第2話 これから頑張るぞー
牢屋っていう所に連れてこられて半日ぐらいが経過したみたいだ。
みたいっていうのは、ここには窓がないから、お日様の様子とか外の様子が分からないから。
「いま夕方くらいかなあ」
抱えられて色々な所を移動していた時に窓から見えた景色は真っ青の空で、お日様サンサンだった。
ここに連れてこられるときに男の人、ギューブさんに聞いたんだけど。
ここはどうやら魔王城というお城の中とらしい。
それであの部屋にいた女の子はこの魔王城の主で、魔王様なんだって。
魔王様って絵本で見たけど、すっごく強くて怖い人の事を言うんだよね。
僕と同じくらいの背で可愛くて、とてもそんな風には見えなかったけど、お母さんが人を見かけで判断しちゃ駄目だって言ってたし、怪しい人以外は疑っちゃだけよって言ってから、きっとそうなんだろうなあ。
よし、信じよう。夢の中で出会ったような気がするよく分からないお兄さんより、ギューブさんは怪しくない感じがしたもん。
それでね。
魔王様はマジンゾクっていう人たちの為に人間とセンソウをしてるみたいなんだ。
センソウは知ってるよ。たくさんの人達とケンカして、互いの譲れないものを懸けたケットウをしあったりする事なんだよね。
そんな人間達がやって来るのを、魔王様やギューブさんは追い払う仕事をしているんだけど、そんな時に人間がお城の中に人間がいたからびっくりしちゃったみたい。
大変な所に来ちゃったなあ。
世界にマジンゾクって人達がいるんなんて全然知らなかったや。
皆がそんな人達と戦争してるなんて事も。
僕の住んでる国は、センソウもないし、食べる事にも困らないヘイワな場所だって言ってたけど、他の国では違うんだなあ。
僕はどんな所にやって来ちゃったんだろう。
ちゃんとお家に帰れるといいけど。
でも、遠くにある場合はコウツウヒとかリョヒがかかるんだよね。
お小遣いはギューブさんに没収されちゃったし、そもそも全然なかった。困ったなあ。
「そういえば、センソウって危ない事するんだよね。あの子もするのかな? 怪我とかしなきゃいいな」
そんなことを考えていると牢屋に魔王様がやってきた。
「捕らわれの身で敵の心配をするとは、呑気な人間じゃのう」
「あ、魔王様だ。ねぇ、僕お腹すいちゃったけど、何か食べるもの持ってないかな」
「飴ならもっておるぞ」
「わーい、ありがとう。あむ……甘くておいしいね。くうふくは最高の調味料だって聞いたけど、本当だ!」
「うむ、そうじゃな」
魔王様がくれた飴を口の中で転がしながらそんな風に話をしていると、ギューブさんが何だか変な顔になってる。苦い物を間違えて食べちゃった時みたいな顔だ。
「魔王様、勝手に人間に餌を与えられては困ります」
「はっ、童としたことがつい」
牢屋に入れるって言った時は、ちょっとだけ意地悪そうで背伸びした感じの子だなって思ってたけど、食べ物をくれたし魔王様ってとっても良い人みたいだ。
「コホン、童は魔王じゃ、なめた真似をすると貴様の首をはねるぞ」
「ねぇねぇ、気になってたけど、魔王様って魔王っていう名前なの?」
「そんなわけなかろう。童にはれっきとした、父上と母上から頂いたアイリスという名前があるのじゃ」
「アイリスちゃんかー、可愛い名前だね!」
「そ、そうか?」
「僕の名前は
「ノゾミ、望みか……。う、うむ。お主の名前もなかなか良いな」
魔王様の名前はアイリスちゃんって言うみたいだ。
どんな漢字で書くんだろう。
昔と違って最近はキラキラネームっていう変わった名前が増えたって聞くから、名前を聞いただけじゃどう字を書くのか分からないってお母さんが言ってた。
あれ、でも日本じゃない外国だったらカクカクした漢字で書かなくてもいいんだっけ。だったら、困らないね。
「コホン、また何を慣れ合っていらっしゃるので? 魔王様……」
「はっ、しまった。またやってしもうた。ええい、人間め。ペースに乗せられてたまるか」
ギューブさんがなにやら再び苦い感じの顔になっていると、アイリスちゃんは真っ赤になてこっちを睨みつけてきた。
何か怒らせる様な事しちゃったかな。どうしたんだろう。
「知っておるだろうが、童たち魔人勢力は人間と戦争をしておる。だが、なかなかこれがしぶとくてな。一朝一夕では倒せない。そこでだ。敵を倒すにはまず敵を知らねばならぬ。そう思って、お主を生かしてやることに決めたのじゃ。人間と魔人は言語が違う故会話すら成り立たぬので、お主は飛んで火にいる貴重なさんぷるという奴なのじゃ。ありがたく思うのじゃ」
ほえー。
アイリスちゃんって物知りだなあ。
イッチョウイッセキとか飛んで火にいるとか、難しい言葉たくさん知ってるんだ。
でもそっか、外国とか遠くに住んでる人とかは言葉が違うから大変だって聞いた事があるから、知りたいって思って会話したくてもできないよね。
じゃあ、僕が人間の事色々教えてあげなくちゃ。
「童のこの寛大な処置を有難く思うが良い」
「うん、ありがとう。僕もアイリスちゃんのこと色々知りたいな」
本当に嬉しいなー。
アイリスちゃんが良い人で良かった。
だけど頭を下げてお礼を言うと、何でかそのアイリスちゃんはあたふた。
「あ、アイリスちゃんではない、魔王様と呼べ!」
「えー」
せっかく可愛い名前があるのに、アイリスちゃん……じゃなくて魔王様は嫌みたいだ。
残念だったけど、しょうがない。
人が嫌がってることはしちゃ駄目だしね。
「最低限の飯の世話もしてやるし寝床も用意してやる、しかしただで置いてやるほど童は甘くはないのだ、……じゃなくて、なのじゃ! ノゾミ。お前、お主には明日からポチの餌……じゃなくて餌係じゃ! しっかり励むのだぞ」
噛みながらも声を大きくして明日からの事を教えてくれた魔王様に、僕も出来る限り、元気よく返事をする。
「うん、分かったよ。僕、頑張るね!」
魔王様はなんていい人なんだろう。見ず知らずでいきなりやってきた僕にご飯を食べさせて眠る場所も用意してくれるなんて。
ここに置いてくれる魔王様の為にも精一杯頑張らなきゃ。
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