魔法デビュー

「いいですか? 魔法というのは魔力と想像力です。ワタルさんは魔力は問題ないので、あとは想像力で魔法が使えるようになりますよ」


 報酬を受け取った翌日、ワタルはリナから魔法について教えてもらっていた。

 と、いうのも魔法を使うというのは憧れだったワタルにとって、まだ魔法が使えないというのは問題だった。

 図書館に行くのも考えたが、誰かに教えてもらったほうがわかりやすいと考え結果、今に至る。


「言葉は自分が想像しやすければ、どんな言葉でも構いません。魔法を中心に戦う人たちは、一言で魔法を発動するらしいですけど、それは気にしなくて大丈夫です」

「なるほど」

「それでは、試しに練習してみましょうか。このギルドには地下があって、冒険者が自由に魔法や剣技を練習できるスペースになっているんです」

「俺それ聞いたことないですよ」

「さて、行きましょうか」


 ワタルの文句はリナにスルーされ、そのまま連れられ地下へと向かう。

 地下は広い運動場のようなスペースの他に、個室と思われる扉がいくつもあった。

 リナはその個室のうち1つに入り、ワタルもそれに続く。


「この部屋の扉や壁には魔法がかけられていて、まず壊れることはありません。思う存分、魔法の練習ができますよ」

「魔法……なんでもいいんですよね?」

「はい、ワタルさんの好きにどうぞ。魔法にも使う人との相性があって、得意な魔法も変わるらしいのでいろいろ試してみるのがいいと思います。」


 そう言ってリナは部屋の隅で待機する。


「集中、集中……」


 この世界に来て、使いたい魔法は決めていた。

 目標は初歩ということで、水を作り撃ち出すことだ。


「空気中の水分を集めるように……」


 両手を前に出し、思った言葉を口に出してイメージしやすくする。

 するとワタルの目の前に水滴ほどの水が生まれ、どんどん大きくなっていく。


「集めるように……大量に……」

「あ、ワタルさん! ストップ、ストップです!」


 集中するために目をつぶっていたのが悪かった。水滴ほどの大きさだった水は大きくなり、ワタルが目を開けた時には視界いっぱいを水が覆い尽くしていた。


「ご、ごめんなさい」

「あ、いきなりやめたら」


 ワタルが慌てたため集中が切れ、宙に浮いていた水が地面へと一気に落ちる。

 リナがなにかを言い終える前に、水は2人を飲み込む。


「ス、スペルブレイク!」


 部屋に溢れた水から顔をどうにか水面に出し、リナが言葉を発する。

 すると、水は最初からそこになかったかのように消え去る。


「はぁはぁ、あ、ありがとうございます」

「初めてなので失敗は付き物です。今みたいに魔力で作られたものなら私が消せますから、心配はありません。今はちょっと反応が遅れましたけど」


 あはは、と笑いながらリナはワタルに練習を続けるように促す。


 それから2時間ほど練習を重ね、小さな火や水なら自在に操れるようになった。


「リナさん、俺センスないんですかね?」

「この練習時間であれだけ出来れば上出来です。まずは小さなことからコツコツと。ゆっくり頑張りましょう」

「そうなんですか。リナさん、付き合ってくれてありがとうございました!」


 最後まで付き合ってくれたリナに心から感謝して頭を下げれば、その日はギルドを後にする。

 もっと練習したかったが、今日は昨日鍛冶屋に頼んだ武器が出来上がる日だ。

 自分が倒した魔物から手に入れたものを、加工してもらって自分専用の道具にしてもらう。

 男なら大半が心を浮き立たせるだろう。

 ワタルも例外ではなく、心なしか足取りも軽く鍛冶屋へと向かう。


***


「おう、兄ちゃん。ついさっき完成したところだ」


 人気の少ない裏路地。そこの一角にその鍛冶屋はあった。

 王都にはもっと有名で見た目も鍛冶屋とは思えないほど綺麗なところもあるのだが、リナからこの場所をおすすめされ素直に従った。


「そうですか。楽しみです」

「素材が良かったからな。自信作だ。受け取ってくれ」


 鍛冶屋のおじさんとの話もそこそこに、鍛冶屋の奥、工房と思われる場所から鞘に収められた武器を持ってくる。

 形状は扱いやすいように今と同じ剣、長さは今使っているものよりも少しだけ長くしてある。


「これが、俺の専用の武器……」


 ゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと剣を鞘から抜く。

 その全貌を見て、ワタルは言葉を失い、見蕩れてしまう。

 刀身は鉄の銀色ではなく、うっすらと水色が含まれている。刃は市販のものよりも幅広く、敵の攻撃によっては盾にもできそうだ。


「斬ってみな」

「あ、はい!」


 鍛冶屋のおじさんはそのワタルの反応に満足そうに何度も頷くと、鉄のインゴットを山なりに投げてくる。

 その鉄のインゴットを受け取ったばかりの剣を上から振り下ろす。

 剣はワタルの手に少しの衝撃を残し、鉄のインゴットを見事に両断した。

 斬ったあとの刃を見てみるが、刃こぼれ1つしていない。


「頑丈性も斬れ味も十分だと思っている」

「こんな凄い剣が俺の武器……嬉しいです」


 ワタルは後でリナにお礼を言おう、そう心に決める。

 王都のショーウィンドウに飾られた武器もいくつか見ていたが、そのどれよりもこの剣はワタルにとって輝いて見えた。


「そして極めつけはその剣の特殊な効果だ。元々の素材にあった効果なのかは知らないが、魔法の水を作り出してくれる効果があった。魔力を剣先に集中させれば使える」


 それを聞いたワタルは、早速その効果を使ってみようと剣先に魔力を集めると、剣先に拳大の大きさの水の球体が作り出させる。


「あれ、これ自分の魔力は使わないんですね」


 それを見て少し不思議そうにワタルはそう言って、剣を振る。

 そうすることで水の球体は剣先から離れ、水は地面に当たり土を濡らす。


「剣に蓄積された魔力を使うからな。気を付なきゃならないのが、その効果は剣に蓄えられた魔力を使うんだ。魔力の残量だが、刀身の色で判断できる」

「確かに、水色が薄くなってる気がしますね」


 剣に蓄えられている魔力が多いほど、刀身は青色に近づくというが、知り合いの冒険者に魔力を込めてもらっても薄い青色にしかならなかったという。


「魔力を貯めるには、自分の魔力を剣全体に流せばいい」

「やってみます」


 魔法を使う時の応用、体内の魔力を手を通して剣に集めるように意識する。

 刀身はすぐに元の色を取り戻し、さらに色が濃ゆくなる。数秒後には、海を連想させる青色に染まっていた。


「こりゃ驚いたな。こんな色になるとは。……よし、あとは銘を決めるだけだな。兄ちゃんが決めな」

「銘、名前ですか。……決めました。グラムにします」


 剣の銘と言われ少し悩むが、ワタルは自分の剣にそう名付ける。

 神話に登場する剣の名前だ


「いい名前だ。使いこなしてくれよ」

「もちろんです。ありがとうございました」

「いいってことよ。今後も贔屓にしてくれよ」


 鍛冶屋のおじさんに何度もお礼を言って、笑顔で手を振り別れる。

 武器も手に入れ、魔法も少しだけ使えるようになった。

 その日のワタルは、スキップしたくなるほど心が満たされていた。

 異世界生活、至って順調だった。

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