夜想曲2
「それにしても情報早いっすね。案外人間も優秀なんすかね?」
ノクターンは何が面白いのか、笑顔で3人に話しかける。
当然3人はノクターンの問には答えず、臨戦態勢を解かない。
「あれ、私には名前とか聞いたのに無視っすか? 礼儀知らずっすね」
「目的はなんですか」
「質問ばっかりすね。まあ、答えてあげるっすよ。私は魔王様に命じられて王都陥落のためにここを拠点にしたんすけど、ほんとなんでバレたんすかね。目立つようなことした覚えはないんすけど」
「随分ペラペラと情報を喋るな」
目的を簡単に喋るノクターンに疑問を持ち、エレナが声をかける。
「別に、ただの余裕っすよ」
「私たちは敵じゃない、とでも?」
「え、私を倒す気なんすか? 無理っすよ。私の方が強いっすから」
3人が自分を倒そうとしていると知り、ノクターンは冗談を聞いたように笑う。
「なら……試してみろ!」
エレナがノクターンに斬りかかったのを合図に、ワタルとマリーも動く。
ワタルは右に、マリーは背後で魔方陣を展開し詠唱を始める。
「おお!?」
エレナの粛清剣はノクターンの両足を斬り、続けざまに柄で真上へ体を浮かす。
空中で身動きのとれないノクターンへ、追撃でワタルが頭部目掛けてグラムを振る。
「思ったより速いっすね」
ノクターンは振られるグラムを両手で掴むと、振り切られる瞬間に手を離しわざと遠くへ飛ばされる。
「規模は小さいが、燃やすには十分じゃろう」
詠唱を終えたマリーが炎球を放ち、ノクターンの飛ばされた場所へと着弾する。
すぐにその一面は炎の海となり、気や草花が塵となっていく。
「倒したと思ったっすか?」
炎の海から笑いながらノクターンが姿を現す。
その体には目立った傷はなかったが、それよりも目を引いたのが両足だった
「な、足が!?」
ワタルは思わずエレナが斬った足に目を向けてしまうが、両足はそこにしっかりと存在していた。
「私をそこら辺のゾンビと同じにしてほしくないっすね」
声が聞こえ振り向くと、すぐ目の前にノクターンが迫っていた。
至近距離から振られる右拳を、ワタルは慌てて盾で防ぐ。
ガンッという鈍い音と共に強い衝撃に襲われるも、重心を落とし飛ばされずに踏ん張る。
「あれ?」
「戦闘中に考え事か?」
何かに疑問を持ったのか硬直した一瞬を狙い、エレナがノクターンの右腕を肩から斬り落とす。
「せいっ!」
「おっと、危ないっすね」
ワタルがグラムで頭部を狙うが、後ろに下がられ首を深く斬るだけで終わる。
ノクターンは後退し、3人と距離をとる。
「君本当に人間っすか? こんな強い人間がいるなんて聞いてないっすよ」
「褒め言葉と受け取りますね」
「褒めてるっすからね。お仲間の2人も強いし、ちょっと頑張るっすよ」
ノクターンの顔から笑顔が消え雰囲気が変わる。
現代社会で生きていたワタルにも、自分に向けられている感情が殺意だとわかる。
「マリー、下がって!」
ノクターンが狙ったのはマリーだったが、ワタルが視線から狙いを予想し、マリーとノクターンの間に盾を構えて割り込む。
「強っ!?」
スキルの守護が発動しているにも関わらず、ワタルの盾はノクターンの右拳に弾かれ体制を大きく崩す。
ノクターンが残りの左拳を振りかぶるが、その腕は振られる前にエレナによって肩から斬り落とされる。
「魔族特攻かアンデッド特攻っすかね。簡単に斬ってくれるっすね」
標的をエレナに変えたのか、斬り落とされた左腕を右手で拾いエレナに投げつける。
しかし、その腕はマリーが放った炎球によってエレナに当たる前に燃やされる。
そこへ体制を立て直したワタルが、グラムを突き出しノクターンの体を貫く。
それでもダメージはないのか、ノクターンが大きく後退すると腹の傷も消えていく。
「連携が面倒だし、これは分断するのが最善っすね」
3人に聞こえない声でそう呟くと、今度はエレナに向かって接近する。
「今度は仕留めるぞ」
先程と同じようにワタルがノクターンとエレナの間に入り、今度は弾かれないよう重心を下げ地面を踏みしめる。
「そこの人間、強いけど実戦経験はほとんどないっすね? 防ぐことに頭がいきすぎっすよ」
ノクターンはワタルの前で跳躍し、盾を踏み台にしてエレナの目の前に着地する。
「しまった!」
「まずはあんたから死んでもらうっす」
ノクターンが右手を地面に付ければ、エレナとノクターンを囲むようにして四方の地面から氷の壁が現れる。
すぐにワタルとマリーがそれぞれグラムと炎球で氷の壁を破壊しようとするものの、壁は厚く1度では破壊できない。
「ワタル、わしが溶かしたところを狙え」
「わかった!」
それを見るなり一部を集中して狙い氷の壁へ攻撃する。
壁は5秒ほどで壊れ、ワタルとマリーが急いで中へと入る。
「意外と早かったっすね。でも、もう終わったから問題ないっす」
そこには、腹を貫かれたのか夥しい量の血を流して倒れているエレナと、右手に血で真っ赤に染まったナイフを持ったノクターンが立っていた。
「エレナ!」
「人の心配してる場合っすか?」
エレナの姿を見た衝撃で気が逸れたワタルへ、ノクターンの右足が直撃し別の氷の壁に叩きつけられる。
「がっ!?」
「これで2人目っすよ」
追撃を仕掛けようとしたノクターンを、横から巨大な土の拳が殴り飛ばす。
破壊されていた氷の壁を抜け、建物に激突したのか遠くから肉が潰れるような音が聞こえた。
「ワタル、一度引くしかなさそうじゃ。エレナを担げ」
「う、うん」
素早いマリーの指示でワタルがエレナを持ち上げると、2人は廃墟の建物の1つへと身を隠す。
「エレナの傷は?」
「わしは医者ではないからわからんが、放っておけば命はないじゃろう」
エレナは気を失っており、血も止まる気配がない。
「どこに逃げたか、血の跡で丸わかりっすよー」
遠くからノクターンの声が聞こえ、2人を焦らせる。
「治せる?」
「治療魔法は使えるが、時間がかかる。とてもそんな暇を与えてくれるとは思えんぞ」
「俺が時間を稼ぐ」
「無謀じゃ、死ぬぞ」
「それでもやるしかないんだ」
マリーの静止を振り切り、建物から出てノクターンと対峙する。
「ふーん、1人っすか。でもあんたの相手をしてからあの2人を殺しても、時間は十分あるっすね」
ノクターンは両手に氷のナイフを持ち、それを構える。
「簡単に殺せると思わないでください」
「へえ、なら私を倒してみてほしいっすね!」
先に動いたのはノクターンだ。
ワタルとの距離を詰めると、ナイフをワタルの喉に素早く振るってくる。
ワタルは片方を盾で防ぎ、もう片方はグラムで断ち切る。
ノクターンは斬られたナイフを捨て、空いた拳で鳩尾を狙い殴り掛かるるが、ワタルはそれをグラムの柄で下から殴り軌道を帰ることで回避する。
一進一退の攻防が続き、残ったナイフが盾に砕かれたことでノクターンが後退した。
「驚いたっす。まさか私と張り合うなんて」
「負けられないので」
「追い詰められた人間は怖いっすね」
再びノクターンがワタルとの距離を詰め、右拳を放つがワタルは落ち着いて盾で防ごうとする。
拳が盾に当たった瞬間、何倍もの衝撃に耐えきれずにワタルは背後へと吹き飛ばされ建物に激突する。
「な……」
「でも、所詮は人間っすね」
重心は下げていたし、地面も踏みしめていた。
それでも、ワタルは純粋に力で飛ばされ盾も一部が欠けていた。
「ここからは手加減なしの本気っすよ」
ノクターンはゆっくりと歩を進め、ワタルへと迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます