知らないともだち

 私には知らない友達が一人います。

 知らないのに友達? と疑問に思われるかもしれません。

 しかし私は本当に彼女のことを知らないのです。


 例えばある日、教室で友人に言われたことです。


「〇×ちゃんと私と三人で買い物に行かない?」


 私と彼女の間には共通の友人が数人います。

 けれどその中に〇×ちゃんという子はいません。


「〇×ちゃんって誰?」


「え? 〇×ちゃんだよ、よく一緒に遊んでるじゃん」


 彼女はそう言うのですが、私はその〇×ちゃんという子のことを本当に知りません。

 気味が悪かったので、私はその話を断りました。


 それからも多くの友人達が、〇×ちゃんの話をします。

 ある友人などは「最近〇×ちゃんとよく一緒にいるところ見るね」などと言っていました。

 もちろん、私には全く心当たりなどありません。


 最初の頃には毎回「〇×ちゃんって誰?」と聞いていたのですが、誰もが皆「〇×ちゃんは〇×ちゃんだよ」などと言って、本気でとりあってくれません。

 それに怒ると「なに? 喧嘩でもしたの?」と心配までされてしまう始末です。


 最近では諦めて、〇×ちゃんのことを聞くのをやめて、適当に話を合わせるようになりました。

 

 私には、私が知らない〇×ちゃんという友達がいます。

 私は彼女の声も、姿も知りません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る