初の戦闘

 あれから街に転移された渡は、街を探索することにした。

 服は学生服からこの世界に合った服に変わっており、目立つことはなかった。文字や言葉も女神がそうしてくれたのか、渡にも理解できるようになっていた。

 何やら巨大な城が街の中央にあり、近くの人に聞くとこの街は王都だという。なんしても、まずは生きるために金を稼ぐ手段を見つけることにした。

 街の人々に色々と聞いてみたところ、おすすめは冒険者になることだ、とのことなのでギルドへと向かった。


 ギルドに入ると、受付のお姉さんからキルドについての説明を受けた。

 ギルドに登録することで、ギルドから様々な依頼を受けることが出来る。依頼は難易度に応じて報酬金も上がるシステムだ。

 ギルドに登録すれば他にもカードを発行してもらえ、そのカードには自分のステータスやスキル、魔法などの情報が書かれているらしい。別にカードがなくても魔法などは使えるらしいが、カードがあれば自分が何が出来るか一目瞭然だということだ。

 もちろん他にアテのない渡はギルドに登録し、名前もこの世界は横文字が多いらしいので、ワタルと変えて登録した。

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ワタル Lv.1


ステータス

筋力:82

技量:21

敏捷:56

耐久:71

魔力:12


スキル

女神の加護

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 これがワタルの初期ステータスだった。

 50が平均値らしいので、技量と魔力以外は平均より上ということになる。

 現実世界ですることもなかったので軽くだが筋トレをしていた成果か、筋力と耐久はそれなりだった。

 技量と魔力は低いが、技量は武器など扱うことがなく、魔力は魔法など使ったこともないので低くて当然だろう。

 ちなみにステータスには上限がないらしく、受付のお姉さんの話ではLv.150を超える人もいるのだという。


 それよりも、気になるのはスキルだ

 このカードには魔法が使われているらしく、スキルをタッチすれば詳細が分かるようになっている、と受付のお姉さんに聞いたワタルは、早速スキルをタッチしてみる。

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女神の加護

女神からの加護により、魔族からの状態異常攻撃に対する絶対体制を獲得する

また、魔物や魔族が集まるようになる

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 詳細を見たワタルは、思わず頭を抱える。


「あの、大丈夫ですか?」

「大丈夫です……ちょっと頭痛がしただけですから」


 心配してくれる受付のお姉さんにそう言うと、ワタルは深呼吸して心を落ち着かせる。

 あの女神は一見優しそうに見えるが、絶対にドSだ。ワタルは心の中で女神に文句を言うと、受付のお姉さんにお礼を言って掲示板を見に行く。


 掲示板には依頼の他に、パーティ招待なども載っている。

 効率や安全性から冒険者はパーティを組むことを推奨されているのだが、人の輪に入ることのできないワタルには難しい。よって、ワタルはソロで冒険をすることになった。

 掲示板を見てワタルが選んだ依頼は、薬草集めだった。薬草は常に需要があり、薬草集めの依頼はなくなることはない。

 薬草を集めて受付に渡せば、その分のお金が貰える。薬草は王都近くの森の浅い所にあるので、魔族も居らず安心だというのも決めた要因の一つだ。

 まだ武器の扱いなど触る程度なため、魔物の討伐は当分先にするつもりだった。


 薬草集めの依頼は受付に受けることをいう必要はないため、ワタルはギルドから出て王都の入口へと向かう。

 途中で住むところをどうしようか考えながら、ワタルは森へと向かっていく


***


「これでよし、と」

 ワタルがギルドを出てから数十分後、受付のお姉さんが掲示板に貼り紙を貼る。

 貼り紙は目立つように掲示板の真ん中に貼られ、そこには大きな文字でこう書かれていた。

《現在、森でデスペリアスライムが発生中。冒険者は近づかないように》


***


「結構歩いたけど、ここで合ってるね」


 王都から歩くこと2時間、薬草が生えているであろう森が見えてきた。

 ワタルは辺りを警戒しながら森の中へと入る。周囲には人の気配はない。


「もっと人とか動物がいると思ってたけど、意外と静か……」


 近くで薬草を摘みながら、ワタルは段々と奥へと入っていく。

 それまでに他の冒険者などに会うかと思っていたが、不気味なほどに誰にも会わない。それどころか、物音一つしておらず、森は静寂に包まれている。


「ちょっと怖いし、そろそろ帰ろうかな」


 そんな状況に不気味なものを感じたのか、ワタルは帰ろうと準備を始める。いつの間にかかなり奥まで来ていたようで、入口は見えなくなっていた。

 幸い、入口の場所を忘れるようなことはなく、ワタルは森の入口への歩を進める。

ーーペチャッ、ピチャッ

 そんな音が聞こえたのは、ワタルが少し歩いてからだった。


「水の音……にしては大きいよね」


 その音は水が滴り落ちる音に似ていたが、明らかに質量が違う。それに、この森で水辺は見ていない。

 なによりも、その音はゆっくりとだが、こちらへ向かってきていた。音は前後からで、下手に左右に動くと迷いかねないためワタルは動けなかった。


「魔物……逃がしては、くれないよね」


 心の準備もできないうちに、その魔物は姿を現す。

 その魔物は動く度にプルプルと震え、顔と呼べるものは存在していない。大きさは50cmほどで、数は前に3匹後ろに2匹だ。

 だが、1番目を引いたのはその色だった。血のように赤黒く、ワタルはその姿に思わず1歩後ずさる。


「いや、これもしかしてスライム?」


 その色合いに後ずさってしまったワタルだが、改めてその姿を見て安堵する。

 この魔物は現代でいうスライムに瓜二つで、むしろ愛らしく思い始めていた。

 そのスライムはそんなワタルの心境など知るはずもなく、正面の1匹ざ飛びかかってきた。


「うわっ!? こっわ!」


 そのスライムの攻撃は、ベチャッという音と共にワタルの盾に防がれる。女神から貰った盾は丸型のコンパクトなもので、ワタルにも楽に扱えた。

 盾に当たってべチャリ、と床に落ちたスライムに、腰の剣を引き抜き突き刺す。

 すると、それだけでスライムは絶命したのか、動かなくなり溶け始めた。


「……弱くない?」


 敵をあまりに楽に殺せたため、ワタルは思わずそう言葉を零す。疑り深くそのスライムが溶けるのを見ていたが、スライムはそのまま跡形もなく溶けてしまった。


「勝てる……かな」


 それでよくやくワタルも納得したのか、残りのスライムに目をやる。

 残ったスライムたちは知性があるのか本能からなのか、ワタルを取り囲むように四方に散らばっていた。

 そして、4匹のスライムがワタルに向けて一斉に飛びかかる。


「それはきついって! このっ!」


 四方からの攻撃に対する手段などワタルが知るわけもなく、右手の剣を体ごと回転させて振り回す。

 素人の剣技のため人間相手には簡単に避けられるだろうが、相手は愚直なスライム。

 ワタルの攻撃は見事に4匹のスライムを斬り、ワタルに飛びかかる途中でスライムたちは溶けていく。

 その際に溶けていくスライムの破片がワタルへと飛び散るが、すぐに溶けたため気にはならなかった。


「あー、もう! 素材も何もないし散々だよ」


 大声でそう叫ぶと、ため息をつきながらワタルは元来た道を戻っていく。

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