第384話 第三次世界大戦 ~戦火の拡大~

 米軍と自衛隊の第二波は、到来しなかった。それは朝鮮半島から発射された、ミサイルによる影響であろう。

 東京、沖縄、神奈川、そして太平洋に向かって飛びたったミサイルに、自衛隊を始め太平洋艦隊は対応せざるを得ない。

 予想された事とはいえ、テロリストを相手にしている場合では無くなったのが実情である。


 では、ミサイルを迎撃出来るのか、そのシステムを日本が有しているのか。答えは、半分だけ正解である。

 ミサイルの迎撃システムは保有しているが、その効果は不明。恐らく、発射されてから迎撃態勢に移るまでの間に、ミサイルが弾着するだろう。


 大陸を渡る位に距離が有り、相応の時間がかかるなら話は別であろうが、日本海を超える程度なら大した時間はかからない。

 その意味であれば、ハワイを離れ航行中の太平洋艦隊も、もたもたしている場合ではない。


 本来であれば、日本に対し甚大なダメージを与えられたミサイル攻撃。それは、米軍に対しても大きな被害を齎すはずであった。

 二柱の神がいなければ。


 二柱の神にとって米軍と自衛隊は、単に跳ね除けただけに過ぎず、敵ですらない。そもそも、攻撃を受けなければ相手にする必要もなかった。所謂、平和を願い行動をしているのに、邪魔をするだけの存在である。

 だからと言って、見捨てる訳も無い。日本と言う地は、二柱の神にとっても大切な者が暮らす国なのだ。


「おい冬也。直ぐに上がって来い! あれはみさいるとかいう、兵器だろ? こっちに向かって飛んで来やがる。軌道から考えると、日本の何か所か。それとちょっと離れた場所だな」


 その言葉が届くや否や、冬也は重力を制御し、アルキエルがいる場所まで浮かび上がる。神気のパスで思念は共有している。アルキエルの意図を感じ取った冬也は、直ぐに迎撃の指示を出した。


「核だったら、やべぇからな。空間を作って、放り込む。そこで爆発させれば、問題ねぇだろ」

「けっ、てめぇが空間だと? 笑わせんじゃねぇよ。そういうのは、苦手じゃねぇのかよ!」

「苦手だからって、やるしかねぇだろうが! だから力を貸せよアルキエル!」

「仕方ねぇ。おれが途中まで手を貸してやる、この際お前も覚えやがれ!」


 冬也とアルキエルは、共に神気を高めて意識を共有する。目的は、四か所に向かうミサイルを、亜空間に収納する事。

 冬也とて、やれば出来ない事はない。大雑把な性格に見えて、意外と小器用である。しかし、空間制御に関する事が、上手くないのだ。

 空間を作ったはいいが、入り口が開きっぱなしであれば、全く意味を成さない。若しくは、制御に失敗し、ブラックホールになれば、目も当てられない。

 だから、アルキエルに助力を請うた。


 アルキエルは暴言を吐きながらも、少しワクワクしていた。

 弾着するまで、あと何秒も無い。そんな中で、緻密な作業を行い、多くの命を救おうというのだ。間に合うか、間に合わないかの瀬戸際でのスリル。それを楽しんでいるのだろう。


 日本の各所に放たれたミサイルは、一発だけではない。数発ずつが、各所に飛んでいる。これは、警告の意志を超え、完全に破壊を目的としている。

 一発でも弾着すれば、相当の被害者が出る。それが数発であれば、都市が壊滅する。更に核であれば、後々にまで多大な悪影響を及ぼす。


 弾着させる訳にはいかない。その一心で、冬也は亜空間を開く。それに合わせて、アルキエルが制御を行う。開いた空間は四つ、冬也なら一つ制御するのに精一杯であろうが、アルキエルは慣れている。四つだろうが、五つだろうが、制御だけなら簡単と言わんばかりである。

 

 弾着まであと一秒の所で、入り口がミサイルの軌道上に開けられた。そして、ミサイルは全て亜空間へ吸い込まれる。しかしそれで終わりにはならない。

 アルキエルは、しっかりと四か所の入り口を閉じる。完全に入り口が閉じられた事を確認し、冬也は亜空間に閉じ込めたミサイルに、神気の衝撃波を当てて爆発させた。


「なんだよ、やりゃあ出来るじゃねぇか。もうちっと、ハラハラさせてくれた方が面白かったがなぁ」

「うるせぇよアルキエル。俺は、制御が苦手なんだ。いまいち理解が出来ねぇ」

「そりゃあ、てめぇが馬鹿だからだろ。こればっかりは、ペスカの言う通りだな。知ってるのと知らねぇのじゃ大きな違いが有る。てめぇは、先ず頭の使い方から学べや!」 


 談笑しながらも、アルキエルはミサイルの第二射を待っていた。しかし、遠目で眺めても、中々飛んでくる気配がない。

 その理由は、地上で衛星放送を見ていた遼太郎から齎された。


「おい、お前等! 降りて来い! ロシアが中国と朝鮮に攻め込んだ!」


 戦況は刻一刻と変化する。ただこの変化も、定められた事なのだろう。

 朝鮮から日本に対するミサイル攻撃。それを理由にロシアが、中国、北朝鮮、韓国の三国に宣戦布告を行い、攻撃を開始する。

 ロシアの行動に合わせて、米国が日米安保を盾に、三国へ宣戦布告を行う。この瞬間から、太平洋艦隊の標的は、日本の高尾ではなく、アジアの三国となる。


 米国の戦線布告に乗じる様に、日本は憲法九条を破棄する。嘉手納からは、高尾を攻めた何倍もの戦力が、飛び立っていく。厚木からも同様に戦闘機が飛び立つ。

 米軍と自衛隊の混成部隊が、アジア大陸に向かって侵攻を開始した。


 神二柱の働きにより、ミサイルによる被害は出ていない。それはただの口実であり、攻撃の意思が有ったと、みなされるだけで充分である。

 全ては定められた行動なのだ。七十年以上に渡り、戦争を放棄して来た日本が、戦争に踏み切った事も。


 日本の国民は、戦争に納得したのか。それは賛否両論であろう。しかし自分の命が狙われて、黙っている人間がこの世界のどこにいる。

 ミサイルが発射されてから数分で、日本に届く。Jアラートが警告しても、避難している暇はない。仮に何処かの金持ちが、自宅にシェルターを作っていたとしても、自宅から離れた場所にいれば意味はない。


 人的被害を無くす方法は、何時ミサイルを撃つかを決めさせ、規定の時刻までに避難を完了させるしかない。


 何時に撃つんで、いいですか?

 わかりました、それまでに避難させます。

 避難は完了しました、撃って構いませんよ。

 了解です、じゃあ撃ちますね、よろしく。

 

 そんな戦争があってたまるか。

 ミサイルが飛んでくるのがわかっていたら、避難と同時に迎撃の準備を整えるべきなのだ。そして、確実に迎撃されるのがわかっていて、ミサイルを撃つ馬鹿な国はあるまい。

 仮にそんな方法で、ミサイル攻撃を受けたとて、被害がゼロではないのだ。建物は破壊され、経済にも影響を与えるだろう。

 その損害はどうする。経済援助から引いて起きますとでも言うのか? 馬鹿馬鹿しいにも程が有る。


 警告音が鳴り響いた瞬間、ミサイルが弾着する周辺地域に住む人々は、恐怖に慄き死を覚悟した。当然だ、逃げる事は出来ないのだから。

 また、理由は不明だが、ミサイルが消失した。そんなニュースを見て、腰を抜かした者は多かろう。


 憲法九条を誇りにしていた日本人も多いはずだ。しかし、誰もが見て見ぬ振りをするしかなかった。国民の怒りは、訳の分からぬテロリストより、国外に向けられた事は確かであろう。

 

 アジアでも戦争が始まった。この時点でロシアに求められたのは、二つの行動であった。

 一つは、旧ソから独立した国々に、戦火を広げる事。もう一つは、ドイツへの侵攻である。既に内紛が起きていた東ヨーロッパ各国に戦火を広げる事は、そう難しい事ではなかった。

 そしてドイツの侵攻に関しては、通り道になるポーランドやチェコを取り込んだ。

 

 こうして東ヨーロッパが戦場となる。これをきっかけに、イタリアはスイスに侵攻を開始し、スペインはポルトガルに侵攻を開始した。そしてトルコは、元々元々紛争の絶えなかった中東諸国を尻目に、南欧諸国に向けて侵攻する。

 北欧の三国は連合し、ロシアの侵攻を止める為に南下を始めた。戦争の拡大に巻き込まれ、オランダやベルギー等もドイツに侵攻を開始する。


 地中海を隔てたアフリカでも、戦争は広がっていく。エジプトは、長年内戦を続けていたスーダンへ。これをきっかに、紛争多発地域であったアフリカに、再び火が付く。

 

 戦争の空気は瞬く間に広がり、イラン、イラクからインドへ、そして東南アジアも戦火が広がる。

 遠くアメリカ大陸では、メキシコを中心とした紛争が、コロンビア、ブラジル、チリ、アルゼンチンへと広がる。

 

 既に誰を相手に戦っているのか、何が目的かもわからずに、人々は殺し合う。世界中に怒りが満ちる。世界中に悲しみが満ちる。銃声と慟哭は止む事が無い。

 下らない管理者の下らない裁定で、無垢な命が奪われる。定めに従い殺し合う事が、本当にこの世界に必要な事なのか。これは、もう止められないのか。


 ただ確実に言える事が有る。多くの犠牲の上に立つ平和は、長続きしない。そして、下らない運命を強いた管理者達が無くならない限り、戦争は終わらない。

 そして、管理者達の前には、一柱の神が立ちはだかる。全ては、一柱の神に託された。

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