魔法学園の異端魔導士〈ヘレティック・ソーサラー〉

ワイル・ロング

第1話ヘレティック・ソーサラー

「破壊せよ。崩壊せよ。瓦解せよ。破滅せよ。乾け。果てろ。朽ちろ。終われ。ここは世界の最果て。ここは終焉の地。かけ登れ階段を。駆け上がれ天界へ。貫け神を。射殺せ悪魔を。掌握せよ、この世の全てを!!久遠式魔導第99!!〈卑劣なる剣ミリオン〉!!」巨大なドーム状の競技場の真ん中に立ち、詠唱する1人の男子生徒。その詠唱と共に、彼の周囲に現れる無数の剣。その1つ1つが全て――魔剣。即ち、対魔法士における武器。魔力を持つ剣。それが、合計で100万。

「なんだよ――これ――」観客席にいた他の生徒は、息を飲む。そこに存在する大量の凶器に、目を見開く。


そして。1番驚いたのは、フィールドの彼と対峙する、3年生の生徒。彼女の周りにも剣が浮いている。


「〈たった10本でドヤ顔するブス高飛車な華道部長〉でしたっけ?その魔法」男子生徒は、まるで煽るかのように――挑発的に――見下すかのように。目の前の女子生徒―華道部の部長に向けて言い放った。

「〈十輪刺し〉だよ。剣を10本まで同時に操る魔法」彼女は、自分の魔法を軽く超えられたことに驚きながらも。それを悟られないように答える。


「あぁ――そうでした。ハハハハッ!!たった10本!?馬鹿にするなよ――俺の100万に、到底届かない癖に!!笑えてくるよ。10本でドヤ顔してたアンタの惨めさが面白くてさぁ!!」彼は笑う。だが―急に真顔になり。


「なぁ。魔導士を嘗めんな。こちとら――詠唱っていうハンデを背負って戦ってるんだよ。テメェらと違って、発動すんのに時間がかかる。アンタら魔法士は楽かもしれんが、俺は大変なんだよ。どんなに頑張っても、頑張っても――魔法士になれなかった俺は。魔導を磨いた。その結果――777んだ。無詠唱に甘えてるテメェらと一緒にすんな」


「――頭に叩き込んでおけ。いずれ魔導士を再興する男の名前を。俺の名前を」


男子生徒――彼の名前は。



空九離 久遠からくり くおん〉である。

黒髪を白く染め、耳にはピアス。薄灰色の色つき眼鏡をかけて。黒を基調としたブレザーの袖を捲り。右手首に腕時計。その腕時計の下から覗く謎の痣。左頬には、蛇の刺青。


「んじゃ、勝ちはいただくぜ――美人さん」久遠が指を鳴らす。刹那、100万の剣は、彼女の剣も含め、貫いた。


……………………………………………………



私立剥憧はくどう魔法学園。生徒数1200人の巨大な学園。個人の敷地内に建てられたこの学園。国内の私立、国立学園も含め、敷地面積、生徒数が共に最大。太平洋に浮かぶ人工島。そこに通う生徒の中で唯一の魔導士。


空九離 久遠。777の魔導を操る男。当然ながら魔法は全く使えない。否――使えないこともないが、他の魔法士に比べて、その威力が格段に落ちる為に、ほぼ使えないと言って差し支えない。よって――落ちこぼれである。だが―その実力は。魔導の実力は確かで、魔導士の最高権威である、魔導士管理機関最高責任者の〈タイチ・スメラギ〉が〈〉と言う程。それ程までに力のある彼が何故――?それは、だれにも分からない。


ここで1つ、注釈を入れなければならない。魔導士と魔法士は基本的に仲が悪い。だが―久遠は、魔法士を嫌いなワケではないということだ。そしてまた、この学園にも、魔導士敵視している生徒ばかりでないという事を。


なので。久遠の寮は――魔導士に理解のある学生と同室である。

原則、寮は2人1部屋。


「やぁ、おかえり――久遠。お疲れ様。花道さんを倒すとは、恐れいったよ」飄々とした態度。中身のない笑顔。死んだ魚のような、光のない瞳。常にコチラの考えの斜め上をいく男――〈紫闘 一鳴しとう いちな〉が、久遠と同室。

僅かだが―ほんの少しだけ紫を帯びた黒髪。見る角度によって、色が変わる瞳。嫌いなモノは視力検査。学校指定のブレザータイプの制服は着ていない。常に甚平姿。周囲の生徒とは、何か違う雰囲気を纏っている。


「花道?――あぁ、あの華道部の部長か。まぁ、勝てたのは――お前の事前情報があったからだ」実は久遠は〈十輪刺し〉を使う事を知っていた。それは、一鳴の情報。新聞部に入っている一鳴は、ありとあらゆる所から、どんな情報でも仕入れてくる。それが――彼の魔法である。


壁に耳あり障子に目ありサテライト・シーイング。僕の魔法だ。また何か情報が欲しい時は言ってね」中身のない笑顔を向けてくる一鳴に、軽く「あぁ」とだけ答えて、久遠はベッドに伏せた。

だが、すぐに起き上がる。


「ちょっと出てくるわ」久遠はそう言って、部屋から出ていく。ドアを閉めて、エレベーターに向かう。ボタンを押して、下の階からこのフロア―10階に呼び出す。


「――早くしないと、乗っちまうぞ。花道」花道。華道部の部長。さっき彼が倒したばかりの彼女。

「いつから気付いて――」花道は、恐る恐る、角から姿を現す。

「最初から。――アンタが、魔導士に理解のある人間だって事はわかる。態度でわかる。不本意なんだろうけどさぁ。」久遠は振り返り、彼女と目を合わせる。対して花道は、目を反らす。エレベーターは、4階で止まった。誰か乗せているのだろうか。


「敵でいてくれって――どういう事?」花道は尋ねる。

「だってわかりやすいだろ?俺を嫌う。俺を憎む。恨む。怨む。妬む。嫉む。その理由として」

エレベーターが7階で止まる。


「別に私は――敵になろうとか思ってない。君と戦ったのだって――仕方なく。仲良く出来たら良いって思ってる」

「良いよ――もう。〈司皇 花道しおう はなみち〉―アンタは俺に関わるな」彼が、冷たく言い放ったタイミングでエレベーターが到着する。ドアが開く。


「その方が、から」

1階を押して、扉を閉める。ドアが閉まる直前の、久遠の、どこか悲しげな笑顔が、花道の脳裏に焼きついて、離れない。彼女はため息を1つ。自分の部屋に戻った。


一方。エレベーター内の久遠は。指を鳴らす。すると、タロットカードが現れる。

彼が唯一まともに使える魔法。手のひらサイズのものを召喚する。


「〈運命の輪wheel of fortune〉の正位置か。幸運。運命的――あるいは偶然。なんか皮肉だな」彼が手に持っているのは、運命の輪と呼ばれるカード。その正位置の意味は彼が言った通り。


「突き進め暗雲を。突っ走れ漆黒を。久遠式魔導第91〈反転リバース〉」

久遠の魔法――91。召喚したタロットカードが占った未来を、打ち消す力。と言っても〈占い通りにはならない〉事が確定するだけであり、真逆の事が起きるワケではない。

再び指を鳴らすと、タロットカードは消えて。丁度、1階に着いた。


「コンビニ行こ。――ヤベェ。財布忘れた」久遠は再び、部屋に戻った。



……………………………………………………



司皇 花道。華道部の部長。魔法は〈十輪刺し〉――10本の剣を同時に操る魔法。その魔法が、いともたやすく破られた。超えられた。

その衝撃よりも。〈俺に関わるな〉と言われた事の方が、ずっと心に残る。何故。彼は言った。〈アンタのためだ〉と。その意味が分からない。けれど。気にしても仕方ない。

エレベーターホールで放心状態の彼女に、誰かが背後から声をかける。

「――どうした。暗い顔して」花道に話しかけるのは、同室の女子生徒。凛々しい雰囲気をその身に纏い、オーラだけで人を殺せそうだ。深紅の瞳。長い黒髪。艶やかに、流れるように腰まで伸びている。腰に刺した日本刀。整った顔立ち。スラリとしたその体は、しかし――決して華奢な印象を与えない。


「何でもないよ――久那」花道は笑顔で答える。


夢槻 久那ゆめつき ひさな〉――彼女は、どこか――誰かに似ている気がするが、それが誰だか分からない。


「――そうか。なら良い」彼女はそう言って、エレベーターを呼び出す。暫くして、到着する。そこに乗り込もうとするが――中から人が降りてくる。

久那とぶつかりそうになる。

「悪ぃ――って、姉さん!?」

「――久遠か。久しぶりだな」久那の言葉を待たずに、久遠は。

「高貴なる王。高潔なる貴族。純白の王家。崇高なる支配者。反乱せよ。反旗を翻せ。蟠りを捨てよ。柵を捨てよ。枷を外せ。我は狂乱の主導者。謀反の先導者。革命の先駆者。久遠式魔導第18〈反逆の狼煙レジスト・ボイス〉」

反射的に、咄嗟に詠唱をする。対する久那は、涼し気な顔を変えず。


「カウンター魔導。コチラが攻撃しなければ意味のないモノを。しかも――攻撃してこないという事は、私に勝てる自信がないんだろう?牙は自分よりも弱い者に立てるものだ。身の程を知れ――三流」刀が抜かれる。閃光一閃――振り抜かれたそれは、久遠の腹を裂く。――かに思えた。

体が動かない。何かに拘束されているかのように。


「寮内での魔法、及び武器の使用は禁止だよ。勿論――魔導もね」そこに現れたのは、一鳴だった。


「――邪魔だ」久那は、拘束を破り、刀を仕舞う。そして抜き――

「だから、ダメだって。」一鳴に名前を呼ばれた久那。その拘束が、より一層―強くなる。


「魔法はダメって言っておきながら、僕が使っちゃってるんだけどね。僕の魔法は1つだけ。〈言語構築メイク・ラング〉。この世に実在する言葉を具現化する。〈壁に耳あり障子に目あり〉だってそのうちの1つだよ――久遠。さて、久那先輩。貴方を拘束している言葉はなんでしょうか?」


「束縛。拘束。その辺りだろう。下らない魔法だ。牙は自分よりも弱い者に立てるものだろう。――それよりも久遠。次は来週の火曜日。囲碁将棋部の部長だ。今日はそれだけ伝えるつもりだった。――それと。私を姉さんと2度と呼ぶな。の恥だ」久那は、先ほどと同じように、拘束を破ってエレベーターに乗り込む。扉が閉まる。


「姉さん――俺は、アンタに認めてもらうまで諦めねぇから」強く握られたその拳。エレベーターを見つめるその顔が、花道を――そして一鳴を。。そして、外した色付きの眼鏡。その下に隠れていた瞳は、久那と、全く同じ色だった。



……………………………………………………



「――お前は知ってたのか?俺が、アイツの弟だって」寮の部屋。とても簡単な作りだ。2段ベッドと、小さな冷蔵庫。二人分の机。それしかない。久遠のベッドは下段。一鳴が上を使っている。

久遠は、上にいる一鳴に問いかける。ここから彼の顔は見えない。それは向こうも同じ。

「勿論――と言いたいけれど。知らなかったよ」


「そうか」久遠は何故が安心した。その理由は分からない。自分でも分からない。きっと、一鳴は分かるのだろう。意味もなく、そんな気がした。


「それよりも、囲碁将棋部だって?気をつけてね」一鳴の言葉。

「どういう意味だ」久遠は聞き返す。

「そりゃ――」肝心なところを濁す。それは、いつもの一鳴だ。だから、さして気にもならない。


久遠は。来週に控えた試合についての考えを捨てて。


「少し寝る」そう言ったものの―――そのまま、翌朝まで起きる事はなかった。

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