をつけるとは中々ロックですね』
「岩はありませんでしたけどね」
『ロック違いです』
「音楽性の違いが出ちゃいましたか」
『貴方との関係は早く解散したいところです』
「最初は特にすることも無く退屈していましたがダンジョンから現れる魔物の生態系やダンジョンに挑もうとする冒険者達の様子とかの観察ができて味がありましたよ」
『一歩下がった位置での世界観察ですか、私も女神として似たような境遇なので理解はできます』
「特に可愛い子に踏まれるのが熱かったですね」
『一歩下がるどころか真下でしたか、理解の外になりましたね』
「オススメはラミア系ですね、踏むと言うより這ってくれるので接触時間も密着面積も大きい。女形スライムも似た感じですが土的にちょっと温度が物足りないですかね」
『土からそんな評価を受けてスライムも心外でしょう』
「視界機能が空間把握的なニュアンスだったのでローアングルからの覗きが出来なかったのは欠点でした、目玉オプションつければ良かったです」
『それは残念でしたね、きっと冒険者や魔物が躊躇無く攻撃してくれてたでしょう』
「ちなみにまともな話になるとやはり最難関のダンジョンとあって人間達の訪れが少なかったと言うのが盲点でしたね」
『世界最難関のダンジョンですからね、やはり足を運ぶのは億劫になるのでしょう』
「やはり国から遠いと言うのがダメでしたね」
『コンビニじゃないんですから』
「国内にあるダンジョンとかは凄い賑わっていたらしいですよ」
『コンビニじゃないんですから』
「その中には店があり色々な物を24時間休まず販売していたそうです」
『コンビニでしたか』
「ちなみにフェムリームート迷宮と言います」
『コンビニでしたね』
「勇者が店長です」
『日常系ファンタジーでしたか、魔王の脅威はあまり無さそうな平和な世界ですね』
「ええ、魔王は天空迷宮ヘブン・イレデュンにて店を構えていましたから」
『コンビニ経営モノの世界っぽいですね』
「年ごとにダンジョンの内装が変化して貴重なアイテムもリポップするんですよ」
『ローグライクゲームな世界ですね、勇者も冒険者として頑張れば良かったのに』
「ダンジョンの外に出るとレベルが初期化されるので勇者も嫌気がさしたんでしょうね」
『そこまで忠実でしたか、ですがその世界観ですと貴方の後ろにあるダンジョンへの挑戦者もそれなりに出てくるのでは?』
「いやー、うちのダンジョンに辿り着くまでに森や山マップを抜ける必要があるんですよ」
『なるほど、複数のステージを攻略しなければならないタイプのダンジョンですか。それは面倒ですね、そして別に貴方のダンジョンではないでしょうね』
「ドロップアイテムは優秀なんですけどね、死者すら蘇生させる世界樹の茎とか」
『普通は葉の方なんですが』
「葉には猛毒がありまして」
『中々捻くれた世界樹ですね』
「スギ科で真っ直ぐでしたよ」
『そう言う意味ではないです』
「次に死者すら蘇生させるフェニックスのまつ毛」
『尾には蘇生効果ないんですか』
「尾には猛毒がありまして」
『とんだフェニックスですね』
「ダチョウ科で飛べないそうです」
『そう言う意味ではないです』
「他には死者すら蘇生させる元気のかまたりとかですかね」
『かまたりってなんですか』
「
※
『なんでそんなものが』
「どうやら死後この世界に異世界転生したようですね」
『藤原鎌足が異世界転生していたんですか、神様トークの時にちょっとした小ネタになりますね』
「そして魔王として勇者中大兄皇子と激戦を繰り広げたそうです」
『かつての腹心がえらい事してますね、そこは蘇我入鹿がなればよかったのに』
「蘇我入鹿みたいな歴史の人物が異世界転生するわけないじゃないですか」
『おかしいですね、時代の立役者二名が転生しているように見えるのですが』
「まあそんなわけで元気のかまたりと言うアイテムがあるんですよ」
『元気のかた○りはないんですか、おっと伏字が入りましたね』
「元気のかた○りには猛毒がありまして」
『そろそろ違うオチが聞きたかったですね』
「後は他に死者すら蘇生させる死神の鎌とかもドロップしますね」
『名前と効果が一致しない、ローグライクゲームにとっては致命的ですね。そもそも蘇生アイテムしかないんですかそのダンジョンは』
「一応ありますけど大抵のレアアイテムは他のダンジョンの最下層とかで手に入りますからね」
『最終ダンジョンで今までに役立ったアイテムが簡単に手に入るって感じですか、人気の無さそうなダンジョンですね』
「とは言えやはり死者を蘇生させると言うアイテムはローンソだけですからね。時折ですが大切な人を生き返らせるために訪れる者もいるんですよ」
『そうですね、確かに蘇生魔法や蘇生アイテムの存在は物語の大きな要素となったりしますからね。知り合いの世界ですと蘇生魔法が禁忌でそれを使用すると魔王になったりとか』
※『異世界でも無難に生きたい症候群』も連載中です、見てね!
「ああ、毎日更新頑張っている小説が遊びで書き始めたコメディー系小説に一週間で抜かれたって言う」
『本人は結構気にしているらしので止めてあげなさい』
※この回を書いている最中に総合評価、デイリーのアクセス数を抜かれました。
「蘇生アイテムを目指してダンジョンに潜ったのは良いのですが多くの冒険者が中で倒れ、魔物の手によって外に追い出されてしまっていましたね」
『トドメを刺さないあたり親切な魔物ですね』
「アイテムも残っていますからね」
『それだと蘇生アイテムもなんとか手に入りそうですね』
「蘇生アイテムはほぼ最下層にあるのでたどり着くのが困難ですけどね」
『甘くないですね世の中』
「心折れた冒険者は涙を流しながらダンジョン手前の土をお土産に持ち帰ります」
『甲子園でしょうか』
「来年こそはと心に誓う者や、これで最後の冒険も終わりかと燃え尽きる者もいました」
『甲子園でしょうか』
「鳴り響くサイレンの音」
『甲子園でしょうか、どこにサイレンがあるんでしょうか』
「あ、俺のつけたオプションです」
『なんて迷惑な土』
「そのサイレンで集まる魔物達」
『迷惑どころじゃなかった』
「魔物に袋叩きに遭い、もう一段階手前のステージに戻される冒険者達……痛々しい姿でした」
『貴方が魔物を呼び寄せなければもう少し感動したままでいられたと思うのですがね』
「並みの冒険者では歯が立たない難攻不落のダンジョンでしたがついに立ち上がったのが勇者
『子孫なのにパチモノ感が否めない』
「勇者浩二は最強の武道家、伝説の武道家、近所の武道家をつれてダンジョンに入っていきました」
『パーティの構成が雑ですね、一人規模が小さいですし』
「ちなみに三人の武道家は女の子でした」
『取ってつけたようなハーレム要素、近所の武道家が一番距離が近そうですね』
「個人的には伝説の武道家の踏み心地が良かったです」
『いらない情報ありがとうございます』
「勇者浩二は事故で失った許婚の武道家を蘇らせるべくダンジョンに挑みます」
『この世界のジョブの割合が心配になってきましたね』
「快進撃を進めていたと思われた勇者浩二ですが物理無効の魔物が多く存在している階層で苦戦し敗北してしまいました」
『パーティのバランスがダメですからね』
「来年こそはと肩を抱き合い涙する勇者浩二とヒロイン達」
『甲子園でしょうか、メンバーを入れ替えないと来年もダメだと思います』
「勇者浩二達はダンジョン手前の土をバイトの武道家へのお土産として持って帰ります」
『甲子園でしょうか、そう言えばコンビニ経営してましたね』
「鳴り響くサイレン」
『魔物呼び寄せましたね』
「いやぁ、リア充していたのでつい排除したくなりまして」
『自覚していましたか』
「そんなわけで勇者も敗れるほどの高難易度ダンジョン、ですが新たな挑戦者が」
『予想はしていますが、魔王でしょうね』
「二番、魔王
『甲子園でしょうか、そして魔王だった藤原氏は何処へ』
「魔王は世襲制じゃないので」
『勇者は世襲制だったんですね、藤原氏は蘇我氏に復讐された気がしてなりませんね』
「魔王猿鹿は自分の店の経営難を打開すべく目玉商品である蘇生アイテムを取りにやってきました」
『勇者に比べると少し理由が俗世的ですね』
「しかもなんと一人で、彼女も生まれてこの方一度もいない奴でした」
『そこを説明してあげない優しさが貴方には足りませんね』
「同情した俺は頑張れよと激励してやりましたよ」
『土に激励されましたか、喋れたんですね』
「オプションで」
『でしょうね』
「励まされた魔王猿鹿はやる気を出してダンジョンに挑みます」
『土に激励されてやる気でるのも哀れな存在ですね』
「しかし二人一組で解く仕掛けを解除できずに攻略に失敗しました」
『お一人様に厳しいダンジョンでしたか』
「来年こそはと涙する魔王猿鹿」
『甲子園でしょうか、仲間を見つけないと無理でしょうに』
「魔王猿鹿はダンジョン手前の土を自分へのお土産として持って帰ります」
『甲子園でしょうか、独り身なのは予想していましたが勇者浩二と比較されると辛いですね』
「鳴り響くサイレン」
『容赦ないですね』
「こちらはつい、うっかり」
『そのうっかりで魔物に袋叩きに遭った魔王が可哀想です』
「俺もそう思いまして彼の懐にそっと拾ったアイテムを入れておきました、オプションで」
『土に餞別まで渡されましたか』
「とても貴重な品で彼はそれを目玉商品にすることが出来ました」
『良い話にまとまりそうですね。土の拾った貴重なアイテムってたかが知れてそうですが』
「世界樹の葉、フェニックスの尾、元気のか○まりとかですね」
『猛毒じゃないですか』
「しばらくして風の噂で天空迷宮ヘブン・イレデュン内にあった魔王の店は営業停止になったことを知りました」
『間接的に魔王を倒しましたね、土が』
「その後も様々な冒険者達との思い出話が沢山あります、しかし最後の時がやってきました」
『やっときましたか』
「誰も彼もが土を持って帰っていったせいで俺の居場所がついに無くなってしまったのです」
『地形が変わるほどにお土産にされてしまいましたか』
「俺はダンジョン手前の土、しかしダンジョン手前の土が無くなりコンクリートで舗装されてしまい俺の居場所は無くなってしまいました」
『辺境の土地にあった筈なのに随分と文明の手が伸びてますね』
「そう言ったわけで帰ってきました」
『結構長い時間過ごせたわけですし、満足しても良かったのでは』
「いやぁ、退屈な時間の方が多くてですね」
『土ですからね』
「暇な時はもっぱら一人で歌を歌っていたんですよ」
『呪われた土地として伝えられそうなことをしてくれてますね』
「一人なので歌でも歌っていないと喉の使い方を忘れそうなんですよ」
『土くれが何を言っているんですかね』
「ですがデュエットできなかったと言うのが悔いになりまして」
『土相手にデュエットしたい者はいないでしょうね』
「そう言ったわけで女神様と一緒に歌うために戻ってきました」
『私は一人カラオケ派なので遠慮しておきます』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます