第33話 狭間

 アルセリアと孤児院に行った翌日。龍巳は訓練を再開するべく、その訓練メニューをオリバー、ライリーと相談しながら決めていた。


「それで、今日はどうするんだ?」


オリバーがまずは龍巳本人の意見を聞こうと問いかける。


「俺としては、引き続き『スキルの相互干渉』を検証したいんですけど、そろそろ新しいスキルを覚えないと続けられないんですよね」


 スキルの相互干渉を検証するには、スキルを使った後に別のスキルを覚えて再び同じスキルを使ったときにどう変化するかを見なければならない。そのため、新しいスキルを覚えることは検証を続けるには必須なのだ。

 すると龍巳の希望を聞いたライリーがこう提案した。


「それなら、また魔法師団の方にいって別の属性魔法を習ったら?」


属性魔法は魔法同士の派生で関係性が分かりやすいと考えたために出した案だった。

 一方で龍巳はライリーの案の有効性を察したのか、「確かに」と頷いた後にその提案を採用したのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 そして魔法師団の訓練場に来た龍巳なのだが、来てすぐにきょろきょろと周りを見渡したかと思ったらすぐにそれをやめて団員が集まっている方向に向かった。団員が集まっている場所は訓練場に入る前から見えていたため、龍巳の様子に違和感を覚えたオリバーが龍巳に問う。


「なあ、お前誰かを探してたか?」

「いえ?なんでそう思ったんですか?」


 オリバーにそう聞かれた龍巳は不思議そうな顔をして否定の後に聞き返す。


「いや、なんか不自然に周りを見渡したからよ。誰か探してるのかなって」


 そこで龍巳が「あぁ」と何かに気づいたような声を上げた。


「ちょっと、美奈がいるのかなって気になっただけですよ」

「ああ、あの勇者の嬢ちゃんか。あいつに属性魔法を聞くつもりだったのか?」

「いえ、別にそういう訳では......」

「じゃあなんで気になったんだよ」

「......何ででしょう?」

「いや、俺に聞くなよ......」


 すると突然、ライリーが痺れを切らしたように叫んだ。


「あー、もう!なんであんた達は揃いも揃ってそこまでニブいのよ!?」


唐突なライリーの叫び声にビクッと体を跳ねさせた龍巳とオリバーであったが、すぐに落ち着くとライリーに問いかける。


「おいおい、突然叫んでどうした?」

「というか、鈍いって何がですか?」

「だからタツミ!あんたがミナを探した理由よ!」

「え、ライリーさんは分かるんですか?」


 その言葉にライリーはその大きくも小さくもない胸を張りながら自信満々に答える。


「当たり前よ!私だって女なんだから、その辺りには敏感なんだから」

「ここでお前が女なのと何の関係があるんだよ......。まあいいや。それで、理由は何なんだ?」


そこでライリーが目を輝かせながらこう断言した。


「『恋』よ!」

「コイ?魚ですか?」

「コイなんて魚、知らないわよ!そうじゃなくて、恋よ、恋!『LOVE』よ!」


 はじめはライリーが何を言っているのか理解できなかった龍巳だが、その意味が頭の中に入ってくるととたんに頬が熱くなってきた。


「はい!?いやいや、俺は恋なんて......」

「無意識に姿を探しちゃうのが何よりの証拠よ。私だってよくオリバーを......ってそうじゃなくて!と、とにかく、あんたは恋をしているのよ」


 龍巳は美奈の姿を脳裏に思い浮かべる。

 地球で孤児院に誘ったときの目をキラキラさせた時の表情や子供たちと遊ぶときの表情、この世界でここを守ると決めた時などの表情が浮かび、鼓動が早くなるのを感じる。


(これが、恋愛感情ってやつなのか......)


 そう納得しそうになったところで、アルセリアの顔まで頭に浮かび上がってきた。

 召喚された時に見た泣き顔や、王女としての堂々とした振る舞い。孤児院で子供たちに魔力の使い方を教えている時の優しげな顔に、そこのシスター、エリーサを手伝っているときの生き生きしている姿などを思い出すと同時に、美奈の時と同じように鼓動がさらに早くなる。


(俺は、アルセリアも......?でも同時に二人を好きになるなんて、あってはならないことじゃないのか?)


 日本で育ち、一夫一妻が固定観念のようにこびりついている龍巳にとって、自分の気持ちが信じられない思いだった。


 そんな風に訓練そっちのけで頭を抱えて悩む龍巳のことを微笑ましそうに見ているライリーとオリバーが声をかけるまで、龍巳の悶々とした思考は続いたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 一方、イグニス王国の国王アルフォードの自室で、アルフォード本人とその息子、ジュールが二人で極秘の相談をしていた。


「それで父上、話ってなんだよ」

「ああ、とりあえずお前には伝えておこうと思ってな。これは私が密かに進めてきた計画なのだが......」


 そしてアルフォードがその『計画』の詳細を話すと、それを聞いたジュールは笑い声を押し殺しながら感想をこぼす。


「っく、くくく......そりゃいい。やろうぜ、父上。俺も協力は惜しまない」

「そう言ってくれるか。実はもう大臣の許可は取ってあってな。この前の一件で、さすがに無視できなくなったらしい」

「そうか、あの堅物がねぇ......。それなら安心だな。で、いつそれを伝えるんだ?」


 アルフォードはそこでニヤリと怪しい笑みを浮かべると、ジュールにこう伝えた。


「明日だ」

「明日!?また急だな......でもまあ、それもいいのかも知れないな。あ、そうだ。最後に聞かせてくれ。この計画は、なんだろう?」

「お前も気づいていたのか。まあいい、最後にするつもりだった確認もできたことだし、細かい調整に入るとしよう」

「おう!明日が楽しみだな」

「うむ」


 そして、王族の親子による相談は終わったのだった。

 

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