セミオーダー人材店
生島いつつ
序章
プロローグ
皆様はセミオーダー人材店というお店をご存知でしょうか? 人権侵害が認められていない平成の日本で秘密裏に営まれている商売でございます。言わば奴隷商売とも言える畜生の営みですが、空っぽの生身の人間に存在意義と能力を付して出荷するのであります。
申し遅れました。私がそのセミオーダー人材店で店主をしておりますモグラと申します。現在、店内の研究室で博士とお仕事中であります。
博士というのはこの商売を営む上で欠かせない技術者であります。彼が開発したソフトによって人材のセミオーダー販売が成り立っております。
するとこの時、その博士が深刻そうな声を出しました。
「モグラ、このニュース」
研究室のデスクでパソコンに向いている博士が私に問い掛けました。私は博士が目でパソコンの画面を示しているのがわかったので、博士の斜め後ろに立ってパソコンを覗き込みます。そこにはなんと無戸籍の女性らしき遺体が発見されたとのインターネットニュースが掲載されておりました。
「これ大丈夫か?」
博士にも心当たりがあるのでしょう。当然と言えば当然です。無戸籍のため遺体の氏名は出ておりませんが、状況が状況なので理解しているようです。
しかし無戸籍なのに身元不明と報道されていないのは些か滑稽にも思います。しかも発見した人物が発見場所を明かしておりません。いえ、正確に言うと発見者は発見場所を偽って届け出ております。
「そうですね。ではオーナーに報告に上がることにします」
「そうだな。それがいいだろう」
この場での話がまとまって私はオーナーと連絡を取り、本日窺うことのアポイントを取り付けました。オーナーはとても忙しい身なので、アポイント一つ取るのも大変です。当日にも関わらずアポイントが取れたのは珍しくあります。
「報告前にできるだけ情報を集めておきましょう」
「そこにいる奴のこともな」
「そうですね」
研究室の隅で縮こまっている人物を見て博士が言うので、私はこの人物のことも報告事項であると思い至ります。この後、私と博士はあらゆる手段を駆使して時間一杯情報収集に努めました。
これは当店を利用されたとあるお客様のお話です。それはもう半年以上前になります。春の陽気を感じさせる季節でした。キャッチセールスで店の外に出ていた私はそのお客様を初めて目にしたのです。
その時は少しばかりお酒が入っているようでしたが、足取りはしっかりしておりました。出てきたお店が風俗店だったことと、何やら生活に不満があることを察知してお声掛けしました。これはそのお客様にまつわるエピソードです。
それではそのお客様の物語をどうぞご覧下さい。
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