異世界行ったらポチ(ケルベロス)の餌

仲仁へび(旧:離久)

第1話 見知らぬてんじょーだ!



「あー、君ねー。事故で死んじゃったんだよねー。予定にない感じでばっと。だからお兄さんが転生させてあげるよ。あ、オマケとかしちゃうよ? 運命管理がなってなかったこっちの不備だし。君は……ふむふむ動物好きかー。じゃあ動物に効果のある加護をあげよう。そっちのポチ君は……へー、なるほど。なかなかの忠犬じゃないかい。よし、君には世界の理を超えたあらゆる犬っぽい動物の持つ最強の技を授けよう。チート力をプレゼントだ」


 白い空間。

 目の前にいるのは、近所にいそうなお兄さんが一人だ。


 僕とポチはお兄さんの難しい話を大人しく聞いてるんだけど。どうしてこうなったんだっけ。


 確か、ちょっと前までは普通に散歩してたはずなんだけどなぁ。


 とりあえずこうなるまでに何があったのか、ちゃんと思い出さなきゃ。






 えーっと、確かあれは……。

 我が家の愛犬で家族の一員のポチ(柴犬、三歳オス)、の散歩をしているときの事だ。


 一緒に町の中を散歩してたんだ。だけど、その日は雨が降ってたから傘を差してたんだよね。片手でポチのリードを持ってたんだけど、歩いてた道端に生えてたお花さんがとってもきれいだからちょっとだけ眺めよう思ったんだっけ。


 でも、思いのほかじっくり集中しちゃってて、気がついたら傍にポチがいなくてびっくりしたんだ。

 知らない間にリードを話しちゃったみたい。


 心配したけど、すぐポチは見つかった。

 くーん、くーんって鳴いてて、誰かが落としたもの(ハンカチかなにかみたいだった)を拾ってる最中だった。


 勝手に離れちゃ駄目だろ。って普通なら叱る所なんだけど、落とし物を見つけちゃったんなら仕方ないよね。

 僕はポチを誉めてあげようと思って、名前を呼びながら走ったんだけど……。


 その途端遠くから猛スピードで車がやって来たんだ。

 わ、ぶつかっちゃうって思ったらポチがこっちに飛び出してきて……。


「ポチ、駄目だよ、戻って!」


 それで、こんな所に来ちゃったんだ。

 一体どうしてだろう。


 傍にいるポチを見下ろすが、ポチもよく分かってないのかクーンと不安げに鳴いている。


 小さな頭をよしよししてあげてると、知らない間にお兄さんのお話は終わってしまったようだ。

 あ、ちゃんと話を聞いてなかった。

 人の話はちゃんと聞かなきゃ駄目だってお母さんに言われてたのに、良くないね。気を付けなくちゃ。


「……と言う事で、君はこれから別の世界に行くんだ。不幸な事故だったけど、どうかこれからは前向きに生きて欲しいなー」

「えっと、よく分からないけど、頑張るよ。それでお兄さんの名前なんて言うの?」

「今更それ聞く!? 俺の話聞いてた?」


 ごめんなさい聞いてませんでした。


「まあいいや、どうせこの空間でのやりとりは忘れちゃうし」


 え、そうなの?


 やりとりっていうのは、確かえーっと会話した内容とか、行動した事って意味だよね。

 ここで話した事とかやった事、忘れちゃうんだ。それは困っちゃう。

 お兄さんとお話した事とか、ポチを撫でた事とか……。

 あれ、でもそんなに困らないかなあ。


「まあ、そういうわけだから、プレゼントの確認もできたしこれから頑張ってね」


 混乱していると、お兄さんが手を振ってさようならをし始めた。

 するとだんだんと景色が白いもやもやに包まれていって……。


 どうしてだろう。段々眠くなってきちゃった。





 そして、僕は知らない場所で目が覚めた。

 とっても豪華なお部屋の中だ。


 きらきらピカピカしたのがたくさんあって、細かい模様が付いてたりつやつやした表面のタンスとかテーブルとかがあって、絨毯はふかふかですごく柔らかい。


「人間めが、童の城に侵入するとはどういうつもりなのじゃ」


 周囲をキョロキョロしていると、女の子の声がしてびっくりした。

 背中の方だ。

 振り返ると、目の前にはドレスを着たとっても可愛い女の子。

 キラキラつやつやした服を着てて、絵本で見る王女様みたいなんだ。


 でもちょっぴり変。

 頭の両側に黒い角がくっついてるんだ。

 変わったお洒落かな。


「あやしい。あやしすぎるぞ、人間」


 女の子はこっちを見ながら周囲を三回ぐらい。ぐるぐるぐる。


 穴が開きそうなくらいじーっと見つめた後は、部屋の扉の方を向いて大声を出した。


「ギューブ! 参れ!」

「何用でしょうか、魔王様」


 すると、扉を開けて背の高い男の人が部屋に入って来たんだ。

 それで、さっさっさとこっちまでやって来る。

 足音が全くしないのが凄く不思議だった。どうやってるんだろう


「童の部屋に不審者が紛れ込んだのじゃ。いきなり目の前にぱっと現れおった」

「人間……、の子供の用ですね。戦闘能力はなさそうですが。いかがいたしましょうか」

「そんな事は決まっておる。人間は敵じゃ。こやつをとらえて牢屋に入れよ」

「はっ」


 女の子のはきはきしした言葉を聞いて、隣に立っていた男の人が動いた。


「無駄な抵抗はするな。その時は容赦しない」


 僕をひょいっと持ち上げて、どこかに連れて行こうとする。ひょっとして牢屋ってとこに向かうのかな。


「さっきまで、ポチと散歩してたはずなのに。一体、どうなってるんだろう」


 とりあえず。なされるがまま運ばれる事にした。

 考えるのに疲れちゃったや。


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