幕間 会議室の外

“ おい、あれってまさか……”

“ ああ……「穢れなき宝刀」のガルシアだ。すっげえ美人だな!”

“ それにあっちは「聖騎士」のセレナだぞ!”

“「幻想奏者」のカルネもだ!誰か話しかけろよ!”

“ 失礼、ちょっと通らせてもらえるかな?”

“ あ?お、おう……”


「失礼。『秘密の花園』所属のセレナ、ガルシア、カルネで相違ないか?」

「そうですが、何か?」


“ おい、あいつらこの国の貴族様の顔を知らねえのか?”


「私はフォウルス家のリーゲルト」

「俺はネルスハン家のラスタル」

「ワタシはクラウスデル家のバルギャンです」

「はあ……それで、何のようですか?」


 ガルシア、セレナ、カルネの三人は表情にこそ出さないものの、面倒くさいという態度を雰囲気で出していた。ガルシアに至っては、内心イライラしているのが目の鋭さに表れていた。


「これからお茶でもどうだ?」

「いえ、結構です」

「……そ、そう言わずに。先程の会話を聞いていたよ。御前会議が終わるまでは暇なんだろう?なら、一緒にお茶でもしないか?」

「ですから、結構です。我々もある程度事前に予定を決めていますので、これから各自で自由に行動するつもりなのですよ。ですので、申し訳ないですがお断りさせてもらいます。セレナ、ガルシア、行きますよ」

「…………」


“ おいおい、フォウルス家、ネルスハン家、クラウスデル家と言えば、この国の有力貴族だろう?”

“ あんな態度じゃあ目を付けられちまうんじゃねえか?”

“ 大人しく言う事を聞いていればよかったのに……”


「――おい貴様ら。誰の許しを得て俺の前から動いている」

「私達の判断ですが?」


 カルネは渋々ではあるものの反応したが、ガルシアは振り返りもしていない。セレナは顔だけ向けていた。


「貴様ら平民如きが! 貴族である俺達の言う事が聞けないと!?」

「貴族であろうとなかろうと、我々に命令出来るのは団長のみです。他の者に命令される筋合いはありませんし、そもそも不愉快です。何様のつもりですか?」

「貴族様なんだろう?まあ、ここまでの七光りは見たことが無いけど」

「どうでもいいわ。さっさと街に行きましょう?時間の無駄よ」


 ガルシアは今にも歩き出そうとしているが、カルネとセレナを置いて行くつもりはないので待っている。男たちには一切見向きもしないで。


「貴様ら戦うだけしか脳の無い者たちにはわからんだろうな! 我々がどれだけ心を砕いて平民のために働いているのかを!!」

「働いているのは親であって君じゃないだろう?」

「言ったところで意味はないわよ。親の権力を笠に着て生きている七光りには、何を言っても聞かないから」

「用事があることですし、なにより団長に迷惑をかけるわけにはいきませんから、さっさと街へ行きましょう。時間は有限ですからね」


 カルネが歩き出したのを確認して、ガルシアとセレナは先を行く。


“ 正気か、あいつら。この国の権力者に楯突くとか。”

“ 王国一のギルドだからってお高くとまってるんだろ。”

“ あ~あ、終わったな。”


 三人を憎々しげに見送るラスタルは、最後まで吠え続けた。


「……貴様らのギルドを潰してやるからな!!」

「そうですか。出来るものならどうぞ。ただ、一つ忠告しておきますと、我々に手を出そうものならあなた方はここにいられなくなるでしょうね」

「無駄だよ。どうせ彼らは理解できないのだから」

「そんなことより、早く行きましょ。じゃないと本当に時間が無くなってしまうわよ?あの御店はすぐに売り切れるんだから」

「忘れてました。みんなの分を買って帰らないといけないんでしたね」

「ではな、愚か者の貴族様?」


 今度こそ話は終わりとばかりに三人は歩き出した。この後の予定について話し合っていた。まるでさっきまでのやりとりなどなかったかのように。

 

“ 舐めた口をききおって!覚えていろ!!必ず天罰を下してやるからな!!!”




 王城を出て街へと向かっている道中、三人は先程の出来事について話していた。


「はぁ……本当に理解していないのね」

「我々に手を出せばどうなるか」

「馬鹿の相手はしないに限ります」


 三人は、彼らに対して憐みを感じさせる溜息を吐きだした。

 ただ、ガルシアの目はすぐに鋭くなった。


「それに、体目当てでずっと見ていたことに気付かないと思っているなんてね」

「だから嫌いなんだ。女は自分を輝かせる飾りと思っていたり――」

「貴族である自分のモノになるのは当たり前と思っていたり――」

「上から目線で全てが自分の思い通りになると思っているところが我々は大っ嫌い。その点、団長が我々に求めるのは、大きな怪我もなく任務を達成して帰ってくることのみ」

「成果には相応の報酬をくれる」

「団長にとって喜ばしいことであれば褒めてくださいますね」


 初めは不愉快そうな表情を浮かべていたのが、段々と団長の話へと変わり始めるとともに表情が柔らかくなる三人。若干幸せオーラを出し始めたため、周りの人間は奇異の目を向けながら通り過ぎている。


「やはり、結婚するなら団長に限るわ」

「その前に戦争だ」

「団長は譲りませんよ?」


 話が進むと、今度は笑っているはずなのに和やかな雰囲気からはかけ離れた冷たさ、緊張感を感じる空間が三人の周囲で出来ていた。

 近くにいる人々は本能的に顔を背けて通り過ぎて行く。


「ふふっ……こんなことをしている場合じゃなかったわね。行きましょう?本当に無くなってしまうわ」

「この話は帰ってからしっかりと話し合わないといけないな」

「またですか?どうせ決着は付きませんよ?」

「今度こそ、団長に介入される前に決められるといいわね」



 彼女たちが通り過ぎた場所では、そこにいた人達が気付かれない程度にそっと堪えていた溜息を吐き出していた。若干蒼褪めていたのは仕方ない。

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