第2話:変わらない君、変わってしまった自分
恋を自覚してから達也はすっかり変わってしまった。
今までうまく抑えられていたこの感情も、どうやら昨日の一件でぶり返してしまったようだった。
それを見た達也も、わざわざ昨日のことを掘り返して気まずくはなりたくなかったので彼女に倣って何事もないように振る舞った。次の日も、さらにその次の日も同じだった。そうして一週間の時が経った。
とはいえ、一緒に通学しているのが自分の好きな人であることを意識せずにはいられなかった。
達也は朝食のトーストを食べながら未来の迎えを待っていた。
今まで毎日未来と一緒に登校しているはずなのに、なぜだか緊張してしまう。もうすぐ彼女が迎えに来る。彼女が俺の家のチャイムを押す。そんな姿を想像するだけで朝食もうまく喉を通らなくなった。
彼女に好きな人がいるとわかったからだろうか。まるで初めて未来に会ったとき、どのように彼女に接すれば良いのかわからなかった昔のような心持ちであった。そんなことを考えていると、未来がやって来たようだ。
ありふれたチャイムの音が玄関からリビングに向けて響いてくる。
達也は慌てて立ち上がりインターホンの受話器を取ろうとしたため、テーブルの足に小指をぶつけてしまった。
「はい」
達也は痛みを堪えながら応答した。
「達也くん? おはよう、迎えに来たよ」
「ああ、すぐに行くから待ってて」
達也は早速リビングに戻り、先ほどまで自分が腰かけていた隣の椅子に用意していた鞄とコートを掴むとすぐに外へと向かった。
玄関のドアを開けると、白いコートに身を包み、チェック柄のマフラーを巻いた彼女が寒そうに両手の平を擦り合わせて待っていた。達也の姿を認めると、「おはよう」と言って少しはにかんだ。それだけでとくんと心臓が大きく跳ねた。
達也も「おはよう」と応えようとしたが、舌が回らずうまく言えなかった。そんな彼を見た未来は「あはは、変な達也くん」と顔を綻ばせた。恥ずかしかったが、この笑顔見られたならよかったかな、と彼は思った。
二人並んで通学路を歩く。その道中、話すときもあれば話さないときもあるが今回は後者であった。
達也は時々ちらりと彼に連れ立って歩く未来を横目に見る。黙々といつもの道を歩いていた。普段見せる陽気な姿と比べると、まるで別人のように見える。彼女は、まるで凍った滝のように意外性を孕んだ清らかな美しさを醸し出していた。
思わず見とれていると、視線に気づいた未来と目が合う。思わず顔を逸らした。もうしばらく彼女に自分の顔を見せられない。真っ赤になった相貌が隠したい何かを明るみに晒してしまうかもしれないから。
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