第26話 王子サマ

 龍巳と美奈が模擬戦をした翌日。

 龍巳はアルフォードに呼ばれ、昼にいつもの大広間に向かっていた。しかしいつもの呼び出しとは違い、隣には美奈と宗太の姿もあり、後ろからは三人の担当メイドがついてきていた。


「なんの用だろうな?」

「さあ?龍巳だけの時は愚痴を言うためなんだろ?」

「まあね。でも三人一緒ってことは別件だろうな」


龍巳と宗太が推測を話し合っていると、美奈が二人にヒントを提供する。


「あ、私、アルセリアからちょっとだけ聞いたわよ?なんでも私たちに紹介したい人がいるとか」


 そのヒントを聞き、龍巳は数日前にしたアルフォードとの話を思い出した。


「もしかしたら、王子を紹介するのかもな」


龍巳の言葉は、どうやら二人に衝撃を与えるには十分な威力を備えていたらしく、美奈と宗太は大声で驚きを顕にする。


「おうじぃ!?この国に王子なんていたのか!?」

「なんで今まで会わなかったのかしら?もしかして......引きこもりさん?」


美奈の推測に龍巳は笑ってしまうが、その答えもちゃんと二人に教える。


「いや、その王子は別の国に留学してたらしいよ?魔法学園とかいったかな」


 三人がそんな話をしていると、いつの間にか大広間についていた。

 扉を開いて中を見ると、予想通りアルフォードとアルセリアの姿の他にハンサムなナイスガイが立っていた。

 一応いつも食事を乗せているテーブルもあるにはあるが、まだ昼食をのせてはおらずそのテーブルの前にアルフォードたち三人は立っていた。

 龍巳たち異世界組が来たのを認めたアルフォードが口を開く。


「よく来てくれたな、三人とも。今日は紹介したい奴がいるから来てもらった」


 美奈がアルセリアから聞いた通り、人の紹介のために三人を呼んだらしい。

 そしてアルフォードが、ハンサムなナイスガイを指しながら話を続ける。


「こいつが私の息子で、この国の王子でもあるジュールだ」


 するとジュールと紹介された男が前に出て自己紹介を始めた。


「どうも、ジュール・マグダート・フォン・イグニスと申します。以後、よろしくお願いします、異世界の皆さん」


 その丁寧な態度に三人もそれぞれが自己紹介をする。


「これはご丁寧にどうも。私はタツミ・ヤサカと申します。こちらこそよろしくお願いします」

「俺はソウタだ。ソウタ・カヤマ。よろしく」

「私はミナ・イシキです。よろしくお願いします」


龍巳と美奈は内心、宗太が自分の名前を姓名逆に自己紹介するという心遣いができることに驚いていたが、なんとかその動揺を表に出さずに済んだ。

 三人の自己紹介が終わったところで、アルフォードがジュールに胡乱な目を向ける。


「おい、ジュール。なんだその口調は?気持ち悪いからやめてくれないか?」


それに続くようにアルセリアも兄に言葉を投げ掛ける。


「確かに気持ち悪いです。いつもの口調でも怒るような人たちではありませんから、安心してください」


アルセリアにしては辛辣な言葉に、異世界組三人はこの三人が家族であることを確信した。

 一方でそんな罵倒ともとれる言葉を投げられたジュールはというと、


「なんだよ!?せっかくの機会だからいい感じの人を演じてたのに!」


......完全にキャラ崩壊を起こしていた。まあ元々のキャラが作ったものであるから少し違うかもしれないが。


「ふう、まあいいや。じゃあ改めて、ジュールだ。よろしくな」


 纏う空気の変わったジュールの様子に、龍巳と美奈は「宗太に似ている人だな」という感想を抱き、宗太は何となく仲良くなれそうだと直感した。

 二回目の自己紹介を終えたジュールは、龍巳に興味深げな視線を向け始めた。その様子に龍巳は黙っていられず、ジュールに聞くことにした。


「あの、何ですか?」

「ああ、すまん。いやぁ、父上にあんたのことは聞いててさ。なんでも父上の友人になってくれたとか」

「ええ、まあそうですが」


龍巳のどこに不満を感じたのか、眉をひそめるジュール。


「タツミって、父上と話すときもその口調なのか?」

「ええと、違いますけど......」

「ならよ、俺の友人にもなってくれないか?この城でこんな感じに話せるのって父上とセリアぐらいでよ、いつも帰ってくる度に窮屈な思いをしてたんだ」


龍巳は特に断る理由もないと了承の意を示す。


「分かったよ。この口調でいいか?」

「おう!よろしく頼むぜ」


すると二人の会話に宗太と美奈も加わる。


「そういうことなら、俺とも友達になろうぜ!」

「あ、じゃあ私も」

「ああ、よろこんで!」


 四人がお互いに友達認定したところで、アルフォードが声をかける。


「よし、じゃあ親睦を深めるために共に昼食を食べようじゃないか」


そこにアルセリアが便乗する。


「いいですね!じゃあ皆さん席につきましょうか」


 そして皆が席につき始める。位置は王族と異世界組が三人ずつテーブルの両側に別れ、それぞれの中央にアルフォードと龍巳。龍巳の左隣には美奈が座り、その向かいにはアルセリアが。残りの位置には宗太とジュールが座る。

 その後、一度龍巳と美奈が食事について仲が良さそうに話しているところに少し不機嫌なアルセリアが乱入する場面もあったがそれ以外は特に問題もなく食事は進み、親睦もそれ相応に深まった。

 食事が終わると、アルフォードがまだ話があると異世界組三人を引き留めた。


「なんだ、アルフォード?」


龍巳がそう聞くと、アルフォードは申し訳なさそうな顔をした。


「実はな、一週間後にあるものを開くことになった」

「開く?何を?」

だ」


その言葉に龍巳の顔が苦虫を噛み潰したようなものになる。宗太も美奈も、しまいにはアルセリアまで嫌なことを聞いた、という顔をした。

 一応龍巳は、一縷の望みをかけてアルフォードに問う。


「ちなみに、その『お披露目』をするのは?」

「お前たち異世界人全員だ。」


その希望すら裏切られた龍巳はため息を吐いた。

 その時、美奈とアルセリアから避難の声がアルフォードに浴びせられる。


「なんで今さらお披露目会なんてしなければいけないんですか!?」

「そうです、お父様!なんでわざわざタツミ様を傷つけた人たちにお披露目をする必要があるんですか!」


するとアルフォードは詳細を説明し始める。


「一応、本当にお披露目をしたいのは召喚の儀の直後に謁見の間に居なかった者たちだ。前回は都合のつく貴族だけを呼んだが、その時に居なかった貴族たちから『勇者を紹介してくれ!』という注文が多くてな......。その者たちを招いてお披露目会をすることになった。これまではなんとか粘って来たが、もう一ヶ月だからな。さすがにこれ以上延ばせなかった」


そして美奈が問う。


「じゃあそこにあの時の貴族たちはいないんですか?」

「いや、そうしようと思ったのだが大臣に止められてな。ここで招かなかったらそれこそ不公平で不満が爆発する、と。それに、恐らく貴族共から来ていなかった貴族にもタツミのことは伝わっているだろう。マイナスな脚色が加えられて、だが......」


そこにさらに文句を言おうとした美奈であったが、龍巳に止められる。


「もういいよ、美奈。アルフォードもできるだけの事はしてくれたんだろう?」

「ああ、それはもちろんだ」

「なら、いつまでも前の事は引きずっていないで堂々としていようじゃないか」


 龍巳の心意気を聞いたアルフォードは、龍巳のことを貴族たちに認めさせるために考えた段取りを説明し始める。


「それで、その時にソウタ殿かミナ殿とタツミで模擬戦をやってもらいたい」


アルフォードの言葉に、宗太が反応する。


「なるほどね。それで勇者と対等だってところを見せるわけだ」

「その通りだ。貴族たちも心の中ではタツミを認めないだろうが、少なくとも表立って嫌みを言われたりはしないだろう」


アルフォードの提案に、美奈もアルセリアも納得したようで異論は挟まなかった。

 そしてそれに龍巳も乗り、この日の午後はその段取りの細部を詰めていくことで終わったのだった。

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