Ⅳ.魔のモノの眷属

 それでもオレは差し出された手を掴んだ。


 オレの食事と言えばゴミ箱を漁って得られる、所謂いわゆる“残飯”。

 そんな中で十分な栄養なんて行き届いている筈はなく、“十分に栄養不足”と言ってしまえる状態なんだけど。


 触れた魔王の手は、そんなオレでさえ思わずぎょっとしてしまうくらい、見た目以上に華奢だった。

 まるで栄養失調の餓鬼であるところのオレでも、簡単に折る事が出来てしまうんじゃないかと思う程に。

 実際の魔王がどんな戦闘を行うかは分からないけど、此の手が大振りな剣を振り回している姿は、なかなかに想像し難いものがあるし、村1つ簡単に破壊出来るなんてとてもじゃないけど思えない。


 それでいて、矛盾する様だけど。

 か弱い印象を抱かせつつ、思い剣に苦戦するイメージさえ簡単に浮かぶのに。

 不思議な事に、其処に“ひ弱”という印象は無かった。


 掴んだ手は酷く華奢であり、酷く冷たい。

 それでも其の手を通して十分に伝わってきた。此の人は魔王に相応しい器だと。此の人は正しく魔界を統べるに相応しい、ついて来た者に後悔させないだけの存在だと。


 あの威圧感も伊達じゃないって事か。

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