第6話 マジンゾクの人とも仲良し?
それからも毎日マジュウ達のお世話をする事になったんだけど、皆とても良い子にしてくれて、僕がしてあげられる事なんてあんまりなかった。
お手をすれば大体手を出してくれるし、用意したご飯は好き嫌いなく残さず食べてくれる。それでちょっと食べすぎたかなって時は、運動不足解消の為にかけっこをしたり、ボールを投げたりして遊ぶんだ。
他のマジンゾクの人たちはおっかなくて近づけないとか、目が合うだけでも死んじゃうとか言ってるけど、全然そんなに怖い感じじゃないのに。皆も一緒にお世話したり、遊んであげればいいのに、どうして避けるんだろう。
マジュウってどんな動物なのかなって最初は思ってたけど、他の動物とちょっと姿が違うだけで皆良い子ばっかりなのになあ。
そんな事をアイリスちゃん……じゃなくて魔王様達に言えば、「お主の方がおかしいんじゃ」「お前が特殊なのだ」って、言われたけど別に普通にしてるだけなのになあ。
「ほら、ポチボールだよ! えいっ、とってこーい」
「クーン、ワンワンッ、バウ……ッ」
今は皆でボールを使って遊び中。
ずっと小屋にいたら皆が退屈しちゃうだろうから、ギューブさんにお願いして出してもらったんだ。魔王城のお庭はとっても広いから、マジュウ達を全部出してものびのび遊べてとってもいい場所。
「まさかとは思ったが……。ほ、本当にケルベロスのポチが子犬の様にボール遊びに興じておるとは……」
「魔王様、お気を確かに」
「いや、どうしてもおらん。童は魔王なのじゃ、これくらいで動じてたまるか」
「しかし、奴の評価を改めなければならないかもしれません。これほどの数の魔獣が一斉に暴れでもしたら城の軍は壊滅的な打撃を与えかねられません」
「お、恐ろしい事を言うでないっ」
離れた所でシツムの息抜きとか言う物をしているアイリスちゃん達は、何だかとても難しそうな顔で傍にいるギューブさんと話し合ってる。
シツムっていうのは詳しくは知らないんだけど、僕には読めない難しい文字が書かれた紙束と何時間もにらめっこしてなきゃいけない仕事らしい。
そんな事してたらとっても疲れちゃう。僕だったらきっと一時間も耐えられないだろうなあ。
よし、ここはアイリスちゃんの為に、息抜きができるように遊びに誘ってあげよう。
「アイリスちゃーん、一緒にあーそーぼー!」
「だから童はアイリスちゃんではないと言っておろうが」
あ、忘れちゃってた。アイリスちゃんはちゃんとアイリスちゃんなんだけど、魔王様っていう呼び方が他にがあるから、魔王城ってところではそう呼んであげなきゃいけないんだった。
何でも上に立つ者のヒンイとかカンロクとかいうものを出すために必要な事なんだって。
「まったく、仕方ないのう。ちょっとだけじゃぞ?」
それでも手招きして呼んだ魔王様は、頬を膨らませながらもちょっとだけ嬉しそうにこっちに来てくれる。やっぱり遊びたかったんだ。誘ってあげて良かった。
「ポチ達がね僕の友達とも一緒に遊びたいっていうからアイリスちゃんもボール投げてあげてよ」
「と、友達!? 図が高いぞノゾミ。童を何だと心得ておる。童はこの魔王城の主で、魔人族の頂点に立つ魔王であるぞ!!」
「うん、すごいねー。それってすっごく偉くて、強いんだよね。僕尊敬しちゃうな」
「そ、そうか? 分かれば良いのだ。分かれば」
「そんな凄いアイリスちゃんと友達になれて、僕はとっても嬉しいな」
「だーかーらっ、友達ではないと言うておろうがっ。しかも童は魔王様!」
真っ赤になって否定してくるアイリスちゃんは、なんだかとっても荒い息を吐いていて、ギューブさんに「魔王様、威厳をお忘れにならずに」なんて言われてる。どうしたんだろう。アイリスちゃんって時々こうなっちゃうんだよね。僕、変な事言っちゃってるのかなあ。
「落ち着いてください、こんな所を他の魔族に見られたら幻滅されますよ。ご両親だって、貴方様には立派な魔王様でいて欲しいと願っておられるはずです」
「そ、そうじゃな」
こほん、と小さく咳払いした魔王様は、深呼吸して落ち着いてから僕の方にじと-っとした目を向けて来た。
「うむ、童は魔王。寛大で寛容であらねばならぬ。下の者の事にいちいち目くじらを立ててはキリがないしな。ノゾミはちょっと物分かりが、いや……頭の出来が残念……ではなく天然だったから仕方あるまい」
何度か言い直されちゃったけど、よく分かんなかったや。
とりあえずは怒ってないよって事で良いのかな。
「ノゾミ、先ほどの言葉じゃが謹んで辞退させてもらおう。残念だが魔王と普通の人間は友達にはなれぬのだ。王とはそういうもの。で、あろうギューブ」
「はい、おっしゃられた通りです」
え、そうだったんだ。知らなかった。どうしよう僕はアイリスちゃんと友達になりたいのに。
困ったな。
どうしたらアイリスちゃ……じゃなくて魔王様と友達になれるんだろう。
「童には魔人族を導くと言う崇高な使命があるのだ。その魔人族と敵対している人間と仲良くするわけにはいかん」
マジンゾクって人達と僕たち人間の仲が悪いって話は前々から聞いていたけど、友達になれないくらいだなんて知らなかった。凄くショックだ。
「だったら、僕はどうやったら魔王様と友達になれるのかな。ぼく、魔王様と友達になりたいのに……」
「いや、ノゾミ? だからどうやっても友達にはなれぬのだぞ? できない事で悩むとは……。何というかこの数日で分かって来たことじゃが……ノゾミらしいのう」
情報収集、っていうお仕事でアイリスちゃんとは良くお喋りしてるけど、魔王様だから友達になれなくて、だから僕とは普通のお話してくれないって事だよね。そんなの嫌だな。
僕は人間や魔人族がどういう種族とか何が得意とか、どんな生活をしているとかそう言う話じゃなくって、僕が好きな事とかアイリスちゃんが好きな事とかの話がしたいのに。
良い方法が思いつかなくて俯いていると、ボールの前で待て野ポーズで待機していたはずのポチがやって来て、元気付けるかの様に僕の手をなめてくれた。
「僕、人間だからアイリスちゃんとずっと仲良くなれないのかな」
「それは……。む、むう……そこまで残念がるのか。そうだな。方法はない事もない、……と思うぞ?」
「ほんと!? 教えてアイリスちゃん」
魔王様、ではなくアイリスちゃんって間違えて呼んじゃったのに、魔王様は「アイリスちゃんではない!」って言わない。顔を赤くしたり、苦い物を食べちゃった様にしたりしながら、口をもごもごさせたままだった。
さっきまで暗い気持ちでいたのが嘘みたいだ。
魔王様の一言で、どよんとしていたのがどこかに吹き飛んでいっちゃった。
何か方法があるのなら、それはノゾミがあるって事だよね。
僕の名前と一緒だ。
望っていうのは願いって意味があって、やりたいって思った事が叶うようにっていう時に使うんだって。
だから僕のお母さんとお父さんは、子供が欲しいって願いが叶ったから僕に望って名前を付けたんだ。
アイリスちゃんの名前にはどんな意味があるのかな。
友達だったら、そう言う事も聞いて良いんだよね。
いいなあ。
友達に早くなりたいな。
「アイリスちゃん」
「ふにゃっ!?」
ぎゅっとアイリスちゃん……じゃなくて魔王様の手を握れば、話す気になってくれたみたいだった。ちょっと変な声が出ちゃってたけど、えっと……驚かせちゃったかな。
「う、うむ、そこまで言うなら仕方あるまい。……それはな……」
でも様子が何だかおかしい、そわそわしてて落ち着きなくギューブさんの方を見たりこっちを見たり。
隣に立ているギューブさんが、はっとしたような表情で「まさか」と何かを言いかけるんだけど、魔王様が口を開く方が早かった。
「魔人族を率る魔王としては友達になれなくても、アイリスとしてなら、たぶん大丈夫かも……しれぬぞ?」
そういうわけで、実はどういうわけかよくは分からないんだけど、僕とアイリスちゃんと魔獣達は魔王城を出てピクニックに行く事になりました。
えーと、本当にどういう事なんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます