リザードが占拠する村 下
ガルシアのように水を周囲に漂わせることが出来る人間か。
一瞬で全てを凍らせたら無力化できるかもしれないけど、今の状態では無理ね。
セレナも光の剣や槍を作って攻撃してるけど、全部あの水で受け流されてる。攻撃してこないのは受け流すのに集中しているからでしょうけど、防衛という点では満点の働きね。憎たらしい。
「レーネ、加減は無しだ!」
「ええ、分かってるわ!!」
セレナも新しい武器で本気を出すようね。どっちが先に相手を倒すか競争よ!
「どれだけの攻撃を受けても私の衣を排除することは出来ない」
「貴女の相手が私であったことを恨みなさい。『零剣』」
「あなたの冷気でも私の衣は凍らない」
「その余裕がいつまでもつか……試してあげるわ!」
触れた箇所から凍りつくけど、すぐに熱湯で溶けてしまう。凍れば溶け、凍れば溶けの繰り返し。
でも、少しずつ遅くなってる。それはそうよ。
水を宙に浮かべるだけでもそれなりの魔力を使うのに、そこに熱を加える作業まで増えたら長時間の展開なんて不可能。
それこそ、私達の先生くらいなら出来るかもだけど、この子では不可能ね。
「ほら、どんどん遅くなってるわよ!」
「ぐっ………仕方ないか」
笛?今更それで援軍か、魔物でも呼ぼうって?
そんなことをしたところでもう手遅れよ!
「セレナ、一気に畳みかけるわよ!」
「任せ――待て! 村からリザードが大群で向かって来ている!」
「はぁ!?まさか、その笛で呼んだのはリザードだって言うの?」
「そうとしか考えられん。レーネはリザードの殲滅を。私がこいつを仕留める。『極光』」
「分かったわ! 咲き誇れ、『雪月花』!!」
村から全てのリザードがこっちに向かって来てると考えるべき。
数はだいたい百少々。調査も兼ねてるから一体は残すと考えて全力は駄目ね。
それに、セレナの邪魔はさせないためにも、広範囲凍結が最適解!
「恨みはないけど死んで頂戴。『凍てつく薔薇の園』」
「いいの?彼らを殺してしまって」
「それはどういう意味だ?」
「言葉通りよ。彼らは巻き込まれただけの人間。あなたたちは自国民を軽々に手にかけて何とも思わないの?」
「リザードが自国民?馬鹿馬鹿しい。奴らは魔物だ。手にかけることに何の躊躇いもない」
「ふふっ……ええ、そうね。彼らはリザードね。でも、数時間前まではただの人間だったのよ?」
「「!!?」」
「マスターの実験でリザードに変異したけど、元は人間。そんな哀れな彼らを、あなたたちは一切の躊躇いもなく殺すの?」
アレが、元は人間ですって?
そんなこと、信じられるはずがない! どうせこの子の嘘よ!!
「セレナ! こっちは任せて、さっさとその子を倒しなさい!」
「あなたも、こっちに気を取られてると死ぬわよ?」
「はぁ?――なっ!?」
手加減せず凍らせたはずなのに、なんで動けるのよ!!
熱い……熱?まさか、鱗に熱を持たせて氷を溶かしたっていうの?
「相性最悪ね。これじゃあ凍らせることが出来ないじゃない」
「……レーネ、代わろう。僕が彼らの相手をする。君は彼女を」
「まあ、そうなるわよね。……まさか、手加減するなんてことないわよね?」
「僕がそんな人間に見えるかい?」
まぁ、セレナに限ってそれはないわね。躊躇なんてありえない。
私は私で、この子に集中しないと。
「私との相性も最悪でしょ?」
「リザードよりはだいぶマシよ。『氷柱槍』」
「っ! ……凍らないなら刺し殺そうって?怖い怖い」
「ならこれは?『雪崩吹雪』」
「これは…!!」
凍らないなら凍るまでぶつければいい。
二点から挟み込む形で吹き降ろす吹雪。その圧力は雪崩のように、受ける者をその場から動けなくするほど。
「この程度でっ!!」
「高温の水蒸気にして吹雪を防ぐのね。でも、それは悪手よ?」
「はぁ、はぁ……んっ!!」
地面から現れた氷柱を避けようとして水蒸気の外に手を出してしまったみたいね。左腕が凍ってる。
「その腕でまだ続けるの?」
「うゔっ…!!」
もう二度と使えないわね。すでに壊死してしまってる。
投降は……するつもりはなさそうね。
「こ、この程度で…!!」
「諦めなさい。その腕はもう使えないわよ」
「なら、切り捨てるだけ! ――ん゛ん……はぁ、はぁ……」
「躊躇しないのね。でも、だからって手加減はしないわ――まだ伏兵!?」
「――リン、退くよ」
「リュナ!?」
「ここは放棄していいって、マスターからの指示よ。急ぎなさい」
「了解!」
「行かせると」
「――邪魔」
背後からも!? これは避けられ――
「やらせん。まだ決着は付いてないぞ?」
「知らない。私達は帰らせてもらう」
「逃がすとでも?」
「逃げ切るだけ」
「私がいることを忘れてもらっては困るわ!!」
「――それは驕り」
「よそ見か?」
危なかった……。完全に不意を突いたつもりなのに即座に迎撃されるなんて。
先生がいなかったら死んでた。
「チッ……あなたは苦手だ」
「逃げるのは上手だが、それだけだ」
「まともに攻撃を当てられない奴に言われたくない」
「なら、まずは一撃だ」
「?……っ!! ――怖い怖い。まさか、リンの水を利用するなんて」
「掠っただけか。仕留め損なった」
リンと呼ばれた子の周囲に浮いていた水が突如、先生と闘っていた相手に槍となって襲い掛かった。普通はあんな芸当出来ないと思うんだけど……。
「リン、アレを」
「え?でも、それじゃあ実験が……」
「構わない。やれ」
「……了解」
何をするつもり?煙幕!?――また笛を吹いた!
「先生!」
「仕方ないか。レーネ、今回は見逃すぞ。セレナの支援だ」
「了解です!」
煙が晴れると、そこにはすでに敵の姿はなかった。
私にもっと力があったら……
「反省は後だ。今はこの状況を切り抜ける」
「はいっ!」
暴走状態のリザードの群れを残らず殲滅し終えると、団長が林の中から現れた。
いつ使い魔がやられたのかは知らないけど、ここから王都まで片道二日くらいはかかる距離だから、かなり急いで来てくれたことはわかる。
「遅かったか。無事でなによりだ」
「敵を仕留め損なった。面目ない」
「気にするな。全員が無事ならそれでいい」
「団長、申し訳ありません。私が足を引っ張ったばかりに……」
「力不足でも生き残ったんだ。後悔と反省があるのなら、戻って鍛え直せばいい。生きている限り負けではないのだからな」
「団長。村のリザードは……」
「分かってる。村人だったんだろう?使い魔を消された時に気付いた。このことは国王に報告するが、気に病むことはない。やらなければやられていたのだから」
今回はみんながしてやられた。
私とセレナは二人掛かりでも敵を仕留めることが出来ず、先生は敵を前にして逃してしまった。
そんな私達を団長は気遣ってくれてるのだと思う。
「戻るぞ。他のところの状況も気になる」
おそらく他の場所でも接敵したのだと思う。
ここだけでなく、他の場所も実験場にしようと目論んでいたのか。
それは分からないけど、事態が大きく動き始めてることだけは確かね。
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